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群馬県、八ッ場ダム貯水池を湖沼として類型指定するも、「全窒素は当分の間適用しない」

 水質調査の際に重要な指標となるのが類型指定です。群馬県は今年の三月末、八ッ場ダム貯水池の類型指定を「河川」から「湖沼」に変更したことをホームページで公表しました。
 https://www.pref.gunma.jp/site/houdou/749187.html

 河川指定から湖沼指定に変更すると、水質調査の際、河川指定ではなかった全窒素と全燐が水質基準項目となります。けれども、上記ページには「全窒素は当分の間適用しない」との記述があります。

◆画像=群馬県公式サイトより「八ッ場ダム貯水池における水質環境基準の類型指定について(環境保全課)
 

 その理由は、環境省による全窒素と全燐の環境基準表の備考欄に書かれていました。群馬県が八ッ場ダム貯水池について「全窒素を水質基準項目として適用しない」としたのは、備考欄の2(以下の画像参照)を踏まえ、「全窒素が湖沼植物プランクトンの増殖の要因となる湖沼」ではないと判断したことを意味します。

湖沼の環境基準に関する環境省資料の表の備考(4ページ)

1 環境基準は、年間平均値とする。 

2 水域類型の指定は、湖沼植物プランクトンの著しく増殖を生じるおそれがある湖沼について行うものとし、全窒素の項目の基準値は、全窒素が湖沼植物プランクトンの増殖の要因となる湖沼について適用する。

3 農業用水については、全燐の項目の基準値は適用しない。

 同じく湖沼に指定されているダム湖の中では、たとえば東京都の小河内ダム貯水池も全窒素を適用除外としています。小河内ダムは東京都の水道専用ダムですが、全窒素に関する基準を「適用しない」という運用が平成10年から継続されています。

 2020年3月に完成した八ッ場ダムは、まだ運用開始から年数がたっていませんが、 国土交通省による八ッ場ダム定期報告書の概要の水質箇所を参考に(52ページ)、湖沼の全窒素基準で当てはめると(年間平均値で評価)、ⅠからⅤまで5種類の類型がある中で、一番最低ランクのV類型1㎎/Lに相当しています。これは八ッ場ダム貯水池がすでに窒素過多の湖沼であることを意味しています。全窒素を水質基準項目として適用しなければ、対策が取られず、水質汚濁が放置される恐れがあります。

 八ッ場ダムの上流には年間400万人を超える入込客数を誇る草津温泉をはじめとする観光地があり、浅間山麓では酪農業や畑作も盛んなことから、温泉水だけでなく、大量の生活雑排水や農業廃水がダム湖に流入します。山間の最上流部に建設されるダムが多い中、吾妻川の中流部に建設された八ッ場ダムは多くのダムより上流から流れ込む汚濁物が多いという特徴があります。
 群馬県が今年2月に開催した環境審議会水質部会でも、有識者委員がこの問題を指摘していることが群馬県のホームページに掲載されている以下の部会の公開資料からわかります。全窒素に関する委員の発言箇所を黄色い枠で表示しました。八ッ場ダムで全窒素を「適用除外」とした理由となった条件を有している他のダムでは、プランクトンの異常発生が起きていることが指摘されています。

◆群馬県ホームページより「令和7年度環境審議会水質部会結果概要」 >5.審議事項 
 >(2)八ッ場ダム貯水池における水質環境基準の類型指定について
 

【委員】将来予測において、今後5年間で水質は変わらない、あるいは若干改善される予測となっている。貯水池の滞留時間が90日ほどあるが、流入負荷が減るという考え方だけで将来の水質も説明できるのか。流入負荷量に基づく推計から将来水質を結論付けるのは不安がある。推計モデルの妥当性の確認として、例えば5年前の条件で現況を再現し、現況と整合することを示せば、将来予測の妥当性評価ができる。底質の蓄積が与える影響が少しずつ現れてくる可能性が気になる。

