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球磨川治水で人吉市に遊水地案 国が住民に提示

 国土交通省は昨年7月の熊本豪雨を踏まえた球磨川の治水対策として、中流域にある人吉盆地に遊水池を整備する計画を立てています。昨年の球磨川水害では、堤防が決壊した人吉市における死者が20人もいました。遊水池の候補地は、堤防が決壊した中神町です。

「国土交通省九州地方整備局によると、決壊は2カ所で発生。人吉市中神町馬場の右岸の幅約30メートルと、約1・4キロ下流に位置する同市中神町大柿の左岸の幅約10メートルで、現場付近の川はS字状にくねっている。」(2020年8月8日付け西日本新聞より)

 水害直後の報道によれば、遊水池の候補地となっている人吉市中神町の大柿地区は、50世帯が暮らす地域で、堤防は決壊したものの、犠牲者はゼロでした。球磨川の船頭であった自治会長の働きで、住民が早くに避難したためです。

 以下、関連記事です。

◆2021年7月21日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20200721/k00/00m/040/224000c
ー集落水没でも犠牲者ゼロ 元船頭、未明の決断 警報前に住民たたき起こす 熊本・人吉ー

(一部引用)
「川を知り尽くした元ベテラン男性船頭の呼び掛けにより市の指示を待たず住民が水没前に避難して、人命被害を免れた地区があった。男性は、堤防が決壊した中神町大柿(おおかき)地区の町会長、一橋(いちはし)国広さん」

 昨年8月21日付の朝日新聞によれば、大柿地区では水害の脅威を改めて実感した住民の中に、同じ場所での再建をためらう人が多かったそうです。このままでは集落がたちゆかなくなると危機感を抱いた自治会長の一橋さんは、近くの山の中腹へ地区全体で集団移転する計画を立てました。ほぼ全世帯から移転に同意する署名を得て、人吉市長や県議に支援を求め、市長は「安心して暮らせるよう前向きに検討する」と応じたということです。
 しかしその後、行政の支援の枠組みでは大柿地区の集団移転は無理であることがわかり、断念せざるをえませんでした。

〈参照記事〉「集団移転,、やむなく断念 熊本豪雨浸水被害、人吉市大柿地区」

(一部引用)
「防災集団移転促進事業」として行政が支援するのは、移転先の造成費用やライフラインの整備費など。自宅の再建費用は全額本人負担とされた。東日本大震災を例に示された移転完了までの時間は少なくとも5年。高齢者世帯が多い地区には受け入れ難かった。」

 水害発生から8カ月。集団移転が叶わないことになった大柿地区の住民は、現地での再建に汗を流す人々も多い中、遊水池の計画で再び翻弄されることになりました。

 関連記事を紹介します

◆2021年3月3日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/index.php/news/id131988
ー球磨川治水、人吉市に遊水地案 国が住民に提示ー

 昨年7月の豪雨を受けた熊本県の球磨川流域の治水対策で、国が人吉市中神町の大柿地区にある球磨川沿いの土地に洪水時、一時的に川の水をためる「遊水地」を整備する案を住民に提示したことが2日、分かった。

 国と県は、7月豪雨を受けた球磨川流域の治水策として、川辺川に建設する流水型ダムのほか、県営市房ダムの再開発、河道掘削などを組み合わせた「流域治水」を検討。遊水地整備もメニューの一つだが、人吉市内で具体的な整備候補地区が明らかになるのは初めて。

 約50世帯の大柿地区は、7月豪雨で球磨川の濁流が堤防を数メートル越え、全域がのみ込まれた。国は2月27日の住民説明会で、平常時は農地として活用する「地役権補償方式」と、地盤を掘り下げて貯水容量を確保する「掘り込み方式」の二つの遊水地整備案を提示。「測量調査に入りたい」と住民の理解を求めたという。

 3月2日、県庁であった県の復旧・復興本部会議で、木村敬副知事は「(国が)一生懸命、丁寧に説明したことで、早く対策を進めてほしい、という住民の声も多く出たと聞いている」と述べた。

 国、県、人吉市は大柿地区の対岸の中神地区でも、遊水地に関する住民説明会を4日に開く予定。(潮崎知博、隅川俊彦)

◆2021年3月4日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/739974215639023616?c=39546741839462401
ー遊水地候補「自宅再建、無駄に…」 熊本豪雨治水策に住民ら戸惑いー

 昨年7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川流域の治水策の一つで、あふれた水を川沿いの土地にためる「遊水地」の整備候補地を国が示した。候補とされた人吉市中神町の大柿地区は被災直後、集団移転を望んだが、今は別の道も模索中。国の提示に、住民からは戸惑いの声が上がっている。4日で豪雨から8カ月。

 約50世帯が暮らしていた大柿地区は全域が浸水。被災直後の昨年7月のアンケートでは約9割の世帯が集団移転を望んだ。しかし、人吉市が示した移転案は、予想以上の費用や時間がかかることが判明。アンケートを取りまとめ、市に伝えた地区の町内会長、一橋國廣さん(76)は「高齢者世帯が多く、受け入れ難かった」という。

 現在、地区を離れると決めた住民がいる一方、住み慣れた土地で自宅を修理し続けている人もいる。そうした状況の中で示された今回の遊水地整備案。一橋さん自身も仮設住宅に入居し、自宅のリフォームを進めてきたが、「今までしてきたことは何だったのか」と動揺を隠せない。

