八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「雨量1割増」国の治水計画見直し 1級河川整備 ダム、堤防や移住も

 国土交通省は利根川をはじめとする全国109の1級水系について、気候変動に伴う治水計画の全面見直しに着手したと報道されています。
 国が建設した八ッ場ダムの主目的の一つは、200年に一度程度の大規模な洪水に備えることですが、気候変動によりこれまでの治水計画では洪水を防げないということです。
 報道によればダムも選択肢に入っているようですが、ダムの治水効果はきわめて限定的である上、2500基以上のダムが建設されてきた日本列島には、もうダムの適地は残されていません。
 治水計画の見直しに関する国土交通省の以下の提言を見ると、ダムに関しては、既存のダムの操作方法や事前放流が課題となっているようです。

★国土交通省ホームページより「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」
 2018年4月に第一回会議が開かれた「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」は、これまでに七回開催され、今年2021年4月にまとめた提言とともに、各回の資料を以下のページに掲載しています。
 https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/index.html

〇【本文】気候変動を踏まえた治水計画のあり方(改訂)(PDF形式:669KB)
 https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/pdf/r0304/01_teigen.pdf

(ダムに関する記述を引用)
 「ダムにおける今後の気象予測等の精度向上に合わせた操作方法の検討や、遊水地における越流堤へのゲートの整備など、容量を効率的に活用することにより、洪水調節施設の防災・減災効果を向上させることも検討する必要がある。」(26ページ)
 「今年度の出水期から既設の利水ダムを活用した新たな運用(治水協定に基づくダムの事前放流)を開始したところであり、全国の 122 ダムで事前放流が実施(うち 63 ダムは利水ダム)されたところである。これらについて、より効果的な事前放流の実施等について検討を実施していくべきである。その際には、施設管理者との相互理解・協力の下で取り組むことが重要である。」(26ページ)

 関連記事を転載します。

◆2021年6月28日 上毛新聞、北國新聞、西日本新聞、愛媛新聞、沖縄タイムズなど(共同通信配信)
ー「雨量1割増」国の治水計画見直し 1級河川整備 ダム、堤防や移住もー

 国土交通省が、全国109の1級水系について、気候変動に伴う治水計画の全面見直しに着手した。平均気温が上昇する前提で、想定する雨量を現在の1割増しに設定。ダムや堤防などインフラ強化に加え、安全な場所へ居住を促す取り組みも進めるが、財政面や住民との合意など課題は多い。

▽想定超
 国は、水系ごとに治水対策の前提となる「河川整備基本方針」を定めている。過去にその流域で降った最大雨量を基に、100年に1回ほどの頻度で起こる豪雨時の「ピーク流量」を算定し、それに耐えられるような整備計画を立ててきた。
 しかし、近年は想定を上回る豪雨が相次ぐ。昨年の7月豪雨で氾濫した球磨川水系では、熊本県人吉市で「毎秒7千トン」と想定していたピーク流量を上回る「毎秒7900トン」を記録した。

 雨の降り方の変化は全国的に明らかで、1時間に50ミリを超える短時間強雨は、1976~85年には年平均226回だったが、2011~20年では334回に増えた。

 「気候変動が水害に影響する可能性は昔から指摘されていたが、近年はそれが現実に起きてしまっている」と国交省担当者は危ぶむ。

▽温暖化
  地球温暖化に関するパリ協定は、産業革命前と比べた気温上昇を2度未満にする目標を掲げている。近年確立された予測モデルでは、上昇が2度だった場合、降雨量は現在の1・1倍(北海道は1・15倍)になるという。

 国交省は、この降雨量を前提に、水系ごとに流量の見直しに着手した。5月から、三重、奈良、和歌山3県にまたがる新宮川と、熊本、大分、宮崎3県にまたがる五ケ瀬川の議論を開始。新宮川のピーク流量を1・26倍、五ケ瀬川を1・21倍に増やす案を検討している。

▽未知数
 想定流量が増えれば、堤防のかさ上げや川幅の拡張などが必要になる可能性もある。球磨川の支流・川辺川のように、過去に凍結されたダム建設計画が動きだすケースも出ているが、限られた財源の中、ハード整備には一定の時間が必要で、インフラのみに頼るには限界がある。

 今年4月に成立した「流域治水」関連法では、浸水の危険が著しく高いエリアの住宅建築を許可制とするなど、土地の利用規制に踏み込んだ。ただ、住民や事業者との合意形成が不可欠で、どこまで進むかは未知数だ。

 国交省幹部は「予算面にはどうしても制約がある。インフラ整備でカバーしきれるのか、それとも安全な場所への住み替えが必要なのか。地域ごとに議論を深めてもらう必要がある」と話した。