【事務局】底質の蓄積等の影響は考慮できておらず、水質の将来予測は流入負荷のみを考慮している。水質は現況と将来の負荷量の比率から予測しており、妥当性の評価はできていない。

【委員】将来の負荷量減少には、人口減少と、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換が効いていると思われる。将来の自然系の割合増加もこれが影響している。人口が減少したり、浄化槽の転換が進んだりといった前提が現実に成立するかが予測の裏付けとして重要となるが、根拠は何か。人口が減るのに畜産系が増えるという予測が不思議であるが、理由は何か。​以前、自然系の山林の原単位を扱ったデータを見たことがあり、原単位についても根拠が不明瞭なことがあった。その点も気を付けて根拠を確認することが重要である。

【事務局】将来予測における設定については、人口は将来推計資料、浄化槽は汚水処理率の推移、畜産は計画目標値のデータを利用し推計している。原単位は利根流総基本方針のデータを引用している。

【委員】類型指定を行う上で、将来予測を行う意味は何か。指定する類型の水質が将来も維持されるかどうかを判断するためか。

【事務局】達成期間を設定する上での判断材料として将来予測をしている。今回の類型指定では現況も将来も基準値を満たしているため、達成期間は直ちに達成としているが、例えば将来においても達成できない場合には、いつまでに達成と指定するような場合もある。

【委員】将来的には貯水池内に蓄積するものの影響が出てくる可能性があるため、そういった場合のことも考えておく必要がある。全窒素については、全窒素・全燐比や全燐濃度からプランクトン増殖が全窒素に寄らないため適用しないということだが、このような条件でもプランクトンは発生しないわけではない。他のダムにおいてもこのような条件下でもプランクトンの異常発生が起こっており、貯水池内での蓄積や真夏の停滞期が重なる時などに起こっている。流入負荷の予測だけで水質が変化しないことは言えないので、この点を念頭においておくべきである。類型指定により水質のモニタリングがされていくことは良い。水質だけでなく、観光資源としての価値等も高いので、継続モニタリングをしていくことが重要である。

【委員】魚類の生息状況の表において、流入側の河川では記載のない魚種が、貯水池内では記載されている。貯水池内に特有な魚種か、それとも調査で見つからなかった魚種か。

【事務局】表は複数の調査結果を統合的にまとめたものであり、調査回数等は貯水池内と周辺水域では異なっている。そのため、貯水池内に固有の魚種がいるということではなく、調査回数等の差によるものと考えられる。

【委員】生物生息状況に応じた類型を指定する上で、魚類のみの生息状況の評価でよいのか。鳥類などの他の生物は考慮しなくてよいのか。

【事務局】この分類は、環境省通知により水生生物保全項目の類型指定をするための分類として示されているものである。水生生物である魚類や甲殻類等を冷水性や温水性等に応じて分類しているものであるが、鳥類等は含まれていないため考慮していない。

【委員】湖沼の類型を指定する理由とタイミングを教えてほしい。

【事務局】人工湖の類型指定の条件として貯水量と滞留時間があり、この条件を満たしているため指定するものである。指定のタイミングに定めはないが、5年間の水質データが蓄積され、水質を評価できると判断したことから今回類型指定をするものである。

【委員】湖沼の場合、測定地点は湖心となっている場合が多い。今回の測定地点が湖心にあたるということでよいか。この地点で継続して測定していくのか。

【事務局】国交省のダム貯水池水質調査要領に基づいて設定している地点である。データの継続性も踏まえ、原則としては同地点で測定していくと考えられる。

【委員】pHについては、上流河川と同様に当分の間適用しないこととしているが、中性化事業により安定してきているのではないかと思うが実際の水質はどうか。上流域で酸性河川の中和事業が行われている影響が出ているか。

【事務局】pHの年間平均値では、令和2年度から令和5年度は環境基準値(6.5~8.5)の範囲内であったが、令和6年度は下回った(6.4)。

【関連ページ】群馬県、八ッ場ダム貯水池を湖沼として水質調査・対策へ