八ッ場ダムの水没予定地、川原湯温泉では、王湯が今月末で閉館になり、7月5日に代替地に王湯会館がオープンすることになっています。
川原湯温泉の本来の泉源である元の湯は自然に岩間から湧き出している源泉で、その柔らかな肌触りとまろやかな硫黄の香りが多くの観光客に愛されてきました。間もなく王湯が閉館となってしまうとあって、これまで以上に多くの観光客が王湯を訪れています。
ダム事業によって造成中の川原湯温泉の移転代替地には、ダム事業によって1989年にボーリングで掘り当てた新源泉(新湯)の配湯施設がつくられています。川原湯温泉はもともとは群馬県の県有泉でしたが、2010年に温泉権が町に譲渡されました。このため、配湯施設の建設はダム事業によって行われましたが、将来、維持管理は地元負担になるとされています。
次々と壊されてゆく自然環境とダム事業の工事、代替地の高額な分譲地価、住民の減少、泉質の変化など、小さな温泉場が抱えきれない多くの問題を積み残したまま、川原湯温泉は代替地での再建を目指すことになります。
関連記事を転載します。
◆2014年6月13日 朝日新聞群馬版
http://www.asahi.com/articles/ASG6D4WN0G6DUHNB00H.html
ー閉鎖間近の「王湯」、ファンら名残惜しむー
川原湯温泉(長野原町)の共同浴場「王湯」が、今月末で閉鎖される。八ツ場ダム建設で温泉街が水没するのに先駆けて取り壊すため。伝統の「湯かけ祭り」の舞台としても知られる温泉街のシンボルだけに、県内外から多くのファンが訪れ、名残を惜しんでいる。来月初め、近くの高台にオープンする「王湯会館」に歴史を引き継ぐ。
当初は3月末に閉鎖の予定だったが、2月の大雪による会館周辺整備の遅れで延期されていた。
温泉を運営する川原湯温泉組合によると、5月の入湯者は約2600人で昨年の3割増し。特に週末は東京など県外から訪れる人も多いという。米フロリダ州から東吾妻町に帰省中という女性(66)は「閉鎖を知って駆けつけました。子どものころ何度も通ったので寂しいですね」。
王湯が現在の姿になったのは1967(昭和42)年。男女の内湯と露天風呂があり、小規模ながら柔らかな湯と渓谷美が人気で、県外からのリピーターも多い。休憩所は公民館としても利用され、かつてはダム反対集会も開かれた。ふんどし姿の男たちが湯をかけ合う奇祭「湯かけ祭り」の舞台にもなってきた。
だが、ダム問題に翻弄(ほんろう)される中で住民の転出が相次ぎ、最盛期に22軒あった旅館は現在2軒だけ。三つあった共同浴場も王湯を残すだけとなっていた。建物や浴槽は取り壊すが、水没する源泉には保存工事を施し、いずれ代替施設として後を継ぐ王湯会館の浴槽にも引き込む予定という。
王湯会館は、新たな源泉から湯をくみ上げる。鉄筋2階建て、延べ床面積335平方メートルと王湯よりも若干広い。1階が浴場、2階が畳敷きの休憩所で、ダム湖ができれば一望できるのが売りだ。湯かけ祭りも来年からここに舞台を移す。
約2億2700万円の整備費はダムの補償金と下流都県の負担金で賄う。ただ、光熱費や清掃代、スタッフの人件費などは地元の川原湯区の負担で、美才治(びさいじ)章区長(67)は「王湯よりずっと維持費がかかる。住民みんなで知恵を絞って頑張りたい」。秋の本体工事着工や八ツ場大橋開通をにらみ、集客に力を入れる考えだ。
王湯の閉館は30日午後6時。王湯会館のオープンは7月5日午後1時で、入浴料は500円(小学生以下300円)。問い合わせは川原湯温泉組合(0279・83・2591)へ。(土屋弘)
【参考資料】川原湯温泉における温泉配湯について 八ッ場ダム工事事務所 調査設計課 大年信裕
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000080051.pdf
朝日新聞群馬版では、川原湯温泉の対岸の林地区にオープンして1年を経過した道の駅のにぎわいを伝える記事も掲載されています。
八ッ場ダム事業では水没五地区の各地区に下流都県の負担により地域振興施設を建設することになっており、一部水没予定地の林地区に建設された「道の駅」もその一つです。ダム事業が始まるまで、ダム予定地域の経済の中心は川原湯温泉でしたが、全水没を宣告された川原湯地区は、一部水没の林地区よりはるかに犠牲が大きく、地域破壊が深刻です。地域振興施設の計画も川原湯地区では決まっていません。
◆2014年6月12日 朝日新聞群馬版
http://www.asahi.com/area/gunma/articles/MTW20140612100580001.html
ーオープン1年、「八ツ場ふるさと館」好調ー
八ツ場ダム建設に伴う地域振興施設として昨年春、長野原町にオープンした道の駅「八ツ場ふるさと館」の業績が好調だ。この1年間に約50万人が訪れ、売上総額は約2億7500万円と目標を2割上回った。今秋の本体着工が見込まれる中、さらなる飛躍をめざすが、課題も浮き彫りになってきた。
ふるさと館は、ダムの受益者である流域6都県がつくる基金で町が整備。水没地区の住民らが立ち上げた株式会社が、町から施設を借りて運営している。地元産の野菜などを売る直売所やコンビニ、レストランなどを併設し、昨年4月27日に開業した。
当初は採算を心配する声もあったが、行楽シーズンには県内外からの観光客でにぎわう。特に人気があるのが、地元農家がつくった「朝採れ野菜」や果物、まんじゅうなどの直売。午前中に品切れになることもあり、売り上げの35%を占める。利益の一部は73人の株主に還元し、初年度は免除と決まっていた町への賃料も支払うことにした。
草津温泉や北軽井沢に向かう国道バイパス沿いにあり、水没予定地が一望できる不動大橋が近い。この立地の良さに加え、知名度では抜群の「八ツ場」にひかれて立ち寄る人も多い。
利用者を対象にした「好きな道の駅」アンケートでは、関東地方の147施設中、ふるさと館は初登場ながら13位(1位は5年連続で藤岡市の「ららん藤岡」)と健闘している。
篠原茂社長(63)は「1年目はビギナーズラックもあった。軌道に乗るかどうか、2年目が勝負」と、夏の行楽シーズンを前に気を引き締める。
実際、この1年で多くの課題も浮かんできた。(1)駐車場が大型バス6台を含め90台分しかなく、すぐに満車になる(2)レストランと食堂がともに30席と手狭。団体客の席が足りず、2階の会議室を開放したこともあった(3)直売所の冬の売り物が少ない――などだ。
篠原さんは「駐車場や食事スペースの拡充を町にお願いするほか、年間を通して売れる加工品の充実に努めたい」と話している。(土屋弘)