八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

九州豪雨から4年、球磨川水系の遊水地など治水計画進まず

 4年前の2000年7月に球磨川流域を襲った九州豪雨は、休止されていた国の川辺川ダム計画を蘇らせました。かつて激しいダム反対闘争の象徴として並び称された「東の八ッ場、西の川辺」は、2020年に八ッ場ダムが完成し、国土交通省悲願の川辺川ダムも実現しそうな勢いです。
 九州豪雨ののちに策定された球磨川水系の河川整備計画は、その中心に川辺川ダム計画を据えています。しかし、現時点での川辺川ダムの完成予定は10年以上先の2035年度であり、ダム事業の通例通りなら、完成予定はさらに後ろ倒しになる可能性があります。

 気候沸騰化の時代、球磨川流域は毎年洪水の危険性がありますが、川辺川ダムも読売新聞の記事で取り上げられている遊水地も多大の犠牲を伴うため、いくら行政が強行突破しようとしても完了には膨大な時間がかかります。その間、巨大公共事業の利権で流域は分断され、復興途上の被災地では疲弊が進みます。

 河川行政に本当に水害を防ぐ気があるのなら、流域住民から要望のある瀬戸石ダム(株・J-POWER)撤去や川幅の拡幅など、より治水効果が確実で、流域住民の反発もない治水対策が実施されるはずですが、これらの対策は川辺川ダム推進には不都合なのか、国交省は触れようとしません。

◆2024年7月4日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20240704-OYTNT50025/2/
ー九州豪雨から4年、熊本県球磨川の緊治水対策が難航…かさ上げ工事の遅れや遊水地反対の署名もー

 2020年7月の九州豪雨で氾濫した熊本県の球磨川で国が進める緊急治水対策が、難航している。4日で発生から4年。中流部で宅地をかさ上げし、上流部で遊水地をつくる計画だが、かさ上げ工事の一部で半年以上遅れが生じ、遊水地の建設予定地からは反対署名が提出されるなど新たな課題が浮上。国は「予定通り対策を進める」としつつ、対応に苦慮している。(有馬友則、古野誠)

 球磨川中流部に位置する球磨村の 神瀬こうのせ 地区。浸水被害を受けた宅地のかさ上げが進む。同地区の建築業 上蔀うわしとみ 忠成さん(50)の自宅は昨年11月、かさ上げが終わった。上蔀さんは自宅を見ながら、「当たり前の生活に戻る第一歩ですね」と笑顔を見せた。

 豪雨による川の氾濫で、木造2階建ての自宅は約5メートル浸水。地区の郵便局や診療所は被災して閉鎖され、地区の世帯数も、約80世帯から約30世帯に激減した。
 上蔀さんは当時、両親と妻、小学生の息子2人と暮らしていたが、子どもの進学を考えて都市部に近い別の地区の災害公営住宅に入居した。「将来は生まれ育った古里に戻りたい」と自宅を解体せず、かさ上げすることにした。

 ただ、かさ上げの高さは約2・5メートルで、豪雨時に浸水した深さの半分にとどまる。地区全体でもかさ上げは最大約3メートルで、安全確保には流水型ダムや遊水地に貯水し、流量を減らす必要がある。「大雨が降ってまた洪水が起きれば、全て流されるのではないか」。上蔀さんは不安げに漏らした。

 緊急治水対策では、八代市、芦北町、球磨村の3市町村31か所で、宅地のかさ上げや特定の区域を囲む堤防「輪中堤」の整備が計画されている。かさ上げの事業完了は25年度末だが、着工は今年5月末までに17か所にとどまる。また今年3月末に完成を予定していた工事も未完成で、半年以上遅れる見込みという。

 遊水地の整備を巡っても紛糾している。整備を計画する錦町では2月、町内の農家を中心に計約1000人分の反対署名が町に提出された。

 「遊水地にするために耕してきたわけではない」。神瀬地区から約30キロ上流にある錦町 木上きのえ西地区。整備が予定されている水田を見つめ、署名を提出した中村隼人さん(74)はつぶやいた。あぜ道には「遊水地反対」と書かれた看板が立つ。

 町内では、木上西地区を含む球磨川沿いの3地区が候補地。国は、農地の周辺を高さ数メートルの堤防で囲み、洪水の際に球磨川の水を引き込んで貯水する計画だ。

 ただ、流木や泥などが流れ込み、農作物と農地に被害が出る恐れがある。国は、同種事例の補償額を参考に、地権者に土地代の3割を支払って利用するが、作物を育てる耕作者への補償はない。被災認定されなければ、復旧も自己負担となる場合があるという。

  町から下流の人吉市には、中村さんの娘も住み、豪雨で被災した。中村さんは「下流の人たちを守りたい気持ちはある」とし、対策自体には賛成の立場だ。しかし、「農家にとって農地は生活の原点。農地から収入を得て、子を育ててきた。河川の濁流を引き込むことは絶対に反対で、耕作放棄地を活用するなど他の方法があるはずだ」と訴える。

 遊水地などの整備が遅れれば、流域では氾濫の危険が高い状態が続く。国は今後も住民説明会を通じて理解を求める考えで、国土交通省八代河川国道事務所の中島忠副所長は「住民に寄り添いながら丁寧な説明を続ける。出来るだけ早く事業を進めたい」と話した。

