さる11月19日、熊本県の蒲島郁夫知事は、自身の「白紙撤回」要請によって2009年に中止された川辺川ダムを「流水型ダム」として建設するよう国に要請すると表明しました。
翌20日、蒲島知事はさっそく赤羽一嘉国交大臣と会談、赤羽大臣は「「しっかりとスピード感を持って検討に入りたい」と応じた」(21日付け読売新聞)とのことです。
NHK熊本放送局は、蒲島知事がダム推進を表明した19日、島本幸宏九州大学教授(河川工学、国交省OB)へのインタビュー録画を流しました。このインタビューで島谷さんは、7月の球磨川の氾濫で最も被害の大きかった球磨川の中下流部では仮に川辺川ダムがあったとしても、あまり効果がなかったこと、川辺川ダムの上流で7月の球磨川中流規模の豪雨が襲った場合、ダムが緊急放流により危険性を高めた可能性があると指摘しています。
◆2020年11月19日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20201119/5000010600.html
ーダム リスク指摘する専門家もー
川辺川ダム建設計画に対し明確に賛否が分かれる中、ダムの効果を認めながらもそこには限界もあり、逆にリスクが生じる可能性があるとする専門家もいます。
ダムのリスクとは一体どういうことなのか、取材したVTRをご覧ください。
(以下、録画のテープ起こし)
——
河川の治水を長年研究してきた九州大学の島谷幸宏さんです。
島谷さんは川辺川ダムの効果を検証する上で、いくつかのデータに注目しています。
こちらは八代海に流れ込む球磨川水系の図です。
川辺川ダムは最大支流、川辺川に計画されています。
ここに7月3日10時から4日10時までの24時間に降った雨量を重ねます。
赤が濃いほど雨量が多かった場所。
最も多かったのは、球磨川中流の球磨村や八代市坂本町の付近です。
こうした局所的な豪雨がダムの下流を襲った場合は、(ダムの)効果が少なかったと島谷さんは考えています。
たとえば、6メートルを超える浸水があった坂本町。
川辺川ダムがあった場合でも、国は1.2メートルほどしか水位が低下しなかったとシミュレーションしています。
島谷教授「ダムがあるということは、そのダムより上流に降った雨を減らすことができるということなので、それ以外のところに降った雨は調整できないということになります。ですから、雨の降り方によって、そのダムが非常に効果を発揮する時と、効果をそれほど発揮しないことがあるんです。」
島谷さんがもう一つ気掛かりなのが、ダムの緊急放流です。
ダムは貯水量の限界に近づくと、ダムの損傷を防ぐため、緊急放流を行う必要があります。
7月の豪雨では、川辺川ダムの建設予定地上流は青から黄色、200㍉から400㍉と、中流にくらべると雨量は多くありませんでした。
そうした状況で、川辺川ダムは5700万㎥の水を貯めたと、国は推定。
それによって下流の水位を低下させ、人吉の被害を低減させたとしています。
しかし川辺川ダムでは、貯水量が7000万㎥に達すると、緊急放流を行うと計画されていました。
今回の豪雨では、その貯水量まで残り1300万㎥。
島谷さんは、もしも川辺川ダム上流を球磨川中流のような豪雨が襲ったら、緊急放流が避けられなかった可能性があると考えています。
島谷教授「やはり、人間がつくる構造物には一定の限界があるというのは事実ですので、(ダムの)容量を超えてしまうと(洪水調整)機能がなくなってしまうということは、ダムをつくったり、ダムの下流に住んでいる人は知っておくことが必要なんですね。」
2018年の西日本豪雨では、愛媛県の野村ダムが満水に近づき、緊急放流を実施しました。
「野村ダム始まって以来、このような状況になっております。」(放送のアナウンス)
ダム下流の肱川が一気に氾濫し、逃げ遅れた9人が犠牲になりました。
その時の野村ダムに流れ込んだ水量とダムから放流した水量の変化を表したグラフです。青が流れ込んだ水量、赤が放流量です。
深夜2時以降、ダムに大量の水が流れ込みましたが、赤い線の放流量は一定のまま、低く抑えられていました。これがダムがあった場合のメリットです。
ところが午前6時ごろ、ダムの貯水量が限界に近づいたため、緊急放流を実施。その結果、2時間ほどで放流量が急激に増加しました。下流の川の水位も上昇したと見られます。
7月の豪雨後、NHKが避難を始めたきっかけを尋ねたアンケート結果です。
最も多かったのが、「川の水位の上昇」、次いで「住宅の浸水」。身近に危険を感じてから避難を始める人が多い傾向が見られます。
こうしたことを踏まえ、島谷さんはダムが逆に住民へのリスクになる可能性もあると指摘しています。
島谷教授「川の水が目に見えて増える時から水が溢れだすまでの時間は短くなっているということがあるので、避難が間に合わないとか、そういうことが起こる場合があるということなんですね。」
地球温暖化の影響で、豪雨の激甚化がさらに進むと気象庁も予測する中、島谷さんはダムの限界も知っておくことが、命を守るために大切だと考えています。
島谷教授「ダムによってどこまで守れて、どこ以上になるとダムでは守れないということを前提にした地域づくりや避難行動が求められるということだと思います。」