ダムは建前上は、水没住民や漁業組合の賛同を得なければ建設できないことになっていますが、それだけにダム事業者は多額の補償金で孤立した住民や漁協にゆさぶりをかけます。
川辺川ダムをめぐっては、2000年代、漁業権を持つ球磨川漁協がダム建設を阻止する大きな役割を果たしましたが、国は2020年の球磨川水害ののち、ダム本体の形状を従来のアーチ式から流水型(穴あき型)に変更し、新たなダム計画であるとして漁協に改めて賛同を迫ってきました。この間、球磨川流域では、水害による地域の疲弊が深刻で、川漁師も減少してきたということです。漁協組合員の中には本物の川漁師でない人も少なくないということです。
漁協がダム計画を受け入れるには、組合員の3分の2の賛同を必要とされてきました。さる9月11日の漁協の総会で、ついに球磨川漁協はダム建設を容認することになりました。
◆2025年9月11日 共同通信
https://news.yahoo.co.jp/articles/0fcdc6ea8d1757b2c9628ecf4d4db0d9ddbda653
ー川辺川ダム建設、地元漁協が容認ー
熊本県の川辺川に国が建設を計画している大規模ダムを巡り、地元の球磨川漁協は11日に開いた臨時総会で、国の漁業補償案を受け入れ、ダム建設を容認する方針を決定した。一部の漁師は水質の低下を懸念していた。
◆2025年9月11日 熊本日日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/1a6dea7a92ab74fac5324c70f2226b4f66a7b99b
ー熊本・川辺川の流水型ダム、球磨川漁協が容認 漁業補償契約案を可決 27年度着工へ大きな節目ー
球磨川支流の川辺川(相良村)で国が進める治水専用の流水型ダム計画について、流域の漁業権を持つ球磨川漁協は11日、臨時の組合員総会を開き、国と漁業補償契約を締結する議案を可決した。ダム建設を事実上容認し、国土交通省が目指す2027年度の本体着工に道を開く決定となる。20年熊本豪雨を契機に再始動した川辺川のダム計画は、大きな節目を迎えた。
国交省が6月に提示した補償案は、工事中の河川の濁りやダム完成後の堆砂、建設地付近の漁場消滅など、想定される影響について総額8億1195万円を支払う内容。漁協は7月までに流域13カ所で説明会を開き、組合員に補償内容などを説明した。
臨時総会は八代市のパトリア千丁であり、議決権を持つ正組合員735人のうち595人(本人62、書面議決書533)が出席。国交省から組合員に直接の説明がないことへの不満や、河川環境への悪影響を懸念する声が相次いだ。
ダム建設で漁業権の一部が消滅したり制限を受けたりする重要事項のため、補償契約案は議決権の3分の2以上の賛成を必要とする特別決議として採決された。議長を除く594人が投票し、賛成426票、反対162票、無効6票と、賛成が3分の2を超えた。
堀川泰注組合長は総会終了後、報道陣に「ダムによる治水で、尊い人命を守りたいという組合員の意思の表れだ。国に環境保全の対策を確認した上で補償契約を結びたい」と述べた。契約締結の日時は未定で、本年度中の実現を目指す。
一方、国交省川辺川ダム砂防事務所(相良村)の栗原太郎所長は「漁協の判断を受け止め、27年度の本体着工と、一日も早い事業完了に取り組む」と述べた。
川辺川の流水型ダムは、人吉市や球磨村などに甚大な被害が出た20年熊本豪雨をきっかけに、流域治水の柱として22年度策定の球磨川水系河川整備計画に盛り込まれた。中止となった旧ダム計画と異なり、普段は水をためない仕組み。総貯水容量は約1億3千万トンで、完成すれば国内最大級の治水専用ダムとなる。
国交省は今年5月、ダム建設に必要な土地や権利の収用を可能にする土地収用法の事業認定を国交相に申請した。(金村貫太、東寛明)
熊本県の木村敬知事 一日も早い球磨川流域の安全・安心の確保に向け、大きな一歩だ。組合員が真摯[しんし]に議論を重ね、判断されたことに感謝を申し上げる。国は引き続き、流水型ダム建設に伴う環境影響の最小化に取り組んでほしい。
人吉市の松岡隼人市長 組合員の皆さんが慎重に議論し、判断された結果と受け止めている。市としては、今後も地域の安全確保や環境への配慮を重視し、国や熊本県と連携しながら、地域の発展に努めていく。
◆2025年9月11日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20250911/k00/00m/040/231000c
ー熊本・川辺川ダム着工へ前進 漁協が8億円の補償受け入れ容認の方針ー
熊本県・球磨川支流の川辺川に国が建設を予定する流水型ダムを巡り、球磨川漁協は11日、同県八代市で臨時総会を開き、国土交通省から提示された約8億円の漁業補償案の受け入れを可決した。国は既に用地の99%を取得しており、地元漁協が容認方針を示したことで、2027年度の本体着工に向けた手続きは前進した。
球磨川漁協は01年、川辺川の旧ダム計画に関する漁業補償案を否決していた。計画が、環境負荷が少ないとされる流水型に変わり、賛否が覆った形になる。堀川泰注(やすつぐ)組合長は「20年の九州豪雨で尊い命が失われた。組合員の人命を守りたいという思いの結果だろう。(流水型への変更も)大きく影響していると思う」と語った。
補償受け入れ案の可決には、正組合員735人のうち過半数の投票と、投票総数の3分の2以上の賛成が必要だった。結果は、投票総数594票のうち、賛成が7割超の426票を占めた。質疑の中では受け入れへの異論が相次いだものの、反対は162票にとどまった。
国交省は6月末までに、漁業権の一部消滅や工事中の濁り、堆砂(たいさ)による影響などの補償費として計約8億1200万円を提示していた。国交省川辺川ダム砂防事務所は「ご判断を受け止め、今後とも丁寧な説明に努めていく」とコメントした。
