わが国では、ダムのある市町村にダム所在交付金が支払われることになっています。これは国有資産等所在市町村交付金法に基づく取り決めで、固定資産税の代わりに地元がダムによって得る収入です。交付金はまず、水道、工業用水道、発電のダム使用権設定者が国に納付した後、国が地元に交付するという形をとります。
八ッ場ダムの場合、ダム使用権設定者である東京都水道などは、ダムが完成すれば交付金を負担し、国を通してダムを抱える長野原町に交付金が支払われることになります。
2009年の民主党政権発足時、八ッ場ダム予定地を抱える長野原町では、ダム事業中止を政権公約に掲げた民主党に対抗して、自民党県議らが呼びかけた「ダム中止反対署名」を集める活動が行われました。町内では、八ッ場ダム事業が中止になれば長野原町にダム所在交付金が入らなくなり、その結果、町財政は夕張のように破綻するという噂が流れました。町当局、有力者らがダム推進を打ち出す中、署名への協力は半ば強制的な空気がありましたが、それだけでなく町財政の破綻を心配する町民の心理も署名集めには強力な後押しになったといわれます。
八ッ場ダムが完成した場合、長野原町に入るダム所在交付金はいくらぐらいになるのでしょうか。当会で試算したところ、 30~40年間は毎年8~11億円程度の交付金が見込めます。しかし、将来的には次第に減額されます。また、この交付金の収入があると、地方交付税が減らされてしまいますので、長野原町の純収入は交付金額の25%、つまり2~3億円という結果です。
八ッ場ダム事業によって、340世帯が暮らしていた水没予定地は、人口が激減しました。全水没予定地の川原湯、川原畑の両地区では、ダム事業を受け入れる前の1979年には280世帯でしたが、そのうち約四分の三の世帯が転出してしまいました。地域経済の核であった川原湯温泉も大きなダメージを受けています。これらのマイナス要素による長野原町の税収減を考えれば、年間2~3億円というダム所在交付金の金額は決して多いとは言えません。
八ッ場ダム予定地は自然と歴史遺産に恵まれた土地です。国の名勝・吾妻渓谷、自然湧出の川原湯温泉、縄文時代から江戸・天明期までの遺跡の宝庫などを活かせば、再生の可能性は無限に広がります。これらの資源は、ダムに沈められれば、二度と元には戻りません。
九州では、ダムを抱える町がダム交付金を20年間も請求し忘れたというニュースが飛び込んできました。
◆2014年2月4日 読売新聞九州版
http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/national/20140204-OYS1T00761.htm?from=tw
-ダム交付金20年請求忘れ、うきは市が2水道企業団にー
福岡県うきは市は4日、同市浮羽町の「合所ごうしょダム」(670万トン)から水道水を取水している福岡地区水道企業団と県南広域水道企業団から同市に支払われるべき交付金を、20年間にわたって請求していなかったことを明らかにした。同市と両企業団の双方が失念していたためという。総額は約8億円にのぼり、同市は、地方自治法上の時効(5年)にかからない計2億1000万円を両企業団に請求する方針。
同市によると、合所ダムは九州農政局が建設。両企業団は1994年、利水権の一部を取得し、福岡市など9市8町でつくる福岡地区水道企業団が年間159万立方メートル、久留米市など9市4町でつくる県南広域水道企業団が同74万立方メートルを取水できる。
国有財産の供用などに関する法律では、受益自治体が、立地自治体に固定資産税相当の交付金を支払う義務があるが、両企業団はその認識がなかった。うきは市の担当者が昨夏、財源の洗い出し作業で気づいたという。