アフリカ南部のザンビアで銅鉱山の鉱滓ダムが決壊し、有毒物質が大量に流出したことによって、河川が「死の川」の様相を呈していると報道されています。
わが国では明治時代、栃木県の足尾銅山が渡良瀬川を汚染し、流域の農漁業に壊滅的な被害を与えた「足尾鉱毒事件」が公害問題の原点とされます。また、八ッ場ダムが建設された吾妻川は、上流の草津白根山麓の酸性河川が流入している上、第二次大戦中から始まった群馬鉄山の開発によって「死の川」と呼ばれるようになりました。八ッ場ダム建設のために行われてきた中和事業によって、現時点では問題ないとされています。
◆2025年3月23日 Newsweek 日本語版
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2025/03/542990_1.php
ー「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出…惨状伝える映像ー
<中国がザンビアに所有する銅鉱山は環境規制違反が指摘されていたが、廃棄物を貯めたダムが決壊したことにより100キロ下流にまで国民生活に深刻な影響が出ている>
中国企業がザンビアに所有する銅鉱山から流出した酸が、付近の河川を汚染し、「壊滅的な結果」をもたらしている。現地で撮影された映像からは、有毒な成分を含む大量の水がダムから流出し、河川がまさに「死の川」の様相を呈している有様を見て取ることができる。
この流出事故により、ザンビアの銅生産における中国企業の存在感の高まりに注目が集まっている。銅は、スマートフォンをはじめとする電子機器の製造に不可欠な金属だ。ザンビアは、アフリカ2位、世界でもトップ10に入る銅生産国であり、主要輸出品としてこの金属に依存している。
中国がザンビアに所有する銅鉱山は、労働法や安全規則、環境基準に違反している、と非難されている。ザンビアは巨額債務を抱えており、中国からも40億ドルを借りている。2023年には債務不履行に陥り、債務再編を余儀なくされた。
ザンビア工学協会(EIZ)の調査チームによれば、2月18日、鉱滓(こうさい)ダム(鉱山廃棄物を貯蔵するための土堰堤)の決壊により、推定5000万リットルの廃棄物がカフエ川に流出した。
「一夜にして、この川は死んでしまった」
ザンビアの人口は約2000万人。その約60%が、全長1600キロほどのカフエ川流域に暮らしており、農業、工業、漁業に利用している。ザンビアのハカインデ・ヒチレマ大統領は、この事故を「クライシス(危機)」と呼び、野生生物と国民生活の両方が脅かされていると警告した。
この災害により、人口約70万人の都市キトウェでは、水の供給が完全に停止。ザンビア当局は、流出した酸を中和するため、カフエ川に数百トンの石灰を空中投下した。
事故直後に撮影された画像には、鉱山の約100キロ下流で、川岸に打ち上げられた大量の魚が写っている。鉱山の所有者はシノ・メタルズ・リーチ・ザンビアという企業だが、同社の過半数を、中国国営企業である中国有色(非鉄金属)鉱業集団公司(China Nonferrous Metals Industry Group)が所有している。
地元住民のショーン・コーネリアスは、「2月18日以前、この川は活気に満ち、生命にあふれていた」と語る。「今はすべてが死んでいる。まるで、完全に死んだ川のようだ。信じられない。一夜にして、この川は死んでしまった」
ザンビア政府報道官のコーネリアス・ムウィートウは、状況の深刻さを強調し、シノ・メタルズに浄化費用を負担させると述べた。
地元メディアは3月14日、グリーン経済・環境相マイク・ムポシャの発言として、最新の報告では、酸による汚染は抑制されていることが示されており、pHの監視を継続していると伝えている。ムポシャは議会で、シノ・メタルズは、影響を受けたすべての農家と消費者に対する補償を命じられたと強調した。
中国企業に対して3つのダムの操業停止を命令
環境活動家のチレクワ・ムンバはAP通信の取材に対し、「本当に壊滅的な環境災害だ」と述べた。また環境工学者のムウィーネ・ヒムウィンガは、次のように述べている。
「この事故は、一部の投資家が、環境保護に関して無頓着であることをまさに浮き彫りにしている。彼らは全く気にしていないように見える。そして、それこそが本当に憂慮すべきことだと思う。なぜなら結局のところ、私たちザンビア人にとっては、自分たちが所有している土地はこれだけだからだ」
シノ・メタルズ・リーチ・ザンビアのジャン・ペイウェン会長はこう述べた。「この災害は、シノ・メタルズ・リーチ・ザンビアと鉱業全体に大きな警鐘を鳴らしている……影響を受けた環境をできるだけ早く回復させるために、当社は全力を尽くす」
ザンビア水資源開発・衛生相はプレスリリースで、この汚染は、水生生物の著しい減少、汚染水域の農作物被害など、壊滅的な結果をもたらしていると述べた。
ザンビア・モニターは、ムポシャ環境相の発言として、違反行為を受け、ザンビア政府はシノ・メタルズに対して、3つのダムの操業停止を命じたと伝えた。決壊した土堰堤の修復が完了すれば、操業再開が許可される見込みだ。
(翻訳:ガリレオ)