7月13日の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」第11回会議で中間取りまとめ(全国84ダム事業を検証する手順と判断基準)の案が発表されました。
その検証手順を八ッ場ダムにあてはめれば、八ッ場ダム事業の必要性をホームページ等で今なおPRし続けているダム事業者の関東地方整備局自らが検証し、さらに、ダム建設を強く求める6都県知事等による「関係地方公共団体からなる検討の場」が設置されて、その検討の場の意見を踏まえて、検証が進められることになりますので、客観的科学的な検証はなされず、八ッ場ダムは継続が妥当という結論になる可能性がきわめて高いと考えざるを得ません。八ッ場ダムをはじめ、ダムの検証作業は、委員を公募した第三者機関によって公開の場で市民参加のもとに客観的に行うことが、真のダム見直しを進めるための必須条件です。
私たちは11日付で別紙のとおり、八ッ場ダムについて真の科学的な再検証が行われるように「八ッ場ダム等の再検証に関する緊急提言」を提出しました。今回の中間取りまとめの案では、さらに危惧すべきことがありますので、緊急の意見を表明いたします。
1.残事業費を基本とするコストの最重視でよいのでしょうか
中間取りまとめの案ではダム案と代替案との総合評価において、残事業費を基本とするコストを最も重視すると書かれています。しかし、これでは、ダム事業の建設が進むほどその残事業費が小さくなって、ダム案が有利となり、ダム案が自動的に選択されることになります。
八ッ場ダムについては事業を継続すれば、地すべり対策費、工事の遅れに伴う追加予算などで、事業費がこれまで同様、今後も大きく膨らむことが予想されますので、現在の計画の枠内での残事業費は決して客観的な評価の物差しにはなりません。
さらに、コスト最重視ではダム事業がもたらす様々なマイナス面(災害誘発の危険性、自然への多大な影響など)の評価は二の次となります。また、八ッ場ダムは土砂の流入による堆砂計画量が利根川の既設ダムの実績と比べて著しく小さく、ダムの利水機能が計画よりかなり早く低下すると予想され、そのことも正しく評価すべきです。八ッ場ダムは建設されれば、子孫にとって巨大な負の遺産となることは必至です。残事業費を基本とするコスト最重視ではなく、ダム事業がもたらす様々なマイナス面を重視して、代替案との比較評価を行うことを要望します。
2.ダム予定地の人々はいつまで生活再建を待たされるのでしょうか。
ダム事業の検証結果については事業規模の違い等を考慮して国土交通大臣への報告期限を特に定めないとされています。
検証の結果、ダム中止の場合、その後、ダム中止に向けての法的な手続きがとられることになりますが、八ッ場ダムの場合、それが終るのは何年先のことになるのでしょうか。八ッ場ダム予定地の人たちはその間、現在の宙ぶらりんの状態のまま放置されるのでしょうか。ダム予定地の人たちに耐えがたい苦痛をこれ以上強いることは、あまりに酷いことです。
前原国交大臣は八ッ場ダムについては予断なき検証を行うものの、その中止方針は変わらないと言明されているのですから、中止を前提とした生活再建、地域再生の案を地元に提示し、地元の合意形成を得たうえで、その実施に取り組むべきではないでしょうか。
水没予定地における居住、営業は日々困難となっており、地元住民は騒音、振動などの劣悪な環境の中、生活権を侵害される状況が続いています。ダム行政の犠牲になってきた住民への支援は、ダム事業の検証作業とは切り離して、早急に取り組むよう改めて強く要望します。
国土交通大臣 前原 誠司 様
「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」座長 中川博次 様
今夏に発表される予定の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の中間とりまとめについて提言を申し上げます。
去る6月10日の第10回会議でそのタタキ台が示されましたが、それにそってダム事業の再検証を行えば、八ッ場ダムをはじめとする多くのダム事業は中止ではなく、むしろ推進が妥当であると結論が出ることが予想されます。
「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるとの考えのもとに設置された有識者会議の取りまとめによって、逆に多くのダム事業が推進されることになれば、流域住民の支持を失った河川行政の変革を求めてきた国民の期待を大きく損なうことになります。
中間とりまとめのタタキ台の検証手順を八ッ場ダムに当てはめれば、次のように検証が行われることになります。
(1) 八ッ場ダムの検証検討主体は、第三者機関ではなく、関東地方整備局であって、八ッ場ダムの事業者自らが検証を行う。
