さる5月16日、国土交通省は川辺川ダムの「公共性」を理由に土地収用を可能とする「事業認定の申請」を行いました。これに対して、熊本県の16の市民団体が連名で抗議文を提出しました。
こちらの市民団体のホームページに公開されている抗議文を転載します。
子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会 代表 中島 康
川辺川ダム・事業認定申請に対する抗議文
貴省九州地方整備局は、穴あきの川辺川ダムの建設に必要な土地や漁業権の強制収用を可能とするために、5月16日、国土交通大臣に事業認定の申請を行いました。これは、川辺川ダム建設の公益性に疑問を抱き、建設に反対する多くの流域住民や熊本県民の意見を無視する暴挙であり、私たちはこのことに強く抗議するとともに、申請の取り下げと、ダム計画の中止を強く求めます。
そもそも、土地収用法に基づく事業認定は、事業認定庁が申請事業に「土地を収用するに値する公益性」を有することを認定するものです。川辺川ダム建設に対しては、洪水防止の効果が極めて限定的であり、環境や清流、さらに生き物に対する影響が甚大であること、緊急放流により下流の人々の命を脅かす恐れが大きいことなどから、被災者、流域住民、県民の多くが公益性を認めてはいません。このように流域住民が不安を抱き、建設に異を唱えているにも拘らず、事業主体である九州地方整備局が、住民や県民に向き合うことなく、性急に事業認定の申請を行ったことはまさに暴挙としか言いようがなく、怒りを覚えます。
2008 年に蒲島前熊本県知事により白紙撤回された旧ダム計画の時も、貴省は事業認定や裁決申請を行いながらも、計画が違法だとして熊本県収用委員会から裁決申請の取り下げ勧告を受け、計画断念に追い込まれました。背景には流域住民や熊本県民への説明責任の欠如が上げられます。
今回も、貴省は、被災者や住民から命も清流も守らないダムという批判の声に対し、過去の反省も生かすことなく、強制収用の構えまで見せてダム建設を強行しようとしています。
穴あき(流水型)ダムであっても、命と清流は守ることはできません。ダムによる治水効果は極めて限定的であり、想定外の降雨には対応できず、緊急放流の危険性があります。また、他の穴あきダムの事例から明らかですが、穴あきダムであっても川の環境は破壊されてしまいます。
私たちは、2020年7月の球磨川水系での大水害の発生以降、行政側に対して豪雨災害の共同検証を求め続けてきましたが、行政側は拒否し続けました。将来に禍根を残さないためにも、共同検証を通じて、住民に受け入れられる治水計画を策定すべきであったにもかかわらず、貴省は放棄しました。貴省は、ただ川辺川ダムを造りたがっているだけだと思わざるを得ません。
私たちは、完全に公益性を欠如した流水型の川辺川ダム計画の事業認定に対し、被災者・流域住民・県民の立場から、貴省のダム建設に邁進する姿勢に抗議し、改めて事業業認定申請の取り下げとダム計画の中止を求めます。
以上
関連ニュースをお伝えします。
◆2025年5月20日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/1776926
ー川辺川の流水型ダム 事業認定申請は「県民無視」 市民団体が国交省に抗議文ー
球磨川支流の川辺川の流水型ダム建設に反対する市民団体などは20日、事業主体の国土交通省九州地方整備局が土地収用法に基づく事業認定を国交相に申請したことに抗議し、申請取り下げと計画中止を求める文書を九地整に郵送した。 文書は「子守唄の里文書は「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」など16団体の連名。「ダムの洪水防止効果は限定的で環境への影響も甚大。事業認定申請はダムに反対する県民の意見を無視する暴挙だ」と主張している。(以下略)
◆2025年5月20日 くまもと県民テレビ
https://news.ntv.co.jp/n/kkt/category/society/kk0b86e9ad22ff42c48edb97241bd4e30b
ー川辺川ダム反対の市民団体が抗議文 九地整が土地収用法に基づく収用事業認定を申請ー
国が2027年度の着工を目指す川辺川の流水型ダムをめぐり、九州地方整備局が土地収用法に基づく収用事業の認定を国土交通大臣に申請したことを受け、16の市民団体が20日、申請の取り下げと計画の中止を求める抗議文を国土交通大臣などに送付しました。
市民団体は、川辺川ダムの公益性に疑問があるとしていて、「川辺川の清流があって球磨川の水質が保たれている。ダム建設が観光や漁業に影響を及ぼし取り返しがつかなくなることを危惧している」と話しました。
◆2025年5月26日 毎日新聞熊本版
https://mainichi.jp/articles/20250526/ddl/k43/040/171000c
ー計画中止求め抗議文 国交相らに16市民団体 川辺川・ダム ー
熊本県・球磨川支流の川辺川に国が建設予定の流水型ダムを巡り、流域住民らでつくる16の市民団体は20日、事業認定の取り下げと、ダム計画の中止を求める抗議文を中野洋昌国土交通相らに提出したと明らかにした。
抗議文は国交省九州地方整備局が16日に土地収用法に基づく事業認定を中野国交相に申請したことを受けてまとめた。中野国交相と九地整の森田康夫局長宛てで、20日付けで提出したという。
事業認定されれば、土地収用法に基づく用地取得などが可能になる。抗議文では公益性が審査されることに触れ「洪水防止の効果が極めて限定的」と批判。「県民の多くが公益性を認めていない。不安を抱き、異を唱えている」などと訴えた。
団体の代表らは20日、県庁で記者会見し、ダム計画が九州豪雨(2020年7月)からわずか数カ月後に発表され、効果を疑問視する声があると説明した。「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」代表の中島康さんは「国と県、流域住民で共同検証すべきだ」と求めた。【山口桂子】