八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

川辺川ダム問題の新著、流域の市民団体が刊行

 川辺川ダム反対運動の核として活動してきた地元の市民団体「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」(略称:手渡す会)が刊行した新著を紹介します。

 八ッ場ダムと川辺川ダムは、わが国の河川行政を象徴する東西のダム事業として並び称されてきました。
 八ッ場ダムが運用を開始して4ヶ月目の2020年7月、九州豪雨により球磨川流域で大水害が発生しました。球磨川の最大支流、川辺川に計画された国のダム事業は、流域の反対運動によって中止されていましたが、この水害をきっかけに復活することになりました。
 
 ショックドクトリン(惨事便乗型資本主義)の典型ともいえる巨大ダム計画の復活について、「手渡す会」顧問の黒田弘行さんは次のように書いています。

「翌日の昼の全国版のテレビ番組でどこにどのような雨が降り、どこでどのような洪水が発生し、どこでどのように氾濫したかの分析もしないまま、川辺川ダムがあれば被害が防げたという大宣伝が始まった」(まえがきより)

 八ッ場ダムが試験湛水中だった2019年10月、東日本台風襲来しました。八ッ場ダムは短期間で満水になり、当時の安倍首相、菅官房長官、二階幹事長らが八ッ場ダムの治水効果を過大にPRし、ダム事業を推進してきた政策を自画自賛しました。その結果、マスコミ、ネット上で「八ッ場ダムは利根川の救世主」という根拠のないデマが拡散しました。八ッ場ダムと川辺川ダムは長期化したダム事業として、その類似性が指摘されてきましたが、フェイクニュースにまみれているという点でもよく似ています。

 首都圏という広域に関係者が居住する八ッ場ダムと異なり、流域すべてが熊本県内にある川辺川ダム事業は、流域住民に水没地から河口まですべて現場が見える状態にあります。戦後、大規模な河川事業が進められる中、多くの流域で住民が川から遠ざかってきましたが、球磨川流域では今も川とともにある暮らしが保たれています。

 2020年7月、被災した流域住民らは、水害のさなかに現場を走り回り、水害の状況を詳細に記録しました。さらに「調査に取り組み、検証を重ねることで、被災直後にはわからなかった被害拡大の要因やメカニズムの一旦が見えてきた。」(序章より)といいます。こうしてまとめられた本書は、序章にも書かれているように、「ヒトを含む豊かな生態系を育む清流の保全を前提とした、気候変動に伴う豪雨にも対応しうる水害対策」を考える上で、多くの示唆に富むものです。
 年々雨の降り方が極端になってきている今、生活者の目線からの貴重な体験が少しでも多くの方々に共有され、改めて川辺川ダムの問題を考えるきっかけになればと思います。