(2) 6都県知事等で構成する「関係地方公共団体からなる検討の場」が設置され、関係都県民の民意とはかけ離れた「八ッ場ダムを推進せよ」という大合唱の場が用意される。
(3) 八ッ場ダムの見直しを求める市民はパブリックコメントだけで、検証作業から排除される。
(4) 治水・利水についての検証は、ダム事業者等が今までにも一応行ってきた一般的なダム代替案との比較を行うだけである。
(5) 八ッ場ダム事業の重要な問題である地すべり等の災害誘発の危険性は検証のテーマから外されている。
このような検証では、八ッ場ダム建設事業は継続が妥当という結論になる可能性がきわめて高いと考えざるをえませんが、お手盛りの検証作業では国民の理解、支持を得ることは到底不可能です。
「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるという有識者会議の本旨に立ち返って、検証の手順と内容を根本から再構築されることを強く要望いたします。
つきましては、そのための提言を申し上げますので、真摯に受け止めてくださるよう、お願いいたします。
提 言
1 ダムの検証は住民参加を保証した第三者機関で
(1)中間取りまとめのタタキ台による検証作業で危惧されること
① ダム事業者自らの検証検討で真のダムの見直しができるのか
中間取りまとめのタタキ台では検証主体は国土交通大臣ですが、実際に検証を行う検証検討主体は地方整備局等、水資源機構、都道府県です。これらはいずれも今までダム事業を推進してきたダム事業者です。
八ッ場ダムの検証検討主体は関東地方整備局となりますが、関東地方整備局の出先機関である八ッ場ダム工事事務所は、国土交通大臣の中止方針表明後も、ホームページでも現地のPR施設(やんば館)でも八ッ場ダム事業の必要性をPRし続けています。今なおダムの推進を図っているダム事業者にダム見直しの作業を委ねて、どうしてダムの是非についての客観的・科学的な検証が行えるというのでしょうか。
② 「関係地方公共団体からなる検討の場」はダム推進大合唱の場
中間取りまとめのタタキ台では、検証検討主体は「関係地方公共団体からなる検討の場」を設置し、検討内容の認識を深め検討を進めることになっています。八ッ場ダムを例にとれば、この検討の場は6都県知事等で構成されることになりますが、知事たちはいずれも八ッ場ダムの推進を強く求めているのは周知のことです。したがって、八ッ場ダムに関する「関係地方公共団体からなる検討の場」が設置されれば、八ッ場ダムの推進を求める大合唱の場になることは目に見えています。
③ ダム事業の見直しを求める市民は検証作業から排除される
中間取りまとめのタタキ台では、ダム事業の見直しを求める市民に関しては、「情報公開を行うとともに、主要な段階でパブリックコメントを行う」ということしか書かれていません。パブリックコメントといっても形式的に意見を聴きおくだけのことですから、検証作業にその意見が反映されることはほとんど期待できません。ダム見直しの機運が高まってきた最も大きな要因は、社会全体にダム事業への疑問、ダム事業の見直しを求める声が大きく広がってきたことにあるにもかかわらず、そうした民意を排除した検証作業で真のダム見直しが行えるとは到底思われません。
八ッ場ダムの関係都県知事らは、これまでたびたび、検証作業に知事らの意見を反映させることを主張し、それが上記の「関係地方公共団体からなる検討の場」となっています。一方、市民団体は、検証作業を公開で行う河川行政の民主化を求めてきました。ダムを推進してきた知事らの意見のみが尊重され、ダム事業の見直しを求めてきた市民団体の意見が無視されるのでは、ダム推進のための形ばかりの検証になることが目に見えています。
(2)ダムの検証は住民参加を保証した第三者機関で
ダムの検証作業は、委員を公募した第三者機関によって公開の場で住民参加のもとに客観的に行うことが、真のダム見直しを進めるための必須条件です。淀川水系流域委員会は住民参加を保証した第三者機関であったからこそ、淀川水系ダムの見直しを求めた意見書をまとめることができました。河川行政の民主化の先駆けとなった淀川水系流域委員会をモデルとして検証作業を次のように進めていくことが是非とも必要です。
① 検証主体は委員を公募した第三者機関とする。
② 検証作業は公開の場で行う。
③ 検証の会議では住民も意見書の提出と意見の陳述、意見交換ができるように住民参加のもとに行う。
④ 検証の結果を出すに当たって十分な議論を保証する。
2 ダム事業優先の治水計画の抜本的見直しが必要。代替案のメニューとの比較だけではダム見直しは困難
中間取りまとめのタタキ台では、河川整備計画の目標と同程度の安全度を確保することを基本とし、ダムの代替案を複数案用意してダム案とともに環境への影響などの評価軸ごとに評価し、総合的な評価を行うことになっています。このような代替案との比較は、ダム事業者がダム事業の再評価に当たって今までも行ってきたことですが、そこではいつもダム事業が最も有利という結論が出されてきました。