 大柿地区で説明会があったのは2月27日。国は遊水地の整備方法として、平常時に農地として活用する「地役権補償方式」と、地盤を掘り下げて貯水容量を確保する「掘り込み方式」を示した。

 整備が決まれば、移転を余儀なくされる可能性もある。住民からは「強制執行での立ち退きもあるのか」との質問もあった。同席した松岡隼人市長は「大事なのは、住民の思い」と述べたという。

 大柿章治さん(75)は修復した自宅で生活を再スタート。被災前に営んでいた温泉施設や農地の復旧を目指しており、「遊水地にするのかどうか行政は早く決断してほしい。造るのなら、これまで投じた費用が無駄にならないような補償が必要だ」と訴える。

 一橋さんは「早く説明してほしかった」。町内会長として住民の意見を取りまとめる考えだが、「先祖から受け継いだ家を守ってきた人も多い。簡単にはまとまらないだろう」と先を見通せない。

◆2021年3月5日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/740390064194535424?c=92619697908483575
ー遊水地による球磨川治水、人吉市で4分の1貯水 国交省想定ー

 昨年7月の豪雨で氾濫した熊本県の球磨川の治水策の一つで、あふれた水を一時的にためる「遊水地」について、国土交通省八代河川国道事務所は4日、遊水地による流域全体の洪水調節容量の4分の1程度を、人吉市の整備候補地2カ所にためる想定をしていることを明らかにした。

 国などが今年1月に示した緊急治水対策プロジェクトでは、球磨川流域に造成する複数の遊水地で計600万トンの貯水を計画。このうち人吉市では、右岸の中神地区で107万トン、対岸の大柿地区では35万トンためることを想定している。

 4日夜、中神地区(約600世帯)を対象に中原コミュニティセンターで開いた住民説明会で示した。

 説明によると、遊水地は平常時に農地として活用する「地役権補償方式」と、地盤を掘り下げる「掘り込み方式」の2案。同省は住民の理解を得た上で調査測量し、具体的な規模や貯水量を検討したいとした。住居の移転を伴う可能性も示した。

 説明会には住民45人が参加し、県と市の担当者も同席。住民からは「貴重な農地を失うのか。他の対策を考えるべきだ」「被災した自宅の修理を進めていいのか」などの意見が出た。同省は「まずは遊水地の候補地であることを説明した。今後も丁寧に説明する」と理解を求めた。

 説明会は冒頭を除き報道陣に非公開の予定だったが、住民側の意向で公開された。(中村勝洋、小山智史)

◆2021年3月4日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASP337DH5P33TLVB008.html
ー遊水地候補に人吉・大柿地区 国が住民説明会ー

  昨年7月の豪雨災害を受けて国と熊本県などがまとめた「球磨川水系緊急治水対策プロジェクト」の一環で、洪水時に田んぼなどで川の水をためて氾濫(はんらん)を軽減する遊水地の整備について、国が人吉市の大柿地区を候補地に想定していることが明らかになった。

 国土交通省九州地方整備局の八代河川国道事務所が先月27日、人吉市中神町大柿の約50世帯(約70人)を対象に地元説明会をした。場所を特定して地元への働きかけをしたのは初めてという。遊水地には、洪水時だけ水を貯留し、平常時は農地として利用できる「地役権補償方式」と、国が用地買収をして地盤を掘り下げ、より多くの水を貯留できる「用地買収(掘り込み)方式」の2種類があるなどの説明があった。

 大柿地区は、球磨川の堤防が決壊してほぼ全域が水没するなど、甚大な被害を受けた。いったんは集団移転の話も持ち上がった。住民は地区外の仮設住宅などに移り、現地では空き家が目立つが、一部に再建の動きもあるという。

 地元説明会の開催に協力した人吉市によると、住民39人が参加し、遊水地整備のため移転が必要になった場合の移転先や補償などの質問が出た。整備される場合も数年はかかると見られている。八代河川国道事務所の森康成・副所長は取材に、「早く計画を示してほしいとの発言もあった。治水対策のとっかかりとして、測量調査に同意していただき、住民のみなさんと一緒に考えたい」と話した。

 地元説明会は4日に大柿地区の対岸の中神地区でもある。(村上伸一)

◆2021年3月9日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/news/id138679
ー球磨村にも遊水地 国交省検討、12日に住民説明会ー

 昨年7月の豪雨災害を受けた熊本県の球磨川流域の治水策として、国土交通省が球磨村渡の地下地区と今村地区の一帯に、洪水時に水をためる「遊水地」の整備を検討していることが8日、分かった。12日に住民説明会を開き、規模や方式を具体的に検討するための現地調査に理解を求める。

 国交省八代河川国道事務所が8日、村内で計画中の治水策について村議会の全員協議会で説明。出席者によると、その一つとして遊水地案を示し、両地区を候補地に挙げた。川幅を広げる「引堤」も検討しており、説明会は13日にも他の地区を対象に開く。

 国などが今年1月に示した緊急治水対策プロジェクトは、球磨川流域に複数の遊水地を設ける計画。候補地としては既に、人吉市中神町の2カ所が明らかになっている。

 地下地区と今村地区は、中神町の下流の球磨川右岸に位置。村によると、豪雨に伴う球磨川の氾濫では計約50世帯のほとんどが全壊し、農地に大量の土砂が流入するなどした。

 遊水地は、平常時に農地として活用する「地役権補償」と地盤を掘り下げる「掘り込み」の2方式があり、用地買収や住居移転を伴う可能性もある。(小山智史)