発売中の月刊誌「世界」5月号(岩波書店)に治水に関するタイムリーな論文が掲載されています。
「連続する「未曽有の水害」 ──水害統計調査の意味を問う」(梶原健嗣、愛国学園大学)
著者の梶原氏は、2014年の「『戦後河川行政とダム開発 利根川水系における治水・利水の構造転換』(ミネルヴァ書房)刊行以来、この10年で単著として『近現代日本の河川行政 政策・法令の展開:1868~2019』(2021,法律文化社)、単著:『都市化と水害の戦後史』(2023,成文堂)、共著として『社会的共通資本としての水』(2015,花伝社)、『長良川河口堰と八ッ場ダムを歩く』(2023,成文堂)など、精力的な執筆活動を行ってきました。洪水対策(治水)は私たちの生活に直結した災害対策でありながら、ダムやスーパー堤防など巨大公共事業とその事業者が圧倒的な存在感を示し、実際の水害がどのような原因によって起きているのかという、対策を組み立てるために最も基本的え個別具体的な情報は一般に共有されていないのが実情です。
減税や「防災庁」の設置など、威勢の良い政策が耳目を集めがちな昨今ですが、この論文では地に足がついた治水対策の本来あるべき姿が示されています。
梶原氏の論文は4月24日付の朝日新聞で、「論壇委員が選ぶ今月の3点」でも吉弘憲介委員が取り上げています。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16200408.html?pn=3&unlock=1#continuehere
〈評〉与野党とも減税を打ち出す政策論が目立つ中、公共政策とは本来どうあるべきか。筆者は、日本における防災、特に水害対策における技術偏重の政策論の中で見過ごされている問題を指摘する。水害による犠牲者の具体的死因が、公的統計では十分調査されていない。守るべき人命が失われた原因が洪水なのか土砂災害なのかも分からないまま、いたずらに防災庁を設置したり予算を増やしたりしても、公共政策に対する信頼を回復させることなど不可能であろう。減税こそ人々の富を増やすという「減税ナラティブ」に回収されない…(以下略)