2013年6月1日
浜田篤信
利根川流域市民委員会共同代表・元茨城県内水面水産試験場長
2013年2月、ニホンウナギが絶滅危惧種ⅠB類に指定され世間の注目を集めている。
かつては小川の隅々まで登ってきたあのウナギがである。なぜ、これほどまでに減少したのか。4月19日(金)の朝日新聞「私の視点」で、塚本勝巳氏(日本大学教授)は、ウナギが減った原因は、「まず、何といっても取り過ぎである」とし、第二の原因をコンクリート護岸化など河川環境の悪化を、第三に海洋環境の変化をあげている。これが、おそらく現在の一般的認識であろう。そして私も、このことを否定するものではない。しかし、「取り過ぎ」ではなく、河川環境の悪化、特に利根川水系のそれを第一としたい。
1 利根川水系の重要性
全国のウナギの漁獲量(利根川水系を除く)をみると、不思議なことだが、利根川水系の二大水門(霞ヶ浦:常陸川水門、利根川:利根河口堰)の建設が起点となって全国の漁獲量が減衰していることが下左図から伺える。減衰の始点は図中の矢印の起点から5~7年遅れて始まっているが、この時間はシラスウナギから成魚になる時間に相当する。特に、1970年に始まる漁獲量減少では2500tから1500tへ、常陸川水門完全操作では1500tから1000tへ減少している。霞ヶ浦水資源管理が開始されるのは1996年であるが、その7~8年後には更なる激減が始まっている。この3回の不連続減少以外に漸減がみられその原因としてこの期間(1970~現在)の利根川水系約30基のダム建設の影響が考えられる。
以上の検討結果からニホンウナギ減少原因として「利根川水系河川工事」仮説が浮かび上ってくる。
2 乱獲説の落し穴
ウナギに限らず魚介類減少の原因として、第一にとり上げられるのが「乱獲」である。原因を乱獲とすれば困る者はいない。漁業者自身が、そう信じている節がある。シジミを例にあげると、全国の多くの生産地で、乱獲が犯人にされている。全国のシジミは、最盛期の1970年には56,000tに達し、その68%の37,955tが利根川産であった。現在、利根川ではシジミ漁獲量は皆無であるが、その原因は、利根川水系の二大水門(常陸川水門・利根河口堰)にある。シジミの漁獲量変動とウナギのそれとを比較すると殆ど同じ傾向で減衰している(下右図は、過去最大値を1.0とした漁獲量相対値を減衰開始時を起点として図示)。このことからウナギとシジミの減少の主因が、同一であり水門建設等の河川工事にあることがわかる。
3 生物多様性保全を保障する河川整備計画を
では、どのように利根川水系のウナギが全国のウナギ資源に影響を与えるのか。グアム島付近で行われる産卵への寄与の大きさであろう。産卵回遊ルートの仮説の一つ、マリアナ海域の海底山脈沿いルートを採用すると利根川水系のウナギの寄与が最大と考えられるからである。2008年6月には「生物多様性基本法」も施行された。生物多様性保全を確保できる河川整備計画が求められる。