八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムPR施設「やんば館」の過剰宣伝

2013年1月22日

 八ッ場ダムの予定地に国交省のPR施設「やんば館」があります。
 八ッ場ダムの必要性をPRすることが目的のこの施設の展示が過剰宣伝であるという記事が昨日の東京新聞に掲載されました。
 「やんば館」の展示物のおかしさは、記事が取り上げた「利根川流域の氾濫」だけではありません。
 ダム事業は必然的に環境を破壊するものですが、八ッ場ダム事業では伐採した木切れを集めて動物の棲家にする(エコスタック)などの事業が各所で行われており、展示ではこれが環境に優しいダム事業を示す事例としてPRされています。周辺では動物の本来の棲家である森林の伐採が次々と行われており、木切れを盛っただけでは償えないほどの環境破壊が進行していることは一目瞭然ですが、八ッ場ダム事業ではこうした簡易な保全事業にも高額の予算がつけられています。
 八ッ場ダムの予定地には、鳥類の生態系の頂点にあるイヌワシの生息地もありましたが、大規模な土木事業によって、イヌワシは姿を消し、クマタカやその他の野鳥も減少し、代わってカラスが増えました。

 また、八ッ場ダム事業の歴史を展示する「やんば館」の展示コーナーでは、東京都の故・美濃部都知事が右肩上がりに水需要が増大していた高度成長時代に、都民はダム予定地の人々に温かい心を持ってダム事業に参画するという趣旨の話をした様子や、故・小寺群馬県知事が「地元の人々に犠牲のないダム事業」となるようにしなければならない、と語った声がテープで流れています。かつての政治家たちが語った言葉は、東京都の水余りと都民の無関心、地元の犠牲という現実によって、八ッ場ダム事業の欺瞞性を示すものなのですが、むろんPR館での展示はそのような切り口ではありません。
 ドライバーのトイレ休憩に利用されるだけの「やんば館」は、まさにムダの象徴と、地元でも言われるゆえんです。
 
 「やんば館」と同様のPRは、国交省の八ッ場ダム工事事務所のホームページにも掲載されています。

 国交省八ッ場ダム工事事務所
 http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/about/about.htm

 八ッ場ダム事業におけるエコスタックの設置
http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/kankyou/torikumi/torikumi03.htm

 国交省「やんば館」
 http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/chiiki/yanbakan.htm

◆2013年1月21日 東京新聞「こちら特報部」

 -八ッ場PR施設 想定あいまい「非現実的」必要性強調で過剰宣伝 前橋、さいたまも水没?-

 利根川の過去の洪水で流れた最大水量をめぐって議論になり、建設の根拠が揺らいでいる八ッ場ダム。そのお膝元、群馬県長野原町にあるPR施設で展示されている「関東の主要河川の想定氾濫エリア(地域)」が誤解を与えかねないとの指摘が出ている。現地に行ってみた。(小倉貞俊)

 JR吾妻線の川原湯温泉駅から車で五分。雪景色の県道沿いに「やんば館」は立つ。一帯はダムが完成すれば水没する。
 「水没する地元の半世紀にわたる苦労の歴史と、ダムの必要性を理解してもらう」という趣旨で、国土交通省が一九九九年四月、約二億円をかけて開設。ダムの完成模型や年表、工程などの資料を展示している。
 問題の展示物は約二㍍四方のパネルで、関東地方の地図に利根川や荒川などが記され、「想定氾濫エリア」が水色に塗られている。気になるのは、その水色地域が関東地方の「約17%」とかなりの広範囲にわたる点だ。前橋市やさいたま市も含まれる。
 さらに、利根川流域の範囲は「約千八百五十平方㌔で、「約四百五十万人もの人口と、約五十兆円の資産が集中している」と強調している。
 案内係の女性は「豪雨による洪水で、浸水が想定される場所を示しているんでしょうね」と話すが、要領を得ない。
 想定氾濫エリアとな何か。説明書きによると「洪水時の水位より低くなる土地」とあるだけだ。各河川には河川管理者によって、記録的な大雨が降れば、水位はここまでくるという計画高水位という数値が定められている、言い換えれば、その値を超えなければ、氾濫しないという数値だ。
 ところが、このパネルの水色地域は、計画高水位よりも標高の低い場所を単純に色塗りしている。計画高水位より標高が低くても、水位が計画高水位を超えない限り、氾濫はしなにのに、だ。
 さらに市民団体や一部の学者は、計画高水位の数値そのものを「過大」と批判してきた。そのうえ、パネルに示されたような現象は、そうした大洪水が各所で同時に起きることが前提だ。
 拓殖大の竹本弘幸非常勤講師(地質学)は「戦後最大の洪水被害を出した一九四七年のカスリーン台風ですら無事だった群馬の館林台地や太田市まで水没し、標高の高いさいたま市の大宮台地も九割が浸水している。いくら想定図だとはいえ、非現実的」と指摘する。
 「ダムの必要性を強調するため水害の恐ろしさを過剰に宣伝している」とみるのは、同大の関良基准教授(森林政策)だ。「仮に天変地異でこんな氾濫が起きても、毎秒六百立法㍍しかカットできない八ッ場ダムでは役に立たない。住居の高台移転を進めるしかなくなり、逆にダム建設はムダということになる」
 ともあれ、洪水が押し寄せる範囲を示したものとも言えず、誤った印象を与えかねない。
 同館を象徴する同省八ッ場ダム工事事務所に尋ねた。塩谷浩広報室長は「展示物を作った当時の資料が見当たらず、どんな規模の台風や豪雨を想定しているのか、その条件がわからない」と言葉少なだった。