2010年9月24日
国土交通大臣 馬淵 澄夫 様
八ッ場あしたの会
代表世話人:野田知佑ほか
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
国土交通大臣ご就任にあたり、八ッ場ダム問題の早期解決を願い、要請書をお送りします。
昨年の政権交代直後、前原誠司前大臣は八ッ場ダム中止を宣言され、その後、「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の発足、ダム予定地住民との意見交換会などに取り組まれました。しかし、ダム予定地では生活再建の手立てが何ら講じられないため、地元住民は先行きが見えない不安な日々を送ることを余儀なくされています。
この間、ダム予定地では、八ッ場ダムの関連事業である道路、橋脚、砂防ダムなどの工事が進捗する一方で、生活、自然の著しい破壊が進みました。民主党政権は「コンクリートから人へ」税金の使い道を変える大胆な改革に着手することを目標に掲げ、多くの国民がこれに期待しましたが、八ッ場ダム事業を見る限り、コンクリートの建造物は増えるものの、ダム予定地の人々の生活や流域住民の声は踏みにじられるばかりです。これでは自民党政権下と何も変わりません。
半世紀以上続いてきた巨大ダム計画をめぐる政策の転換が容易でないことは理解できますが、これまでの手法を踏襲するだけでは事態の打開は期待できません。問題の先送りは、ダム予定地で生活している地元の人々に破綻したダム計画のツケを負わせるものです。
新大臣主導の下、改めて以下の点について真摯な取り組みがなされ、地元の人々にとっても一般国民にとっても希望がもてる政治が行われることを希望してやみません。
1.ダム予定地の生活再建を図るための取組みに早急に着手してください。
八ッ場ダム事業の検証が始まろうとしていますが、その検証作業がいつ終わるのか、見通しも明らかにされておらず、地元住民は先行きが不透明なままの、宙ぶらりんの状態に据え置かれようとしています。将来の生活設計を描くことができないまま住民を放置することは、人道上も問題です。
昨年の前大臣の中止言明を受けて、ダム中止を前提に、水没予定地から移転をせずに現地での生活再建の道を探ろうとした住民も少なからずいましたが、そのような住民に対して何の手も差し伸べられないため、住民の方たちは無為な1年を過ごすことを余儀なくされました。
中でも、地域の中核ともいえる川原湯温泉街は、ダム事業の行方が混沌とした状況の中、ダムの工事現場に取り囲まれ、老朽化した施設で営業を続けなければならず、そのダメージは計り知れないものがあります。また、農村地帯においても、地域の方向性が見えず、住民は不安と焦燥の中で生活を送っています。
このような地元の人々の犠牲は、単にダム中止方針のためということではなく、ダム計画そのものに大きな無理があることによるものですが、民主党政権がなぜこうした事態を放置するのかと、多くの人々が疑問に思うのも無理はありません。
地元住民の生活再建支援は待ったなしの状況です。
これ以上、地元の人々に犠牲を強いることのないよう、政治判断によって以下の施策に取り組んでください。
(1) 八ッ場ダム予定地の人々の生活再建、地域振興を目的とした政策チームを設けること。
(2) 地元の住民個々人に対して、丁寧な聞き取り調査を行い、住民の要望と現状の把握をより正確に行うこと。
(3) (2)の調査に基づき、現況の中で国の責任において実施可能な生活再建支援措置を早急に実施すること。
(4) 生活再建関連事業という名の下に進められている様々な事業・工事の中身を精査し、生活再建に真に必要な事業を優先して進め、水没予定地の自然、景観を大きく損なう工事の見直しを行うこと、さらに、四車線で計画され、用地買収が進められてきた付替え国道の二車線化への見直しを早期に実施し、道路用地の利活用を図ること。
(5) ダム予定地住民の生活再建、地域の再生を支援するための法整備に早急に取り組むこと。
2.代替地の安全性確保のために入念な検討を担当部局に指示してください。
八ッ場ダム事業では、地元住民がダム計画を受け入れる条件として、国が住民の「現地再建」を可能とする代替地をダム湖予定地周辺に造成する約束がなされており、代替地の造成が進められてきた経緯があります。
