国土交通省関東地方整備局は昨年7月に開催した第六回八ッ場ダムモニタリング委員会の資料をホームページに公開しました。
以下のURLあるいは表紙画像をクリックすると、資料の全ページが表示されます。
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000906284.pdf
この資料によれば、八ッ場ダムのモニタリング調査はダム湛水による環境変化を把握することを目的としたもので、八ッ場ダムを管理する国土交通省利根川ダム統合管理事務所が2016(平成28)年度~2023(令和5)年度の7年間実施しました。今(2024)年度は最終報告書を作成し、フォローアップ調査に移行する年に当たります。
モニタリング調査はフォローアップ調査の一環として、調査の開始段階(試験湛水開始前)において通常のフォローアップ調査より詳細に環境変化等を分析・評価するものとされており、専門家の意見を聴くモニタリング委員会も開催されてきました。委員8名の名簿は第一回モニタリング委員会の資料「八ッ場ダムモニタリング委員会規則」(2ページ)にあります。
〈八ッ場ダムモニタリング委員会(第6回)配布資料の目次〉
1.モニタリング調査の概要 2ページ~5ページ
2.モニタリング調査結果 6ページ~95ページ
3.総合評価 96ページ~125ページ
4.八ッ場ダムフォローアップ調査計画(案) 126ページ~143ページ
5.八ッ場ダムモニタリング調査全体工程 144ページ~145ページ
—–
配布資料は全体として、ダムによる環境変化を実際より小さく記述しているように思われます。川の流れを遮り、広大な土地を貯水池に沈め、周辺の多くの山を切り崩し、沢を埋め立てたダム事業は環境破壊であることは自明ですが、調査結果の記述は環境変化がごく僅かで、むしろ好ましい変化が起きていることでマイナスを埋め合わせているような印象を受けます。また、画像や説明が黒塗りになっているところがありますが、写真を見ただけで場所がわかるようなものまで黒塗りになっており、はたして環境への配慮のために必要なマスキングなのか、疑問に思われる個所もあります。
八ッ場ダムが建設された吾妻川の上流域は、わが国有数の高濃度域です。ヒ素が八ッ場ダムの湖底に堆積することにより、ダム下流域のヒ素検出量が減少するという意味では水質が改善し、資料では確認された魚類が増えているということです。
しかし、ダムの堆砂が進んだ時、ダム湖に堆積したヒ素が新たな問題を生むことになります。この問題について、国土交通省はダムができるまで説明してきませんでしたが、配布資料には該当する記述が何度も出てきます。以下、関連するページより一部引用します。
◆10ページ
「ヒ素は、ダム放流口及び下流河川において流入河川に比べ低い値で推移している。ただし、減少分は貯水池内での沈降・蓄積によるものと想定されことから、底質中のヒ素堆積量は経年的にし累積傾向を示す可能性が考えられる。」
◆14ページ
◆38ページ
「従来、吾妻川は魚類相が貧弱な河川であったが、品木ダムの中和事業や八ッ場ダムの建設等により河川環境が改善され、モニタリング調査(H29~R5)では、 6目10科23種の魚類が確認された。」
(吾妻川の中和事業の一環として1965年に建設された品木ダムは、中和生成物と上流から流れ込む土砂で満杯状態となっているが、堆積土砂に大量のヒ素が含まれているという問題がある。)
◆101ページ
・「改訂ダム貯水池水質調査要領」に基づいた、定期水質調査に移行する。
・白砂川上流からのヒ素について、今後上昇する可能性があることから、監視を継続する。
・ダム管理期間以降での下流河川のヒ素濃度の低下は、貯水池内での沈降・堆積によるものと想定されることから、底質中のヒ素堆積量は経年的に累積傾向を示す可能性が考えられる。このことから、流入河川、貯水池、ダム放流口については毎月の調査を継続する。
・底質からのヒ素溶出にも留意していく。
◆103ページ
・貝瀬の上流の品木ダムにおいて、粒子態ヒ素が削減された可能性がある。
◆129ページ
• ヒ素は将来的に堆積の問題が起こる可能性がある。水質・底質のヒ素がどう変化していくかについて留意する。
• 下流河川においてBODが上昇することがあった。今後も変動について留意する。
• 出水時において、高濃度のリンが流入しそれらが堆積するものと考えられる。底質からのリン溶出の長期的な変化にも留意していく。
その他の問題についても一部表示します。
◆50ページ
鳥類の生態系ピラミッドの頂点に位置するイヌワシは、ダム事業が本格的に始まる前は、岩場で営巣、繁殖していたが、モニタリング調査結果によれば、令和3年以降、個体が確認されていない。
◆84ページ
吾妻峡景観・植生調査
「植生面積の変化状況をみると、渓畔林等に大きな変化はみられていないが、外来種群落であるハリエンジュ群落が経年的に確認されており、今後の分布拡大が懸念される。」
◆91ページ
堆砂状況
「令和5年度までの貯水池全体の堆砂量は3,376千m3であり計画堆砂量(1750万m3)に対する割合は約19%であった。堆砂量の大半は、令和元年台風19号による洪水を貯留したことによるものであり、令和2年以降は年間の堆砂量は低い水準で安定している。」
堆砂の調査頻度については、140ページに「「1回/年(出水期後)の横断測量により、ダム供用後の堆砂量を把握する。」とあります。