八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

利根川、サケの遡上ゼロに

 「岡山でマダコが捕れない」、「静岡でサンゴが増加」、「養殖のホヤが宮城で育たない」など、各地の海の異変が報告されています。
 サケの南限域とされる利根川では、中流の利根大堰でサケの遡上数がゼロになってしまったとのことです。

◆2025年3月24日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250324-OYT1T50102/
ーサケが「南限域」利根川に戻らず…海流変化で河口の水温上昇、生育には厳しい環境にー

 関東地方を流れる利根川で、サケの 遡上そじょう 数が激減している。中流の利根 大堰おおぜき を上るサケは昨年、1983年の調査開始以来、初めて確認ゼロとなった。利根川はサケが戻る南限域とされる。暖流の黒潮が北上したことで、冷たい水を好むサケにとって河口周辺の環境が悪化し、帰りにくくなった可能性がある。(宇都宮支局 八幡大輝)

 利根川は千葉県銚子市で太平洋に注ぎ、「サケは銚子限り」とうたわれるなど、サケが自然に回帰する南限域とされてきた。河口から約150キロ上った利根大堰(埼玉県行田市、群馬県千代田町)では、独立行政法人「水資源機構」の利根導水総合管理所が毎年10~12月、魚道を通過するサケの数をカウントしている。

 観測を始めた83年は21匹だったが、2000年代から増加。流域で放流活動などが行われた効果とみられる。2013年には過去最高の1万8696匹が通過した。しかし、その後は減少。21年には100匹を割り込み、昨年は1匹も確認できなかった。茨城県によると、利根大堰よりも下流で利根川に合流する鬼怒川でも昨年、ピーク時には5000匹近かった捕獲数が11匹にとどまった。

 減少に影響しているとされているのが、海流の変化だ。サケはオホーツク海やベーリング海で育ち、3~5年ほどで生まれた川に戻る。近年、サケの生育に適した寒流である親潮の勢いが弱まり、暖流の黒潮に南下を妨げられるようになっているという。

 近年の遡上数急減で採卵も難しくなり、利根大堰ではここ2年、小学生を招いた採卵観察会や放流会の開催を見合わせている。

 流域にも影響は広がる。支流の渡良瀬川が流れる栃木県佐野市で稚魚の放流活動を続けてきた「市渡良瀬川にサケを放す会」は昨年12月、卵を入手できる見込みが立たないとして、当面の放流休止を決めた。

 同会は足尾銅山の鉱毒で消えたサケを復活させようと、1982年に活動を始め、2016年には数百匹を確認していた。飯田進事務局長は「サケが戻り、大きな成果だと思っていた。中止はとても残念だ」と話している。

全国漁獲数、10年前の4割
 サケは全国的に不漁傾向にある。国立研究開発法人「水産研究・教育機構」によると、北海道から日本海側の石川県、太平洋側の茨城県までの11道県の捕獲・漁獲数は、昨年7月~今年2月で約1790万匹。10年前はこの期間で約4463万匹に上っており、4割程度に落ち込んでいる。

 利根川の北方、水戸市などを流れる那珂川でも、18年まで1万~3万匹が捕獲されていたが、昨年は12匹にとどまった。

 同機構の佐藤俊平・資源生態部長は「南限域にある利根川周辺は海水温が高く、サケにとっては厳しい環境になっている可能性がある」と指摘している。

◆2025年1月13日 埼玉新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/9b9d85a94f286a4621d7abd5e93086a1dc5fa1b3
ーサケの遡上、初のゼロに 埼玉・行田の利根大堰 気候変動影響か 最多は2013年の1万8千匹超も近年は急激に減少ー

 利根川中流の埼玉県行田市と群馬県千代田町にまたがる利根大堰(ぜき)を遡上(そじょう)するサケの数が、今季は1983年の調査開始以来、初めてゼロとなったことが6日までに分かった。近年は急激な減少が続き、気候変動の影響が指摘されている。

 調査は、利根大堰を管理する水資源機構利根導水総合管理所が毎年10月1日~12月25日に行っている。方法が変遷したため単純な比較はできないが、2021年以降は3本ある魚道に定点カメラを設置。午前8時~午後5時に写った魚影を数えるほか、暗くて撮影できない夜は、センサーで毎日24時間自動計測していた18年までの実績から推定した数を加え、翌年2月ごろ確定値を発表してきた。

 今シーズンは映像分析の委託先からの報告が6日までにあり、期間中に撮影された魚影が初めて「0匹」となった。このため、夜間の推定値も「0」になる見通しだ。

 管理所は、魚影が撮影された速報値をホームページで随時更新しているほか、行田市側の1号魚道にある大堰自然の観察室を毎日昼間に開放。魚道の中を観察し、利根川の自然と触れ合えるようにしている。調査期間の終了が迫った昨年12月23日にも、見学者が来場。今季はサケの遡上が確認されていないことを知ると、群馬県太田市から訪れた保育士の50代女性は「見られなくてがっかり。なぜ来なくなってしまったのでしょうか」と落胆していた。

 遡上数は1983年が21匹だったが、95~97年に魚道を改修して魚が上りやすくなると、次第に増加していった。2005年ごろから上昇幅は大きくなり、13年には最多の1万8696匹を記録。だが、その後は急激な減少傾向に転じた。令和に入った19年以降は千匹を割り、23年は過去最少となる11匹まで落ち込んだ。

 国内の川でふ化したサケは、春に体長5センチほどとなって海へ下る。ロシア近海の北太平洋で3~5年過ごし、数十センチの大きさまで成長すると、産卵のために生まれた川へ帰ってくる。近年は、気候変動がもたらす海水温の上昇が指摘されるようになった。加須市にある県水産研究所の担当者は、利根川でサケの遡上が激減した理由は現時点では明らかではないとしつつ、「サケは8~13度の冷たい海水に適応した魚。北太平洋の水温が上がっているとすれば、成長にかなり影響があると思う」との見解を示す。

 水資源機構は07年度から毎年、行田市内の小学生を対象として、秋にはサケの遡上と採卵の観察会を開催。卵を管理所内などでふ化させ、早春には稚魚の放流会を実施してきた。ところが、23年以降は遡上数があまりにも減ったため、どちらも行えていない。管理所の担当者は「地域とのつながりを築き、利根大堰を知ってもらうための象徴的行事だったので、中止になってしまい残念。今度の秋は再びサケが戻ってきてくれるといいが」と願った。


 サケの遡上数をカウントしてきた利根大堰は、首都圏に水道用水を供給する施設として(独立行政法人)水資源機構が1968年に完成させました。利根大堰には魚道があり、今ではガラス窓越しに魚道を遡上するサケを観察する施設もありますが、当初の魚道はサケが遡上できず、利根大堰ができてからサケの遡上数は激減しました。このため、水資源機構は魚道を改善するとともに、サケを卵から育て、流域の団体や児童が稚魚を放流するなど、サケの遡上数を増やす運動が官民挙げて行われてきました。しかし、2013年には1万8696匹を記録して以降、記事にもある通り、サケの遡上数は減少の一途を辿ってきました。

 群馬県立自然史博物館のホームページに掲載されているレポート「利根川のサケはどのように増えたのか」(南限のサケを育む会 斉藤裕也)によれば、もともとは鬼怒川に遡上して産卵していたサケが江戸幕府の利根川東遷事業によって利根川上流の群馬県にまで遡上するようになったということです。