川原湯地区の打越代替地は山の斜面を切り開き、谷を埋め立ててつくる人工造成地です。ここでは谷を埋め立てる盛土の高さが深いところでは30~40mにも及んでいます。このように超高盛り土の造成は民間の宅地造成では例がないものですから、その安全性について入念な検討がされなければなりません。
ところが、国交省は川原湯地区の打越代替地等についてこれまで安全計算の根拠となる資料を公開してきませんでした。群馬県議会でそのことが問題になり、ようやく、さる8月末に資料が県に提出されました。しかし、その内容はひどく簡単な計算結果を示したもので、しかもダムに貯水しないケースの計算結果だけでした。貯水した場合の安全性は考えていないのでしょうか。貯水しないことを前提とした今回の計算も、安全という結果が出るような前提条件が最初からおかれていて、本当に安全であるのか、疑問が残るものでした。
代替地の分譲価格は周辺の地価と比べて非常に高額です。移転住民が補償金の大半を注ぎこんで取得しつつある代替地が安全基準を満たさない欠陥商品であるというのはあってはならないことです。
国交大臣として、代替地の安全性について入念な検討を担当部局に指示し、その結果をすべて公表して、問題がある場合は、その対策を明らかにしてください。
3.八ッ場ダムの治水・利水代替策を早急に策定するように担当部局に指示してください。
10月1日に八ッ場ダム事業に関する「関係地方公共団体からなる検討の場」が設置され、検証作業が始められることになっています。八ッ場ダムの検証に当たっては、代替地の安全性を含め、これまで明らかにされてこなかった八ッ場ダム事業に関する情報公開を進め、民主的に検証作業が実施されることを多くの国民が望んでいます。
この検証作業がいつまでかかるのか明らかにされていませんが、八ッ場ダム計画が多くの問題を抱え、ダム予定地住民に長年犠牲を強いてきたことを考えれば、これ以上問題を先送りにすることなく、すみやかに結論を出すべきです。
八ッ場ダムの不要性はすでに明白なことで、長い期間をかけて改めて検証しなければならないことではありません。少なくとも、八ッ場ダムの構想が浮上してから、60年近くの歳月が流れましたが、その間、利水・治水の両面で八ッ場ダムがなくて支障をきたしことはなく、その事実が八ッ場ダムの不要性を明確に物語っています。八ッ場ダムなしで済む治水と利水の計画をつくらなければならないとしても、それはそれほど難しいことではありません。
(1) 八ッ場ダムなしの治水計画の策定
治水については八ッ場ダムなしの利根川治水計画を策定する必要がありますが、すでに中止が事実上決まった川辺川ダムについては、国交省の手でダムなしの治水計画案がつくられつつあります。
川辺川ダムは球磨川のこれまでの治水計画(工事実施基本計画)では、その洪水調節効果のウエイトが非常に高く、基本高水流量(人吉地点)7,000m3/秒のうち、約2,600m3/秒、すなわち、約37%をカットすることになっていました。それに対して、八ッ場ダムは利根川のこれまでの治水計画(工事実施基本計画)では基本高水流量22,000m3/秒のうち、600m3/秒、すなわち、3%をカットするだけです。川辺川ダムの治水代替策がつくられつつあるのに、川辺川ダムと比べると、これまでの治水計画上のウエイトが1/10程度しかない八ッ場ダムについて代替策がつくれないはずがありません。
実際には、八ッ場ダムの小さな治水効果を代替できる、河床掘削などの河道整備の計画をつくればすむ話です。
国交大臣として、八ッ場ダムの治水代替策を早急に策定するように、担当部局に指示してください。
(2) 水利権許可制度の改善
利水については水道給水量が減少の一途を辿るようになっていますので、八ッ場ダムが必要だという論拠はその暫定水利権が埼玉県水道等に設定されていることくらいです。しかし、この暫定水利権は暫定とはいえ、実際には長年の取水実績があり、古いものは40年近くの取水実績があって取水に支障をきたしことがほとんどなく、実態としては安定水利権と何ら変わりません。
暫定水利権は国交省の水利権許可制度に問題があります。ですから、八ッ場ダムの暫定水利権は国交省の水利権許可制度を改善すれば解消されることです。
このことを踏まえ、国交大臣として、八ッ場ダムの暫定水利権を安定水利権に変えるためには現行の水利権許可制度をどのように改善すればよいのか、その方策を示すように担当部局に指示してください。
以上