2011年12月23日
八ッ場あしたの会
代表世話人 野田知佑ほか
このたび、八ッ場ダム建設を決定したことについて、私たちは歴史に残る愚挙であると考え、ここに抗議の意思を表明します。
八ッ場ダム計画は、これまで60年間、多くの人々に不幸をもたらしてきました。必要性が皆無であるにも関わらず、災害誘発の危険性が高いダム建設に着手することは、後の世代に取り返しのつかない負の遺産を押しつけることになります。
八ッ場あしたの会は、不要なダム建設を見直し、犠牲を強いられ続けてきたダム予定地域の再生と住民支援こそ、喫緊の政策課題であると訴えてきました。政治は弱者や虐げられてきた人々に希望の光を届けることが最大の責務と考えるからです。
しかしこの間、国土交通省は、ダム絡みの生活を余儀なくされた地域の人々をダム推進キャンペーンに駆り立てる一方、ダムに依存しない真の生活再建や生活再建を支援する法整備には一切取り組もうとしませんでした。関東地方整備局によって実施されたダム検証も、科学性・客観性を欠くものであり、利権構造を守ることにのみ熱心なその姿勢を国民にさらけ出すことになりました。
国も関係都県も、ダム中止が地元の人々の生活を蔑ろにするかのような世論誘導を行ってきましたが、ダム計画が地元の人々の生活を破壊し続けてきたことは、歴史が証明するところです。
八ッ場ダムの検証で明らかにされたように、今後、事業費の再増額、工期の三度目の延長、その延長線上でのダム計画の四度目の変更は必至です。工期の3年延長は国交大臣が国会でも答弁していることですが、基本計画の変更を関係都県が拒否しており、八ッ場ダム事業はこれからさらに混沌とした状況を呈することになります。
地形や地質を無視した八ッ場ダム事業では、関連工事の中に工事難航箇所が各所にあり、JR吾妻線の付替えをはじめとして、完成の目処が立たない工事も少なくありません。たとえ工事が終了したとしても、高盛土の人工造成地の安全性、過剰なインフラ設備の維持管理費は今後、大きな不安要因として住民の肩にのしかかってくることになります。
この60年間、八ッ場ダム事業は迷走してきましたが、今回のダム建設決定によって、状況はさらに混迷することが予想されます。こうした事態が地元の人々を一層苦しめることを危惧せずにはいられません。
ダム予定地はこれまでも関連事業によって地形が改変され、凄まじい破壊が行われてきました。しかし、ダム湖に水が貯められれば、地すべりなどの危険性が高まり、犠牲がさらに増幅することが懸念されます。貯水後のダムは、上流から流れ込む土砂によって計画の数倍以上の速度で埋まり、ダムとしての機能を次第に失っていきます。ダムに溜まる土砂には、上流から流れ込むヒ素も堆積し、将来にわたって解決不能の問題が生じる可能性があります。また、数百年周期で大爆発を繰り返してきた浅間山による火山災害も、八ッ場ダムの出現によってさらに被害が大きくなる可能性があります。
こうした将来の危険性を考えるとき、かつて水没予定地でダム闘争に人生を奪われた住民が、八ッ場ダムは決して造ってはならないダムであると言い遺した言葉を、改めて噛みしめなければならないと思います。
今回の政府による決定は、官僚の暴走、政治の無力を私たち国民に強く印象づけるものでした。八ッ場あしたの会では、こうした状況を踏まえ、今後起こることが予想される様々な深刻な問題の追及に努め、さらに多くの人々に八ッ場ダム問題を伝え、八ッ場ダム事業の中止をめざす活動を続けていく所存です。