花輪伸一氏(NPO法人ラムサールネットワーク日本共同代表)
講演内容は、以下の動画でご覧いただけます。
〈配布資料〉 [ » 全ページをまとめて見る ]
(スライド1~2)
まず、日本におけるイヌワシ、クマタカの現状についてお話しし、環境アセスにおける猛禽類調査がどんな方法で行われるているのか、あしたの会の情報公開によって得られた猛禽類の調査報告書(国交省資料)がどんな内容なのかをお話ししたい。
今回分析を行った事業者の業務報告書の一つは、国交省の外郭団体のようなダム水源地環境整備センターがまとめたものであるが、ここはダム事業においてイヌワシ・クマタカの環境アセスをどのようにやるのかというマニュアルも出している。
(スライド3~4)
イヌワシは世界的に見ると、北半球―ユーラシア大陸とアメリカ大陸に分布している。だいたいが草原に棲んでいるが、日本は森林に恵まれているため、草原的な要素を持つ比較的標高の高い森林を主な生息場としている。クマタカはイヌワシと比べ、もう少し標高の低い所、南の方、中国、四国、九州にまで分布域が広がっている。クマタカは森林に棲み、狩り場は森の中の少し開けたところ。
(スライド5~11)
クマタカは羽根を広げると160センチくらい、イヌワシは2メートル近い。我々の背丈と同じか、背丈を超えるくらいの大きさがあり、飛んでいるときの姿は非常に迫力がある。
イヌワシとクマタカは、営巣場所、食性、狩り場が多少違うので、同じ場所でも共存して生きていける。推定生息数はイヌワシが400~650羽(1997~2001年)。絶滅の恐れがある。クマタカは、同年代の推定で2000羽という数字が出ている。鳥の生息数を推定するのは難しいので、こうした大まかな数字が出されている。
日本イヌワシ研究会の調査によれば、イヌワシは1990年頃から繁殖成功率が低下。2000年頃から生息地の消失が広がってきた。クマタカも減少傾向が確認されている。
原因はやはり、開発事業等による生息地の環境悪化、そして密漁、撮影等による営巣妨害もある。好適な営巣場所が減り、狩り場が劣化・消滅。食物の影響が一番大きいとされる。
(スライド12~13)
環境アセスメントにおける猛禽類調査は、大抵の場合、「生態系への影響予測」として行われている。ところが調査は困難という理由から、生態系における「上位性、典型性、特殊性」の注目種を選定して調査することになっている。生態系を真正面から扱うのではなくて、簡単な方法でやるということだ。「上位性」とは、「食物連鎖の上位に位置する種」の意味で、多くの場合、猛禽類が選定される。
八ッ場ダム予定地における調査では、注目種として哺乳類8種、鳥類21種が選ばれたが、色々な理由をつけてクマタカ一種に絞っている。一種だけの調査では、生態系上位種をきちんと調べたということにはならない。
(スライド14~15)
まず、工事前の環境アセスでは、ダムの工事と関係のあるつがいを選び出して、行動圏の内部構造を調査し、ダムの工事と重ね合わせて影響を予測する。大抵は、工事の影響は少ないとして工事にゴーサインが出される。その後、追跡調査によって工事の影響を調べていく。そしてダム完成後、繁殖状況を調査するという段取りになっている。
(スライド16~18)
情報開示された報告書を見ても、なかなか中身が見えてこない。我々が調査をするときは、調査地点をいくつか作って、全体をカバーしていることをまず示さなければならない。しかし報告書では、そこが公開されていない。墨塗りにされたページもある。
(スライド19)
(スライド20~22)
イデア株式会社の単年度の調査では、イヌワシ、クマタカの繁殖―ライフサイクル(求愛期―造巣期―抱卵―育雛)は、秋に始まって翌年の秋に終わるので、会計年度でいうと二年度にまたがってしまう。予算に合わせて、平成23年度、平成24年度となっているが、一サイクルの調査がこんな風に示されている。調査の一番の目的は繁殖状況、生息状況の把握という、非常に曖昧なものになっている。
具体的な報告のページを見ると墨が塗られている。ここには調査地点の位置が書いてある。このぐらい調査地点を取ってあるので、調査範囲を十分カバーしていると言っているはずだが、本当かどうかわからない。そして調べたことを文章でまとめているが、地名は全部墨が塗られている。
隠している理由は、猛禽類保護のため、営巣地がわかると密漁者やカメラマンが来るから隠しているという。この調査は10数年続いている。この間、密漁者やカメラマンが営巣を妨害したことが本当にあったのか、もしあったとすれば、それを報告書に記載しなければならない。だが、そういうことは何も書かれていない。
猛禽類の保護は墨塗りの名目で、調査内容を第三者に評価させないことが本当の理由だと、きつく評価せざるをえない。
栃木県の例では、オオタカの営巣地を野鳥の会の人たちが公開して守るという手法で、猛禽類保護がうまくいっている。密漁者たちは、あの巣は野鳥の会がみはっているから、近づいてはいけないと考える。
(スライド23)
(スライド24)
(スライド25~27)
水源地環境整備センターの報告書は、複数年度にわたる調査報告になっている。墨塗りでわからないだけでなく、猛禽類の所を切り出しただけで、ページが続かず、別の資料が後ろにくっついているところもある。情報公開にしては、あまりにお粗末。
クマタカへの工事の影響予測では、はっきり、工事期間中に繁殖成功率が低下する可能性が考えられると記載している。最近の環境アセスは、影響は認めるが、手を打つから大丈夫とする傾向にある。
「八ッ場ダム予定地周辺に7つがいのクマタカがいて、そのうち5つがいのクマタカの繁殖テリトリー内で工事が実施されるので、工事期間中に繁殖成功率が低下する可能性」を予測。しかし、「騒音・振動の抑制、森林伐採への配慮、工事期間の配慮などの環境保全対策によって、生態系の変化は最小限にとどめられるので、事業者の実行可能な範囲で、環境影響を回避または低減できると評価できる」とすり替えてしまっている。
(スライド28~30)
直接改変(ダム本体工事、貯水池、森林伐採など)については、「7つがい中4つがいはコアエリアの一部が改変されるが、狩り場と営巣環境は広く残存する。2つがいはコアエリアの改変率が比較的高いが、狩り場と営巣環境は広く残存するので、長期的には各つがいは生息し、繁殖活動は維持される」として、保全措置は必要ないとしている。ダムを造るという結論が先にあって、それに結びつけるために、とんでもない論理の飛躍が見られる。
(スライド31)
二つの報告書から明らかになった問題点は、一つは情報公開が非常に遅れていること。もう一つは環境影響予測の思考形式自体に誤りがあり、猛禽類の生態、個体間の関係性を無視した粗雑な予測であること。
ダムができて改変される所があっても、それ以外の所は変わらないというのが彼らの思考形式だが、そんなことはありえない。
諫早の埋め立てでどうなったか? 環境アセスでは、影響は堤防の近傍に限られるとしたが、実際には有明海全体に影響が出て、有明海異変と呼ばれる漁業不振に至ってしまった。
(スライド32~33)
結局、環境アセスを正しくやっていないというのが、おおもとの問題。環境アセスは、科学性と民主性が求められるが、八ッ場のアセスはどちらも満たしていない。日本では残念ながら、こんなアセスが続いている。
おかしい事業はおかしいと、我々も皆さんとともに言い続けなければならないと思っている。