アルミ加工大手の(株)日本軽金属は、戦前から富士川に巨大水利権をもっていますが、このほど国土交通省は日軽金の水利権の見直しに着手したとのことです。
こうした動きの背景には、静岡新聞が富士川河口の駿河湾のサクラエビ不漁問題を追及する中で、上流の雨畑ダムの堆砂問題、河川環境の汚染、発電所による大量取水など、日軽金に関わる問題を次々とクローズアップし、富士川の環境問題が注目されてきたことがあります。
◆2021年9月1日 静岡新聞
https://www.at-s.com/sp/news/article/shizuoka/953550.html
ー日軽金の水利権縮小へ 1世紀ぶり見直し【サクラエビ異変 母なる富士川】ー
国の制度を使った売電が発覚したアルミ加工大手日本軽金属波木井発電所(山梨県身延町)が水利権更新期限から約1年半にわたり国の許可を得られないまま稼働している問題で、所管する国土交通省と日軽金が水利権の縮小や再編に向け協議に入ったことが、31日までの複数の関係者への取材で分かった。国は日軽金が富士川水系に持つ水利権全体の見直しも視野に入れる。
前身を含め大正期から富士川水系をほぼ独占してきた日軽金の“巨大水利権”に、1世紀ぶりにメスが入りそうだ。流域住民など関係者が注視している。
日軽金が同水系に持つ六つの発電所のうち最古の同発電所の水利権は、100年以上にわたり毎秒30トンの取水を認められてきた。同発電所は静岡新聞社の取材で、国の「固定価格買い取り制度(FIT)」を使った売電の実態が判明した。2020年3月末に更新期限を迎えたが国会で取り上げられるなど問題視され、許可が下りない異例の状況になっている。
日軽金は水利権の更新に向け、FITによる売電を前提に従来同様の毎秒30トンの許可を国交省に申請した。山梨県から照会を受けた地元3町のうち、早川からの取水の多さに反発した早川町が、おおむね毎秒1トンの水を追加放流するよう要求、南部町は地元に説明なく行われていた売電行為に疑義を投げ掛けた。山梨県は今春、富士川水系の流量増を国に求めた。国交省は自治体へのヒアリングなどを実施し協議を本格化させる方針。
一方、富士川本流には波木井発電所とは別の発電所に導水するえん堤などがある。それらで上限に近い取水が行われた場合、下流側の河川流量は増えない可能性がある。国交省関係者は「(同発電所と連動して)富士川水系の水利権全体を見直す必要がある」と述べ、他の発電所の水利権も再編の対象となる可能性を示唆した。
日軽金蒲原製造所は31日、波木井発電所の水利権見直しについて「申請中の内容につき、回答は差し控える」とコメントした。(「サクラエビ異変」取材班)
https://www.at-s.com/sp/news/article/shizuoka/953589.html?lbl=557
ー河川環境、憂う住民多く 日軽金、水利権縮小へ 再生の道のり険しく【サクラエビ異変 母なる富士川】ー
「時計の針が逆回転し始めた」―。日本軽金属波木井発電所の巨大水利権について見直しの機運があることに対し、そう感慨を語る流域住民がいる。富士川の場合、「河川維持流量」がないなど課題は山積。河川再生までの道のりは依然として険しいのが実情だ。
■住民からは請願
巨大水利権を巡り6月、富士宮市の林業家でサクラエビ漁師の男性(49)が流量増のための意見書採択を求める請願を行い、市議会は可決した。サクラエビ主産卵場に流れ込む富士川。男性は「日光が当たらない導水管を通ってきた水に栄養はない」と強調する。
日軽金は7月に市内で開いた住民説明会で、売電を否定したとも取られかねない回答に終始。資源エネルギー庁のガイドライン違反の可能性があり、「火に油を注いだ」との指摘も出た。
■維持流量なし
富士川の流量は、「渇水期でも最低維持すべき流量」である河川維持流量が設定されていない。下流では出水期、本流と同程度の取水が歴史的に許可されてきた。国の河川整備計画には「発電用水は富士川に戻されることなく駿河湾に放流されており中下流部の流量に影響を与えている」とあり、維持流量設定には、日軽金の巨大水利権の“壁”がある。甲府河川国道事務所幹部は水利権問題について「問題が『大きすぎ』て事務所単独では対応できない」とした。
■7割が問題視
富士川水系では、日軽金雨畑ダムの堆砂問題や、ニッケイ工業の凝集剤入り汚泥の不法投棄問題など、日軽金が河川環境に与えるインパクトは大きい。
静岡新聞社が昨秋、複数の職域に対して紙媒体などで実施したアンケートでは、流域600人以上のうち実に約7割が河川環境が「悪い」「非常に悪い」と答えている。
◆2021年8月26日 静岡新聞
https://www.at-s.com/sp/news/article/shizuoka/950765.html?lbl=557
ー日軽金、住民に売電否定? 「虚偽説明」と批判の声【サクラエビ異変 母なる富士川】ー
富士川水系に六つの水力発電所を保有し、波木井発電所(山梨県身延町)で得た電力を国の制度で電力会社への売電に回していることが明らかになっている日本軽金属蒲原製造所(静岡市清水区)が、このほど富士宮市で開いた住民説明会で出た質問に「得た電力は、工場で使用している」と文書で回答し、住民から批判が出る事態となっている。25日、関係者への取材で分かった。
国のガイドラインは売電事業を行う際の「地域住民への配慮」を掲げ、これに抵触する可能性がある。売電に関する説明はなく、参加者は「なぜ虚偽とも取れる説明に終始したのか」と憤りを隠さない。
説明会は地元市議の仲介で7月下旬の夜、市内の公民館で約1時間行われた。事業への理解を得るのが目的で約40人が参加した。会の最後に、用意された用紙に参加者が質問を記入し、後日同社が文書で回答した。同社は回答で、「アルミ製品の製造のため水利使用許可を運用している」などとし、売電の「否定」と受け取られかねない内容だった。
同社や行政への取材によると、日軽金は売電のため国の固定価格買い取り制度(FIT)の利用を2015年に申請し、認定された。更新工事がおおむね完了した19年に適用されたという。
同社の回答内容に資源エネルギー庁は関心を寄せる。担当者は事業計画ガイドラインを挙げながら「住民説明会を開いて実態への理解を促すことが求められている。努力義務であり、指導を行う場合もある」と述べた。
同製造所は取材に対し、説明会自体が「導水管の構造上の安全性についての説明が趣旨だった」と釈明。FITの利用を認めた一方で、売電による利益に関しては「回答を差し控える」と明らかにしなかった。
■国へは「認める」申請書
日本軽金属は、波木井発電所(山梨県身延町)の水利権許可更新期限を前にした2020年2月に国土交通省に提出した許可申請書で、19年4月から国の固定価格買い取り制度の適用を受け「電力を電力会社に供給している」とし、売電を認めている。
同社が要求した売電を前提にした毎秒30トンの水利権更新は、同年3月末の期限から約1年半にわたり許可が下りない異例の事態となっている。
国交省からの意見聴取を受けた山梨県は同年11月、身延、南部、早川の地元3町に意見を照会。南部町と早川町が富士川への水返還を要求し、南部町は「売電そのものを目的とした発電は河川法に抵触しないのか」と問題視した。
県も両町の意見を支持して国に富士川水系の流量増を求める回答を行った。 (「サクラエビ異変」取材班)