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八ッ場ダムの計画変更に関する群馬県議会での集中審議と採決

 昨日、群馬県議会では、「八ッ場ダムの建設に関する基本計画の変更について」と題して、八ッ場ダムの計画変更に群馬県が同意するかどうかを集中審議する会議が開かれました。
 審議の対象となる八ッ場ダムの計画変更は、完成年度を四年遅らせることなどを盛り込んだもので、8月に国交省が提示し、群馬県を含む関係都県に意見照会をしたものです。
 群馬県同様、他都県の議会でも同様の審議が行われています。八ッ場ダムの計画変更は2001年、2004年、2008年に続いて今回で四度目です。計画変更手続きがすめば、八ッ場ダムの完成予定年度は2019年度となります。なお、1986年に告示された八ッ場ダムの最初の基本計画では、ダムの工期は1967年度~2000年度とされていました。

 群馬県議会における昨日の質疑の模様を、群馬県の同意案に賛成の立場と反対の立場の質問に分けて、要約してお伝えします。
 (注)は当会によるものです。

~~2013年10月2日午前10時より 群馬県議会総務企画常任委員会~~ 

〈群馬県から、議案についての説明〉
 特定多目的ダム法第4条4項により、ダム計画を変更する際、国土交通大臣は関係都県知事の意見を聞くこととなっている。知事は議会の議決を経て意見を述べなければならない、と規定されている。

 計画変更の内容
 ①洪水調節方式の見直し 
 ②ダムの完成年度を平成27年度から平成31年度とすることである。

 地元県としての本県の事情、工期延長や経緯等を踏まえ、以下の意見を付して計画変更案に同意する。
 ①地元住民がこれ以上、将来の不安や不便な生活に苦しむことがないよう、ダム本体工事の工期短縮に努め、更なる工期延長は行わないこと。
 ②生活再建事業については、地元の意向を尊重するとともに、早期完成に努めること。
 ③現地における安全確保に万全を期した上で、総事業費の圧縮に最大限努力すること。

 群馬県の立場としては、地元住民の安全が最優先。ダムの完成年度の遅れは、民主党政権のダム中止方針により、実質的にダム本体工事への着手が遅れるためである。

 〈新計画による八ッ場ダム事業の工程表〉
 来年(2014年)10月~2019年9月 本体工事
 本体工事終了後、試験湛水 
 2020年3月八ッ場ダム完成予定
 
★質問(賛成の立場から):中村紀雄議員(自民)、臂泰雄議員(自民)

●八ッ場ダムの本体工事が着手されることは、筆舌に尽くしがたい苦しみを経てきた地元住民のためにも、治水・利水を悲願としてきた下流都県にとっても画期的なことである。
 八ッ場ダム事業については、地元住民の意思を尊重することが大切である。地元の人々の意見を聞くと、住民の生活再建はダム湖の完成が前提となっている。
水源県である本県の姿勢は、下流都県の人々の安全、命にかかわる。
・洪水調節においては、最近の異常豪雨などを踏まえたものか?
・八ッ場ダムの安全性についてはどうか?
・生活再建事業も本体完成の遅れに伴って遅れるのか? 
・今回の計画変更は、利水には影響はないのか? 
・地元への影響は?

●群馬県の回答:
 今回の計画変更は、降雨データを見直し、新しい流出計算モデルを使って計算した結果をもとにしている。この計算モデルはわが国の最高の学術機関である日本学術会議で評価をいただいているということである。八ッ場ダムは利根川・吾妻川上流の洪水調節機能の約6割を担う、非常に効果の高いダムである。
 (注:国交省が採用している流出計算モデルによる計算には、科学的な裏付けがないという指摘が国交省の有識者会議でなされ、雑誌『科学』でも取り上げられています。)

 ダム本体については、問題があるという話は聞いていない。国の責任において十分な地質調査を行って、安全なダムを造っていただくよう、群馬県として要望していく。
 (注:現計画ではダム本体工事費が当初より圧縮されていますが、ダム本体予定地の地質の問題を指摘する専門家もおり、安全性が確保されるか疑問視する声があります。)

 水源地域対策特別措置法の事業(水特法事業)、基金事業などの生活再建事業は民主党政権の間も継続している。これまで平成27年度完了をめざして進めてきており、平成31年度より前に完了するものもあり、それ以外の工事も平成31年度までには完成する。

