八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

ダム建設予定地のある相良村の現村長と前村長へのインタビュー記事

 川辺川ダムの建設予定地は熊本県の相良村にあります。
 7月の球磨川の水害以降、流域の首長の多くが川辺川ダム建設に賛成の意見を表明する中、清流・川辺川の恵みを受けてきた相良村では、前村長もダム建設に否定的です。川辺川ダム計画は地域の人々を長年分断し、苦しめてきました。お二人のインタビュー記事からは、この間の球磨川の治水対策における国の無策、川辺川ダムについて政治的な判断で180度方針を転換した熊本県知事への不信感が伝わってくるようです。

◆2020年11月17日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASNCJ6VB4NCGTIPE00D.html
ーダム計画の前にできることを 吉松啓一・相良村長 熊本ー

 ――蒲島郁夫知事が球磨川水系流域の市町村長らに意見を聴く会では、宅地や堤防のかさ上げ、遊水地などを要望しました。

 「豪雨前から要望していました。しかし下流域と違い実現していないところがほとんどです。住民は不満をもっています」

 ――自身の考えは。

 「村には(川辺川ダム計画に)賛否があります。迷っている人もいます。村民の考えが全て。ダム本体の建設予定地だからこそ、判断には慎重にならざるを得ません」

 「村民は川とともに生活しています。小学生は登下校で川を毎日見ています。そうやって育つから、自然の豊かさや脅威、恵みは染みついてわかっています。豪雨で犠牲者が出なかった理由はそれだと思います」

 ――2009年に民主党政権が川辺川ダム計画を中止した後、国と県、流域市町村はダムによらない治水を検討してきました。

 「机上の話で終わってしまいました。何も実行されていないのに、(ダムによらない治水の)効果がないというのはおかしい。村は10年間何も変わっていません。まずはできることをしてほしいのです」

 ――06年に当時の矢上雅義村長が川辺川ダム計画反対と利水事業不参加を表明し、流域市町村でつくるダム建設促進協議会に脱会を通知しました。08年には当時の徳田正臣村長が計画を「容認しがたい」と述べました。その後、蒲島知事は計画の「白紙撤回」を表明しています。当時の村長の判断をどう考えますか。

 「そのときの考えということでしょう。ダム建設のため60世帯が移転しました。未買収地の強制収用手続きに入るよう国に陳情した歴史もあります」

 ――計画公表から半世紀が経ちました。

 「人も自然も変わりました。当時の計画そのままでは誰も納得しません」

 「みなさんが言うのは清流を守ってほしいということ。蒲島知事から治水の方向性が示されれば、清流が守られるのか、村民の要望が守られるのかを県に問いたいと思います」(聞き手・棚橋咲月)

◆2020年11月17日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/664883/
ー分断の歴史繰り返すな ダム建設に反対した前相良村長 徳田正臣氏ー

 2008年8月、熊本県の蒲島郁夫知事に先立って川辺川ダム建設への反対を表明した前相良村長の徳田正臣氏(61)が西日本新聞のインタビューに応じ、ダムの治水効果を認めた上で「賛成、反対で地域が分断されるマイナス面のほうが大きい」と指摘。河床掘削や堤防かさ上げなどダム以外の対策を進めるよう訴えた。

 -08年3月の初当選時は「ダムへの賛否は中立」との立場だった

 「計画当初の多目的ダムから発電や利水が外れ、もともと費用対効果には疑問を持っていた。だが村長として、いったんゼロから再考して結論を出そうと考えた。過去の災害や気候変動の状況などを踏まえて、100年後の人吉球磨地域にとってダムは無いほうが良いという結論になった」

 -豪雨後に国土交通省が出した「川辺川ダムがあれば人吉市の浸水域を6割減らせた」との検証をどうみるか

 「ダムを造る当事者である国交省の検証では、客観性があるとはいえない。地域を納得させる立証責任が国にはあるのに、これでは不十分だ」

 「ダムに一定の治水効果があることは認めるが、川辺川ダムだけで命を守れるとは思わない。今回の豪雨では、川辺川以外の支流域でも相当な雨が降った。ダムで洪水を食い止めるというのだったら、川辺川以外の支流にもダムを造らないといけない」

 -ダム計画中止後、国や県、流域首長でダムによらない治水対策を協議してきたが、対策は進まなかった

 「国が出してきた非ダム治水案は工期が50年前後かかり、事業費が1兆円を超えるようなものもあった。『国は無理な案を出して、ダム建設に誘導したいのかな』と当初から疑念を持っていた」

 「国や県には12年間、川辺川の堤防かさ上げや河床掘削を再三要請してきた。掘削はある程度進んだが、堤防は手つかずだった」

 -ダム以外に、できる治水対策とは

 「住民の防災意識を高めるようなソフト対策を進めてほしい。自治体の避難勧告、避難指示のタイミングも検証すべきだ。今回も前日から大雨が予想されており、もっと早く避難勧告や指示を出せたはずだ」

 「山地の多い人吉球磨地域では、治山も重要。林地に残された材木が豪雨で流れて橋に引っかかり、越水して水に漬かった集落もある。木造住宅の推進など国産材を活用する施策を進めてほしい」

 -川辺川ダム計画ができてから、建設予定地の相良村でも約60世帯が村内外に移転するなど翻弄(ほんろう)されてきた

 「流域はダム賛成、反対で分断されてきた。再びダム建設に振り子が振れれば、また分断の歴史が繰り返されると懸念している」

 (聞き手=中村太郎)