412人なお仮設
 九州豪雨で熊本、大分、長崎、福岡、鹿児島の九州5県の死者・行方不明者は81人に上り、約1万4000棟が住宅被害を受けた。被害が集中した熊本県では今なお217世帯412人が仮設住宅などで仮暮らしを続ける。ピーク時の1割前後まで減ったものの、引き続き住まいの再建が課題となっている。

 相次ぐ豪雨を踏まえ、国や熊本県はダムや堤防の建設といったハード面の施策と、防災訓練・教育といったソフト面の対策を組み合わせ、流域の自治体、企業、住民らがともに水害軽減を目指す「流域治水」を掲げた。その柱の一つとして、国は球磨川の支流・川辺川で流水型ダムを計画している。

◆2024年7月4日 テレビ熊本
https://www.tku.co.jp/news/?news_id=20240704-00000014
ー7月豪雨から4年 球磨川で鎮魂の祈り【熊本】ー

 災害関連死を含め死者・行方不明者69人を出した2020年7月豪雨から4日で4年です。被災地は鎮魂の祈りに包まれました。今も400人余りが仮住まいを余儀なくされていて、被災地の復旧・復興はまだ道半ばです。

【球磨村の自宅が浸水被害にあった 高瀬弦子さん】
「やっぱりここに来たらその時のことが思い出されて、ここの方が亡くなった状況をいろいろ聞いたが、本当、涙が出る思いで前(豪雨)のことを思い出した」

 線状降水帯が発生し球磨川が氾濫するなどして甚大な被害をもたらした2020年7月豪雨。

 県内では災害関連死を含む67人が犠牲となり、いまも2人が行方不明となっています。

 あの日から4年。4日朝の球磨川は梅雨入り後の大雨の影響で茶色く濁っていました。

 球磨村一勝地にあるJR肥薩線・球泉洞駅の前では8時半のサイレンに合わせて地元のラフティング協会のメンバーらが球磨川に向かって黙とうし、花を手向けました。

 球磨川の氾濫によって駅前にあった2軒の商店は建物ごと流され、川口 豊美さんや姉の牛嶋 満子さんなど計5人が犠牲となりました。

 この場所は豪雨の前まではラフティングの急流コースの終点となっていて、親交のあったメンバーらが鎮魂の祈りを捧げました。

【球磨川ラフティング協会 渕田 拓巳 代表理事】
「この水害を経験したことを、これからラフティングで来るお客さんたちにも話して、水害ってこんなに恐ろしいものなんだと伝えながら、防災教育もラフティングを通してやっていきたい」

 また、現場には遺族も訪れ、祭壇に花を手向け手を合わせていました。

◆2024年7月5日 朝日新聞
https://news.goo.ne.jp/article/asahi/nation/ASS744VX7S74TLVB009M.html
ー「水害の怖さを伝えたい」 熊本豪雨から4年 各地で追悼ー

 災害関連死を含めて県内で67人が亡くなり、2人が行方不明になった熊本豪雨から4日で4年。被災地では各地で祈りが捧げられた。
     ◇
 流域で50人が亡くなった球磨川。4日、朝から夏の強い日差しが降り注ぐ一方、2日前までの大雨で茶色い水がしぶきをあげて流れていた。それをはるかに上回る濁流が襲った「あのとき」を思い出しながら、各地で祈りが捧げられた。
 午前8時半、不通が続くJR肥薩線・球泉洞駅前にラフティング協会の11人が整列し、サイレンにあわせて黙禱(もくとう)した。

 豪雨前、ラフティングのゴール地点だった。亡くなった姉妹が営んでいた商店は、ラフティングを終えたお客さんがパンやジュースを買って、一息つく場所だった。
 協会代表理事の渕田拓巳さん(47)は「水害の怖さや、豪雨のときはどうすればよいか、私たちはラフティングを通じてお客さんに伝えたい」。

 午前10時。人吉市の第三セクター「球磨川くだり」の川下り船発船場では、社員11人が黙禱(もくとう)。その後、菊の花を流した。

 今年、13年ぶりに船頭に復帰した豊原彰さん(38)は4年前、発船場が濁流にのみ込まれ休業したときはショックだった。「もう川下りはできなくなるのでは」。しかし、仲間の奮闘で復活。「再建のお役に立ちたい」と、この世界に戻った。「人吉復活のシンボルになるよう、がんばりたい」

 午前11時。球磨村神瀬地区の信証寺では、地区の住民が自主的に続けている追悼法要が、今年も営まれた。特別養護老人ホーム千寿園で亡くなった5人を含め、地区ゆかりの8人の犠牲者の名前が読み上げられた。

 その後、近くの川内川で、「花おくり」として黄色の菊と赤いカーネーションを流した。

 自宅が水にのみこまれ夫を亡くした宮崎佳洋子さん(74)は「あの日のことは今も忘れない。家があった場所が悪かったと思うようにしています」と話した。

 母を亡くした川浪美江さん(55)は毎年、この法要に熊本市から参加している。「地域で追悼していただいてありがたい。続く限り、通いたい」

 2020年7月4日、球磨川流域は線状降水帯の影響により各地で氾濫(はんらん)が起き、広い範囲で浸水被害が生じた。仮設住宅に住む人はピーク時に比べて1割以下まで減ったが、いまも217世帯の412人が身を寄せる。(今村建二)