長崎県の石木ダム事業は「川棚川の洪水調節」と「佐世保市の水道用水の供給」を建設目的に掲げています。
近年、水害が多発していることから、ダムによる洪水調節が期待されていますが、概してダムによる治水効果は極めて限定的である上、川棚川支流の小川のような石木川にダムを建設しても、治水効果はありません。
そこで、焦点となるのがもう一つの目的と関係する「佐世保市の水需要予測」です。
この問題に関して、水道用水の供給を目的としたダム事業の実態を分析してきた嶋津暉之さん(元東京都環境科学研究所研究員)による解説を紹介します。
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右の図からも明らかなように、佐世保市の水需要は減少の一途をたどり、実績と水需要予測は年々乖離してきています。
佐世保市が実績とかけ離れた架空予測を行って、石木ダムの水源が必要だとしているおかしな実態について報告したところ、二つの質問がありました。
(1) 水道用水の需要が減ってきているのはなぜか。佐世保市のみに見られる現象なのか
(2) 佐世保市は水需要の実績とかけ離れた架空の水需要予測をなぜ続けるのか
それぞれの質問について、以下の解説をお読みいただければと思います。
(1)について
水道用水の近年の給水量の減少傾向は、日本の各地で見られる現象であって、
一極集中が進む東京都の水道も例外ではない。
水道用水の需要の減少傾向は、近年、日本の各都市で見られる現象です。水道事業者による漏水防止対策の推進、節水機器の普及、節水意識の浸透などによって、水道用水の需要が明確な減少傾向を示すようになりました。
日本で一極集中が進む東京都の水道用水も例外ではありません。東京都は今年はコロナ禍により、人口が少し減りましたが、昨年までは人口が増加の一途を辿ってきました。その東京都でも以下の図に示す通り、近年は確実に水需要が減ってきています。1992年度には600万㎥/日を超えていましたが、その後はどんどん減って2020年度は461万㎥/日まで下がりました。この間の減少率は25%にもなっています。
なお、東京都は同図の通り、利根川・荒川水系のダム等の水源開発事業に参画してきたため、大量の余剰水源を抱えています。2020年度の八ツ場ダムの完成で東京都は現在、270万㎥/日以上という極めて大きな余剰水源を保有しています。使いもしない大量の余剰水源は何の意味もないのですが、関東地方でも無駄な水源開発事業が続けられてきています。
(2)について
ダムができれば、架空予測は用無し(札幌市と神奈川県営水道の例)
佐世保市が水需要の実績を無視した架空予測を続ける理由は、石木ダム事業にあります。
このことに関して二つの実例を紹介します。
〇札幌市の例
当別ダム(貯水容量745万㎥)は北海道が建設したダムで、2012年度に完成しました。
札幌市水道がこの当別ダム事業に参画しました。当別ダムが完成するまでは、札幌市水道は給水量がどんどん増えるので、右図の通り、当別ダムの水源が必要だとしていました(2007年度予測)。
ところが、同図の通り、当別ダム完成後の札幌市水道の予測(2014年度予測)は大きく変わりました。新予測は給水量が漸減していくというもので、2035年度の一日最大給水量は従前の87万㎥/日から62万㎥/日へと、25万㎥/日もの大幅な方修正を行いました。
札幌市水道は当別ダムの完成により、架空予測を続ける理由がなくなったので、実績重視の予測に切り替えたのです。
〇神奈川県営水道の例
神奈川県営水道は国土交通省の宮ケ瀬ダム事業に参画しました。宮ケ瀬ダム(貯水容量19300万㎥)は2000年度に完成しました。
宮ケ瀬ダムが完成するまでは神奈川県営水道は右図の通り、水需要がどんどん伸びるから宮ケ瀬ダムの水源が必要だとしていました。ところが、宮ケ瀬ダムが完成すると、がらりと変わりました。水需要は今後は減っていく予測になったのです。
宮ケ瀬ダムの水源が必要だと言う必要性がなくなったので、神奈川県営水道の水需要予測、同図の通り、実績重視の予測に変ったのです。
この二つの例を見れば、佐世保市が水需要の実績を無視した架空予測を続ける理由は、石木ダム事業にあることは明白です。
石木ダム事業がなければ、佐世保市もまともな予測に変わるに違いありません。