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熊本・川辺川ダム 国交省と球磨川漁協が補償契約を締結 

 川辺川ダムの建設を阻んできた球磨川漁協が国土交通省と漁業補償契約を結んだとのニュースです。
 各紙は一斉に「ダム本体着工に向けた環境が整った」と報じています。

 ダム建設は国や県などのダム事業者に有利な法律に守られており、流域住民の反対があっても推進されますが、漁業組合がダム建設に反対する場合は大きな力になります。このため、ダム事業者は漁業組合の結束を切り崩すことになります。

 球磨川の最大支流、川辺川のダム建設は、清流・球磨川、川辺川の豊かな漁業資源に大きな影響を与えることから、長年、球磨川漁協が反対してきましたが、ついにダム建設を受け入れることになりました。

◆2025年11月14日 熊本日日新聞社
https://kumanichi.com/articles/1924850
ー熊本・川辺川の流水型ダム 国交省と球磨川漁協が補償契約を締結 27年度本体着工へ環境整うー

 球磨川支流の川辺川(相良村)で国が進める流水型ダム計画について、流域の漁業権を持つ球磨川漁協と国土交通省は14日、ダム工事に伴う漁業補償契約を締結した。漁協が同ダム建設を正式に承諾したことになり、国交省が目指す2027年度のダム本体着工に向けた環境がほぼ整った。

 漁業補償契約は、同ダム建設に伴う漁業権の期間制限や一部消滅、工事中の河川の濁りといった影響に関し、国が球磨川漁協に総額約8億1千万円を支払う内容。漁協は9月11日に開催した臨時の組合員総会で、補償の受け入れを決定した。

川辺川の流水ダム予定地
 国交省は、同ダム建設に必要な用地や権利の99%を取得済みで、球磨川漁協との漁業補償交渉が「最後の関門」とみられていた。漁協は、最終的に中止となった貯水型の旧ダム計画の補償契約を2001年に2度拒否した経緯がある。(河内正一郎)

◆2025年11月15日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASTCG463HTCGTLVB003M.html
ー球磨川漁協が補償契約締結 川辺川ダム建設めぐり国交省と 熊本ー

【熊本】川辺川ダム建設をめぐり、国土交通省と球磨川漁協が14日、補償契約を締結した。同漁協の漁業権消滅を認めるもので、工事実施にむけて大きな障壁が一つなくなった。ダムに反対する一部の組合員は国交省と漁協執行部に抗議文を送った。

 契約書への調印式は八代市内の漁協事務所であり、堀川泰注組合長と九州地方整備局の垣下禎裕局長が署名・押印した。

 工事による漁の影響への補償金は総額約8億1千万円。9月にあった漁協の臨時総会で3分の2以上が賛成し、受け入れは決まっていたが、反対派の声を受け、「ダム工事が影響を与える範囲の確認」「アユの遡上(そじょう)への影響と対策」といった点を漁協執行部が国交省に詰めることになっていた。

 執行部と国交省は何度か話し合った結果、疑問点は解消されたとして契約締結を決めた。堀川組合長は「今後、会報で説明する」としているが、一部の組合員は「漁協執行部に補償交渉を委任しておらず、強く抗議する」「国交省は組合員に直接説明する場を設けよ」などとした文書を双方に送った。

 川辺川ダムは2027年度の本体工事着工、35年度完成をめざしている。所有者不明を含め10件ほど未取得の土地があり、土地収用法に基づく事業認定を国交相に申請した。認められれば、所有者の同意がなくても土地を取得できるようになるが、当面は任意の交渉を進めるとしている。漁協は今後、補償金の分配に関する手続きを進める。

◆2025年11月14日 讀賣新聞
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20251114-OYS1T50022/
ー熊本県・川辺川の流水型ダム、国が8億1200万円補償で地元漁協と正式合意…2027年度本体着工へ前進ー