 今回の計画変更は洪水調節と工期に関するものであるので、利水には影響はない。ダムが完成すると、「暫定水利権」が「安定水利権」に変わる。

 地元への影響として、ダム本体打設の際の騒音などが考えられる。こうした場合、群馬県は国と地元との間に入って折衝することになる。
 
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★質問(反対の立場から):後藤克己議員(リベラル群馬)、伊藤ゆうじ議員(共産)、角倉邦良議員(リベラル群馬)
(注:伊藤議員、角倉議員は総務企画委員会に所属していないため、委員外として特別に質問を許可された。委員外の議員による質問時間は10分以内との制限があった。)

 国交省は民主党政権のダム中止で工期を延長するという説明をしているが、ダム本体予定地を走るJRの付け替えがいまだに終わっていない。JRの付け替えは2010年度に完了の予定だった。民主党政権下でも線路の付け替えなどの関連工事は続けられてきた。現地で国交省の説明も受けたが、国交省はJRの工事が事業の遅れに全く影響していないような説明である。マスコミの報道も、国交省の説明をそのまま記事にしたようなものがある。JR付け替えの遅れに触れず、すべてダム中止方針のせいとするのでは、問題の本質を見誤るのではないか。

 今回の計画変更では事業費増額が入っていないが、新聞社によっては増額の可能性を示唆している。今回は下流の反発の強い増額を出さないが、後から出すことになるのは必至。事業費増額が含まれていないのは不自然であり、今回の計画変更に疑問を抱く。

●群馬県の回答:
 今年度行われるダム本体左岸上部掘削工事でも、JRに影響しないよう、落石防御柵を設けると聞いている。ダム本体用地は買収済み。平成31年度にダムを完成させるのに、JRの付け替え工事は支障ない。

 現在、地質調査を行っているところであり、地質調査の結果により(地すべり対策等が必要という)不測の事態が起きた時には、地元と国と県と協議し、県として(増額に同意するかどうかの)判断をすることになる。

●質問:
 県の説明によれば「不測の事態」ということであるが、不測どころか、蓋然性がきわめて高いのではないか。2011年の検証では国交省が地すべりと代替地の安全対策費が百数十億円必要と見積もった。試験湛水を行って、地すべりが起これば、対策工事で工期がまた延びる。大滝ダム、滝沢ダムでは5年、10年ダムの完成が遅れた。
 本当に地元住民の安全確保を最優先にするのであれば、群馬県は国に安全対策のための事業費増額を求めるべきではないか。地元住民の安全確保を最優先にし、事業費の圧縮に努めるというのは矛盾である。
 代替地の安全対策・地すべり対策費用については、新聞報道によれば調査をこれからするので事業費には見込んでいないと国交省は説明しているという。代替地の整備費用の赤字分、減電補償、流量維持の問題なども増額要因である。増額はないと国に確認しているのか?


●群馬県の回答:
ダム予定地周辺住民の安全に関わることなので、地すべりが起こらないよう、対策に万全を期するよう国に求めていく。情報の開示を国に求め、住民の不安がないように説明してゆく。
 代替地の安全対策・地すべり対策費用は現時点では調査が終わっていないので見込んでいない。代替地の整備費用は分譲収益で賄えるということである。減電補償額は事業費の残額でまかなうと聞いている。「流量維持」については、発電の申請が東電から国に出されているところであるので、現時点では見込んでいない。

●質問:4600億円の残額で本体工事を行うとのことであるが、本体工事費はいくらかかるのか?

●群馬県の回答:具体的な本体工事費については、国から聞いていない。

●質問:
 工事費の内訳を見せないで、サインを求めているということは、民間ではありえない。大沢知事は事業費が増額になっても、群馬県は負担しないと言っているが、法的には増額になれば負担しないというわけにはいかないのではないか。
 群馬県の姿勢は国に丸投げである。

●群馬県の回答:事業費を増額するためには改めて計画変更手続きが必要である。

採決:賛成多数 (反対:後藤克己県議)

委員長:萩原渉、副委員長:大手治之
委員:中村紀雄、腰塚誠、織田沢俊幸、臂泰雄(以上、自民)
   黒沢孝行、後藤克己(以上、リベラル群馬)
   岩上憲司(新星会)

 (注:反対意見を述べた伊藤ゆうじ議員、角倉邦良議員は、総務企画常任委員会に所属していないため、採決には加わっていない。)