八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

2016年の計画変更による地すべり等の対策

八ッ場ダム事業の問題点

ダムによる損失と危険性

(作成日:2017年8月1日)

もろい地質

2016年の計画変更による地すべり等の対策

1.地すべり等の対策による事業費の増額

国交省関東地方整備局は2016年12月、八ッ場ダム事業の5度目の基本計画変更を行い、事業費を4,600億円から5,320億円へと再び増額しました。増額要因の中に、地すべり等の安全対策として141億円の増額が含まれていました。その内訳は、地すべり対策96億円、水没住民の移転代替地の安全対策44億円です。

地すべり対策を行うことになった川原畑地区の二社平(じしゃだいら、岩山)。左側の穴山沢は代替地の一部として盛り土で造成され、町営住宅等が建てられた。2017年1月31日撮影。

地すべり対策を行うことになった川原畑地区の二社平(じしゃだいら、岩山)。
左側の穴山沢は代替地の一部として盛り土で造成され、町営住宅等が建てられた。2017年1月31日撮影。

これまでの基本計画では、地すべり対策はわずか6億円、代替地の安全対策はゼロでしたから、当然の増額です。ダム予定地は地質の脆弱なところが多く、貯水して水位を上下すれば、地すべりが発生する可能性が高いとされてきました。また、30メートル以上にもなる超高盛り土の代替地も、湛水後の安全性について大きな不安が持たれていました。

図1 地すべり対策の地図と対策箇所一覧
(「八ッ場ダム建設事業報告」国交省関東地方整備局による事業評価監視委員会配布資料 平成28年8月12日)

図1

図2 代替地の安全対策の地図と対策箇所一覧
(「八ッ場ダム建設事業報告」国交省関東地方整備局による事業評価監視委員会配布資料 平成28年8月12日)

図2

2.地すべり対策箇所を減らして「コスト縮減」

国交省は2011年の八ッ場ダム検証報告において、地すべり対策と代替地の安全対策が16箇所で必要であることを示しました。ところが、今回の計画変更では、地すべり対策が必要とされた11ヵ所のうち、5ヵ所が「対策不要」とされました。

図3 地すべり検討・対策個所一覧
(「八ッ場ダム建設事業報告」国交省関東地方整備局による事業評価監視委員会配布資料 平成28年8月12日)

図3

上湯原の崖錐堆積物。2011年6月11日撮影。

上湯原の崖錐堆積物。2011年6月11日撮影。

対策不要とされたのは、地すべり地の久森沢(林)と未固結堆積物が堆積している川原畑①、②、川原湯、林です。
その一つ、川原湯地区の上湯原は、水没予定地から移転したJR吾妻線の川原湯温泉駅の周辺です。上湯原には背後の金鶏山から崩落した崖錐堆積物(がいすいたいせきぶつ)などの未固結堆積物が広く分布しています。

図4 上湯原の地層(国交省資料)

図4

崖錐堆積物層は風化して剥離した岩屑(がんせつ)が落下し堆積してつくられた地層で 未固結であるため透水性が高いことから、地すべりや土石流を起こしやすいとされ、ダムに貯水すれば、地下水位の変動で地すべりの危険性が高まることが心配されています。
2011年の検証報告では、JRの駅や住宅があることから特に重視され、地すべり対策個所のうち最も高額な20億円の費用をかけて押さえ盛土工法を行う必要があるとされていました。

さらに、2016年の計画変更で対策を講じることになった地区も、専門家が国交省の情報開示資料を検討したところ、計画されている工法では安全性が確保されるとはいえず、将来において多くの不安が残されています。

地すべり対策が十分でなければ、試験湛水および完成後の本格運用で深刻な地すべりが発生して、その対策費用が新たに必要となり、工期が延長される可能性があります。
わが国のダム事業では、次のようにダム完成後の試験湛水で深刻な地すべりが発生して、巨額の追加地すべり対策費が必要となり、工期が大幅に延長された事例があります。八ッ場ダムもそのような事態に至る可能性が十分にあります。

大滝ダム(国交省) 完成時期 2003年度→2012年度 9年延期
追加地すべり対策費 308億円
滝沢ダム(水資源機構) 完成時期 2005年度→2010年度 5年延期
追加地すべり対策費 145億円

  

3.地すべり対策を不要とした根拠資料

 昨年の計画変更で「対策不要」とされた5ヵ所のうち4ヶ所は、「未固結堆積物」のある場所でした。八ッ場ダム湖予定地周辺では、応桑岩屑流堆積物(おうくわがんせつりゅうたいせきぶつ)や崖錐堆積物(がいすいたいせきぶつ)などの未固結堆積物が各所で見られます。
 「応桑岩屑流堆積物」とは、ダム予定地の上流にある浅間山が、前身の黒斑火山とよばれた約2万3千年前、大噴火にともない山体が崩壊したことにより、吾妻川を流れ下った泥流が両岸の斜面に残した堆積物です。
 国交省が「対策不要」と判断するにあたり、どのような調査・検討を行ったのかを確認するため、情報公開請求で入手した資料を以下に掲載します。

地すべり等精査について(応桑岩屑流堆積物斜面)(国交省資料)
図5

図5 (クリックするとPDFが開きます)

図6(クリックするとPDFが開きます)

図6(クリックするとPDFが開きます)

この資料を見ると、応桑岩屑流堆積物斜面の強度を把握するため、針貫入試験を行ったところ、「強度特性として軟岩程度以上の強度を有していること」、露頭調査等から「分布特性として内部に弱層の連続性はなく、また、大規模な崩壊やすべり面はないことが確認できたため」、「応桑岩屑流堆積物からなる斜面の安定性は高い」と判断されたということです。
しかし、針貫入試験は、地表面またはボーリングコアの表面から針を貫入させ、その貫入量等を計測するもので、軟岩か否かの判定に使えても、地すべりを起こさない強度を有しているかどうかの判定に使うことには疑問があります。地すべり対策に高額の費用を要する川原湯地区等を対策箇所から外すために簡易な試験方法である針貫入試験の結果を強引に使ったようにも思われます。

ダムのない状態では安定している斜面でも、貯水により未固結堆積物が水を含んだ時、果たして「安定性は高い」状態が続くと言えるのでしょうか。応桑岩屑流堆積物を安全対策の対象からすべて外すという判断でダム貯水後の安全が確保されるのか、注視していく必要があります。

地すべり対策不要とされた川原湯地区の上湯原。吾妻川の対岸より2017年2月23日撮影。

地すべり対策不要とされた川原湯地区の上湯原。吾妻川の対岸より2017年2月23日撮影。

2016年の計画変更前までの地すべり対策等の経過については、こちらのページをご覧ください。

» 地すべり対策と代替地の安全対策の行方