 2020年7月の九州豪雨で氾濫した熊本県・球磨川の支流、川辺川で国が計画する流水型ダムを巡り、流域に漁業権を持つ球磨川漁業協同組合と国は14日、総額約8億1200万円の漁業補償に正式合意した。地元漁協との合意は建設の前提条件で国は27年度の本体着工に向けて動き出す。

 同県八代市の漁協事務所で行われた調印式で、堀川 泰注やすつぐ 組合長と垣下 禎裕よしひろ 国土交通省九州地方整備局長が契約書に署名した。堀川組合長は「魚の保護、河川環境の保全を肝に銘じてほしい」と話した。垣下局長は「河川環境の保全に最大限取り組むことを約束する」と述べた。

 補償を巡っては、国交省が6月、漁協側に金額を提示。組合は9月、組合員の投票で受け入れを決めた。漁協によると、補償額の内訳は、工事期間中の川の濁りの影響に対する補償が約7億1180万円、 堆積たいせき する砂による影響に約6375万円などとなっている。

◆2025年11月15日 讀賣新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/c88fd280209f0f250537595b9ab32358e36a45d5
ー熊本県・川辺川の流水型ダム補償合意、「環境保全」求める声…「泥水でアユのえさ場がなくなってしまう」ー

 2020年7月の九州豪雨で氾濫した熊本県の球磨川の支流、川辺川で国が計画する流水型ダムを巡り、球磨川漁業協同組合と国が漁業補償に正式合意した14日、関係者からはダムの必要性に理解を示しつつ、環境保全に万全を期すよう求める声が上がった。豪雨被害を受け、ダム計画の白紙撤回を表明していた蒲島郁夫前知事(78)が容認に転じてからまもなく5年。国は本体着工に向けた動きを加速させる考えで、計画は大きな節目を迎えた。(山之内大空、牟田口洸介)

 「本心では河川の中に構造物を造るのは(いいのか)という思いがあるが、下流域の方の生命・財産を守るためにはやむを得なかった」。八代市の漁協事務所で行われた調印式で、国土交通省九州地方整備局の垣下禎裕局長と契約書に署名した漁協の堀川泰注組合長は取材に応じ、複雑な心境を語った。

 国が6月に提示した総額約8億1200万円の補償案について、漁協は9月の臨時総会で可否を問う組合員の投票を実施。投票した594人のうち、可決に必要な3分の2以上の426人が賛成し、受け入れが決まった。

 ただ、組合員の中には、ダム建設による河川や生態系への影響を懸念する声も根強く残る。投票で反対した組合員(77)は「ダムの泥水でアユのえさ場がなくなってしまう。国は何の解決策も示していない」と憤る。

 漁協は着工後も引き続き環境への影響を注視していく方針で、堀川組合長は「魚が遡上できるような環境づくりや濁水をどう抑えていくかをしっかり見極めながら要望していきたい」と強調した。

蒲島前知事「清流守るため信頼関係築き治水対策を」
 川辺川でのダム建設を巡っては、平時から水をためる貯留型として計画されていた08年、蒲島前知事が環境への影響などを理由に白紙撤回を表明。九州豪雨後の20年11月19日、環境負荷が少ないとされる流水型ダムの建設容認を県議会全員協議会で表明し、国に要望した経緯がある。14日に読売新聞の取材に応じた蒲島さんは「清流と生命のどちらも守るという難しい判断で、理解が得られなければ辞任する覚悟だった」と振り返った。
 国や県などは、ダム建設といったハード面の施策と、防災訓練などソフト面の対策を組み合わせ、流域の自治体や住民らがともに減災を目指す「流域治水」を推進している。球磨川などでは、川底を深くして流量を増やす河道掘削を実施しており、進捗率は28%(9月末時点)。宅地のかさ上げや遊水地の整備、一時的に雨水をためる「田んぼダム」などの取り組みも進む。

 蒲島さんは「決断してくれた漁業者の生活もかかっている事業。国は今後も清流を守っていくためにも話し合いを重ね、信頼関係を築きながら治水対策を進めてほしい」と願った。