八ッ場ダムの事業者である国交省関東地方整備局の公式発表を見ると、八ッ場ダム事業は順調に進んでいるかのような印象を受けますが、実際には八ッ場ダム事業は多くの問題を抱えており、とても順調に進んでいると言える状況ではありません。。
最近報道された本体工事の入札情報などに関連して、いくつかの問題を取り上げます。
1 八ッ場ダム本体工事
(1)八ッ場ダム本体完成予定は2019年度のまま
1月8日に国土交通省関東地方整備局は八ッ場ダム本体工事の入札公告を発表しました。
8月6日に開札して工事業者を決め、本体工事を始めるというもので、工期を2018年10月1日までとしています。
この発表を読むと、八ッ場ダムの本体が2018年に完成するようにも受け取れますが、本体完成予定年度に変更はありません。基本計画(2013年11月変更)の工程表による2019年度完成予定のままです。
工事の契約が複数年度に及ぶ場合は、国庫債務負担行為となり、国会の議決と財務省の承認が必要で、その期間の上限は5年までとなっていますので、2014年度から開始する予定のダム本体工事の契約は2018年度までしか結ぶことができません。こうした事情から、入札公告の工期は50カ月(2018年10月まで)になっています。
残りの本体工事については、入札公告に次のように記されています。
わかりづらい文章ですが、そのあとの工事は、今年8月に落札した工事業者が随意契約を結んで本体工事を完成まで続けるということです。
◆入札公告の31ページより
「(11)当該工事に直接関連する他の工事の請負契約を当該工事の請負契約の相手方との随意契約により締結する予定の有無 有 (随意契約により締結する予定の工事の範囲等は、入札説明書参照)。」
(2)本体工事の着手時期は依然として未定
太田昭宏国交大臣が昨年12月24日の記者会見で、八ッ場ダム本体工事の「具体的な着工時期は検討しているところで、現時点では未定」と述べており、その後、着工時期について国交省から新たな説明はありません。
今回の入札公告は、本体工事の着手時期が未定のままでは具合が悪いので、ダム本体の工事業者を前倒しで決めておくために行われたものであると推測されます。
基本計画の工程表では2014年10月から本体工事を始めることになっているにもかかわらず、太田大臣が着工時期が未定であると言明したのは、実際の着工時期が2014年10月より遅れる可能性が高いことを意味していると考えられます。
ダム本体工事着手時期の遅れは、付替鉄道の完成が遅れていることなどによると推測されます。付替鉄道を完成させ、現鉄道を廃止しないと、ダム本体の工事を開始することができないからです。
付替鉄道の工事で最も遅れているのは、川原湯温泉・新駅の付近です。新駅の駅舎は今年2月にできるとされていますが、駅前の整備事業は遅れに遅れて用地買収の目処も立っていません。また、JRは安全面の確保のため、慎重を期さなければならないでしょう。こうした事情から、付替鉄道の開通がいつになるのか、分からない状況にあります。
ダムサイト予定地を走るJR吾妻線の列車(写真上)
2 仮締切り工事は現段階では未着手
八ッ場ダム本体工事の準備工事のうち、本体予定地で行われようとしているのは、仮締切工事です。これは、吾妻川の水を仮排水トンネル(2009年完成、約400m)に流すように、ダム本体工事区間の吾妻川を締め切る工事です。
(1)入札の経過
仮締切工事の入札の経過は、入札情報によれば次の通りです。
2013年8月9日 入札公告
10月9日 開札 入札不調
10月28日 再入札の結果、岩田地崎建設㈱が42500万円で落札
工期 2014年7月31日
(2)八ッ場あしたの会の公開質問書のその後の経過
仮締切工事が吾妻渓谷に大きな影響を与えることが懸念されるため、八ッ場あしたの会は昨年8月22日に「八ッ場ダムの仮締切工事と関連事項に関する公開質問書」を関東地方整備局に提出しました。
★公開質問書の内容はこちらに掲載しています。
https://yamba-net.org/wp/?p=5467
それに対して、関東地方整備局は工事の段取りが決まってから回答すると答えるのみで、再三の催促にもかかわらず、未回答のまま、4カ月余りが経過しました。
今年1月8日に改めて、関東地方整備局河川部河川計画課の八ッ場ダム担当の建設専門官に電話で問い合わせたところ、次の返事がありました。
「仮締切工事は業者がまだ準備を進めていて、段取りが決まっておらず、工事に入っていない。工事の段取りがきまらないと、公開質問書に回答できない。工事の段取りが決まったら、約束通り、公開質問書に回答する。いつ工事が始まるかは今の時点では言えない。」
このように仮締切工事はまだ始まっていません。
関東地方整備局の公式発表では、八ッ場ダムの工事が順調に進んでいることになっていますが、実際には本体準備工事が予定より大幅に遅れています。
●名勝・吾妻渓谷には仮締切工事の看板が12月に立てられましたが、まだ工事は始まっていません。
●仮締切工事は八ッ場ダムの本体工事を行うための準備工事です。下の写真中央にあるコンクリートの構造物(仮排水トンネル)の背後に高さ29メートルの小ダムを造って、吾妻川の流れを仮排水トンネルにバイパスさせることになっています。