国土交通省は球磨川水害を機に、球磨川支流の川辺川に巨大ダムを建設する計画を復活させました。
新たな計画では、「流水型」ダムと言われるものです。「流水型」では洪水で貯水する時以外、川の水が流れるため、国土交通省は河川環境への影響を軽減できるとしてダム建設への反発をかわす構えですが、球磨川流域で進められている「公聴会」では、「流水型ダム」への疑問の声が上がっています。
公聴会で意見を述べたある住民は、「流水型ダムでは清流を守れません」というスライドを映写して、「国は流水型ダムにゲートを付けるとしていますが、開閉にトラブルが発生した時には、治水と環境に支障がでます。」と問題提起をしたということです。
国交省は今年2月、下記の記事および国交省資料のとおり、流水型の川辺川ダムの放流口に開閉式の可動ゲートを設置する方針を固めました。
一般の流水型ダムは別名「穴あきダム」と呼ばれ、ダム底部の穴の大きさで下流へ流れる洪水の流量を自然調節するもので、開閉ゲートはありません。
川辺川ダムはこれまでにわが国でつくられてきた流水型ダムよりはるかに大きな規模になる予定です。現在最も大きな既設の流水型ダムである益田川ダム(島根県 貯水容量675万㎥ 2005年度完成)の20倍近く、現在建設中の足羽川[あすわがわ]ダム(福井県、総貯水容量約2870万㎥)の約4.5倍です。国交省は、巨大な川辺川ダムにおいてダム底部の穴の大きさで下流へ流れる洪水の流量を自然調節するのは到底無理と考えて、ゲート付きの流水型ダムにすることにしたようです。
下図の通り、ダムの底部と中段にゲートを設置して、下流に流す洪水流量をゲート操作で調節しようというものです。
下図=国土交通省ホームページより「令和3年度 第3回 球磨川水系学識者懇談会 令和4年 2月17日開催 資料4(4/6) スライド資料28ページ
しかし、これは机上で考えたことであって、巨大な流水型ダムにおいて実際の洪水時にこれらのゲートを上手に操作できるのか、わかりません。
巨大な流水型の「川辺川ダム」によって、清流・川辺川および球磨川の自然環境がどうなっていくのかだけでなく、洪水のコントロールが計画通りにきちんとできるのかどうかも不明なまま、川辺川ダムの事業が推進されています。
関連記事を転載します。
◆2022年2月12日 熊本日日新聞
ー川辺川の流水型ダムに開閉ゲート 国交省方針 洪水調節を強化ー
2020年7月豪雨で氾濫した熊本県の球磨川の支流・川辺川で建設を計画する治水専用の流水型ダムについて、国土交通省が、ダムの放流口に開閉式の可動ゲートを設置する方針を固めたことが11日、関係者への取材で分かった。ダムからの放流量を人為的に操作できるようにして洪水調節の効果を高める狙い。通称「穴あきダム」と呼ばれる流水型ダムでは全国でも珍しい仕組みになる。
ダムの放流口は、ベースとなる本体下部に加えて中段付近にも設置する。洪水時は下部のゲートを閉めて水をため、水位が上がれば中段のゲートを操作して放流量を調節する。
建設中の立野ダム(南阿蘇村、大津町)のような一般的な流水型ダムは比較的小型で、普段は上流から集まった水を本体下部の放流口から自然に流し、増水時は容量の範囲内で水をためて下流を洪水から守る。貯留型ダムのように水を常時ためないため水質は悪化しにくいが、治水効率は人為操作を前提とする貯留型ダムに及ばないとされる。
一方、川辺川の新たな流水型ダムは高さ107・5メートル、幅約300メートル、総貯水容量約1億3千万トンを予定し、多目的の貯留型ダムとして計画された旧川辺川ダムと同規模の大型ダムになる。国交省は既存の市房ダム(水上村)と合わせて球磨川の洪水抑制の“切り札”と位置付けており、河川の状況などに応じて放流量を変えられる開閉式ゲートを付けて治水機能を高めることにした。
国交省は、こうした流水型ダムの構造を含めた球磨川水系の河川整備について、17日に熊本市で開催する学識者懇談会で説明すると見られる。
川辺川の新たな流水型ダムは、20年7月豪雨災害を受けて蒲島郁夫知事が「命と環境の両立」を図る手段として国に整備を要請した。建設予定地は旧川辺川ダム計画と同じ相良村四浦の峡谷。国交省は建設に向けた環境影響評価(アセスメント)を進めており、本体着工の時期は未定。(高宗亮輔、嶋田昇平)