八ッ場ダムの利根川水系では、今まで、次のようにダム事業を推進する治水計画が策定され、ダム推進のキャンペーンが張られてきました。
① 実際の洪水流量とかけ離れたきわめて過大な流量を治水計画の目標流量(基本高水流量)にして、ダムによる洪水調節の必要性をつくりだしてきた。
② 八ッ場ダムの治水効果を過大に評価する結果を示して、八ッ場ダムなしでは利根川の治水が成り立たない印象を与えてきた。
③ 利根川の流下能力を過小評価して、八ッ場ダムが無いと氾濫すると思わせるような氾濫想定図を示してきた。
このように今まではダム事業が先にありきの、科学性を欠いた治水計画、河川行政が進められてきたのですから、そこにメスを入れて、河川行政の抜本的な見直しをしなければなりません。ダムの代替案のメニューとの比較だけでは、客観的、科学的な検証とはいえません。
科学的、客観的にダム事業の検証作業を進めなければ、ダム事業を止めるか否かは従来通り、河川管理者(ダム事業者)の胸先三寸で決まることになり、八ッ場ダム等の多くのダム事業にゴーサインが出ることが予想されます。
3 ダム事業を前提とした利水計画の抜本的見直しが必要。ダム事業者と利水参画者とのキャッチボールではダム見直しは困難
中間取りまとめのタタキ台では、検証検討主体(ダム事業者)と利水参画者が利水対策案についてキャッチボールをして、検討することになっていますが、今まで利水参画者はダム事業者と一体となって、ダム事業推進の理由をつくるための利水計画を策定してきました。他のダムも同様ですが、八ッ場ダムに関しては次のようなことが行われてきました。
① 水道用水等の需要は増加が止まり、減少傾向になってきているにもかかわらず、東京都等の利水参画者の予測では将来の需要は増加していく。
② 地盤沈下はすでに沈静化しているにもかかわらず、東京都等の利水参画者は地盤沈下対策として水道用地下水を削減するための代替水源をダム計画に求めてきた。
③ 河川の流量に余裕があって、取水に支障をきたしたことがないにもかかわらず、関東地方整備局は埼玉県等の利水参加者の水利権を暫定水利権として、八ッ場ダム等による暫定解消が必要であるとしてきた。
このようにダム事業を前提とした利水計画がつくられ、それによって八ッ場ダム事業が推進されてきました。そのような利水計画を策定してきたのが東京都等の利水参画者と関東地方整備局ですから、利水参画者とダム事業者が検証検討を行ってもダムに代わる利水代替案がでてくる可能性はきわめて小さいといわざるをえません。従来の利水計画にメスを入れてそれを根本から改善することが必要です。
そのためには、治水についての検証と同様、利水についてもダム事業者に検証検討を委ねるのではなく、住民参加を保証した第三者機関によって、基礎データから洗い直し、従来の利水計画にメスを入れ、科学的、客観的な検証作業を進めることが必要です。
4 災害誘発の危険性も検証のテーマに
八ッ場ダムの建設において最も憂慮されている問題の一つは、地すべり等の災害誘発の危険性です。八ッ場ダム貯水池予定地の周辺は地質が非常に脆弱で、国土交通省の調査でも地すべりの可能性があるところが22箇所もあります。実際に付替国道等の工事では、斜面崩壊等の事故が相次いでいます。
また、最近になって、国土交通省が造成中の代替地が宅地防災マニュアルの安全基準を満たしていないのではないかという問題も指摘されています。八ッ場ダムがもしできれば、貯水池周辺の各所で地すべり等の災害が起きることが専門家から指摘されているのですから、ダム事業の検証においては災害誘発の危険性も検証のテーマにすることが必要です。
5 関連工事の仕分けと検証作業中の工事凍結、水没予定地住民への支援が急務
八ッ場ダム予定地では、生活関連事業の名の下に凄まじい工事が行われており、水没予定地の生活と環境の破壊が進んでいます。しかし、生活関連事業といっても実際にはダムが中止になれば不要となる工事、水没予定地での住民の生活を脅かす工事もあり、二車線で終わる可能性の極めて高い付替国道工事のために四車線の用地買収が進められるなど、公費の無駄使い、住民の真の生活再建を阻害する事業が多々含まれています。
現在進行中の工事の仕分け作業を至急行って、中止後も必要となる工事と安全確保のための工事のみを進めることにし、その他の工事は検証作業終了まで凍結する必要があります。
一方、水没予定地における居住、営業は日々困難となっており、地元住民は騒音、振動などの劣悪な環境の中、生活権を侵害される状況が続いています。ダム行政の犠牲になってきた住民への支援は、ダム事業の検証を待たず、早急に取り組む必要があります。
以上