◆2025年9月11日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20250911/5000026543.html
ー川辺川流水型ダム 8億円の補償案 地元漁協が受け入れ決めるー
5年前の豪雨で氾濫した球磨川の治水対策として支流の川辺川に国が建設を予定している流水型ダムをめぐり、地元の漁協が、ダムを造ることで漁業権が一部の区間で
消滅することなどに対して、国から示されたおよそ8億円の補償案を受け入れることを決めました。
川辺川の流水型ダムをめぐって、国は環境への影響の調査などを行っていて、2027年度の工事の開始、2035年度の完成を目指しています。
ダムを造ることで川辺川などの一部の区間で漁業権が消滅することなどから、国は8億1100万円余りの補償案を流域の球磨川漁業協同組合に示していました。
これについて、球磨川漁協は11日、八代市で臨時総会を開き、補償案を受け入れるかどうか決議を行いました。その結果、出席した人などあわせて590人余りのうち、了承に必要な3分の2を超える420人余りが賛成し、国の補償案の受け入れを決めました。
国と球磨川漁協は今後、補償金の契約を結ぶことになり、ダム建設は本体工事の着工に向けて1歩進んだ形となりました。
球磨川漁協の堀川泰注組合長は「賛成が3分の2を超えたが、正式に契約を交わすにあたって、河川環境を守るため、ダムの上流にたまる土砂を長年にわたりしっかり
撤去するといった反対側の意見も契約に反映してもらえるよう国にお願いしていきたい」と話していました。
川辺川の流水型ダムの漁業補償をめぐる球磨川漁協の決議について、木村知事は「一日も早い球磨川流域の安全・安心の確保に向け、大きな一歩であると受け止めてい
ます。組合員の皆さまが真摯(しんし)に議論を重ねられ、ご判断されたことに感謝申し上げます。国には引き続き、流水型ダム建設に伴う環境影響の最小化に取り組
んでいただくようお願いします」とするコメントを出しました。
◆2025年9月12日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/AST9C46XTT9CTLVB005M.html?iref=pc_preftop_kumamoto
ー熊本・川辺川ダム補償案、球磨川漁協が受け入れ 総額8.1億円ー
2020年の熊本豪雨をきっかけに「復活」した川辺川ダム事業を巡り、地元の球磨川漁協が11日、熊本県八代市で臨時総会を開き、国が提示した漁業補償案の受け入れを決めた。
ダム建設で川辺川や球磨川での漁に影響が出ることが想定されるため、国が総額約8億1千万円の補償案(建設工事期間中の濁りによる影響補償7億1181万円、堆砂の影響補償6375万円、試験湛水(たんすい)による漁場の制限補償1863万円、ダム本体の前後で漁業ができなくなることへの補償1775万円)を提示。漁協執行部が組合員に賛否を尋ねた。
総会には、議決権を持つ正組合員735人のうち62人が出席、533人が書面を提出した。
質疑では反対する組合員から「川の濁りに対して国が補償するのは工事期間中のみで不十分」「数字の根拠など国の説明を直接聞きたい。急いで採決する必要はない」といった意見が出た。
採決の結果、議長を除く594人のうち賛成426人、反対162人、無効6人で補償案受け入れに必要な3分の2以上が賛成した。
閉会のあいさつで堀川泰注組合長は「今後、国交省と契約にむけて協議するが、反対した組合員の意見も大事にして臨みたい」と話した。
35年度のダム完成をめざす国交省は、本体の基礎工事を27年度にとりかかりたいとしている。堀川組合長によると、漁業補償の契約締結は年内、遅くとも年度内をめざしているという。
建設に至らなかった旧川辺川ダム事業では最終的に16億5千万円の補償額が提示されたが、3分の2の賛成に至らず否決された。今回受け入れに至った理由について、堀川組合長は「20年豪雨で多くの人命が失われたことが大きい」。補償額が半分だったことについては「組合員と漁獲高が減少したことを考えると理解できる」と話した。
反対を唱えた漁師の吉村勝徳さん(77)は「ちゃんとした説明がないままで、きちんと判断されなかった」と語った。
◆2025年9月23日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20250912-OYTNT50101/
ー流水型ダムで補償受け入れ、球磨川漁協組合員「人命優先すべき」…「アユ捕れなくなったら」と不安の声もー
球磨川漁業協同組合(熊本県八代市)が流水型ダム事業を巡って国から提示された漁業補償額の受け入れを決めた11日、組合員からは治水対策が進むことによる防災機能の強化に期待する声が聞かれた一方、環境変化による漁業への影響を不安視する意見も出た。
事業は球磨川の支流、川辺川で計画されており、漁協が流域の漁業権を保有している。受け入れの可否を決める臨時総会では、組合員735人のうち会場で61人、書面で533人の計594人が投票。約7割が賛成で補償金額の受け入れが決まった。
投票前の意見陳述では「アユが捕れなくなったら誰が責任をとるのか」といった意見が出た。投票終了後、組合員(77)は「国土交通省とは納得のいくやりとりができていない。算定基準も分からず、賛成できるわけがない」と訴えた。男性(39)は「反対意見も理解できる。(5年前の)豪雨で多くの人が亡くなったことを考えると、人命を優先するべきだと考えた」と語った。
計画を巡っては、国交省川辺川ダム砂防事務所が事業に必要な土地と球磨川流域の漁業権を対象に、土地収用法に基づく事業認定を国交相に申請している。
漁業権については漁協との補償契約が結ばれる見通しになったが、同事務所は「未取得の土地もあるため、土地収用法の手続きは進めていく」としている。