さる6月26日と27日、八ッ場ダムの公聴会が群馬原町の公共ホールで開催されました。
この公聴会は、八ッ場ダム事業による土地や家屋の強制収用を可能とする事業認定の可否を判断するために、国土交通省が土地収用法の規定に基づいて開いたものです。
公述をするためには、あらかじめ公述申出書を国土交通省に提出する必要がありました。22件の公述の中から、八ッ場ダム反対運動の理論的支柱である嶋津さんの公述内容をお伝えします。公述は八ッ場ダムの起業者である国土交通省関東地方整備局との質疑応答の形で進められました。
嶋津さんによる公述申出書(意見)
http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2015/05/29559d861d75578523d8b65cb72394f6.pdf
なお、公述の模様は、ジャーナリストのまさのあつこさんが当日ツイキャスで発信したライブ履歴が以下のページで見られます。
公述人10:嶋津暉之(約30分)
http://twitcasting.tv/masanoatsuko/movie/179303620
八ッ場ダムが必要性を喪失していることについて公述する。
◆八ッ場ダム建設の第一の目的―「利根川の洪水調節」
八ッ場ダムの構想はカスリーン台風の再来に備えるためにと浮上したが、皮肉なことにカスリーン台風再来に対して八ッ場ダムの治水効果はゼロであることを国交省は自らの計算で示している。また、カスリーン台風の後、利根川では河道改修が進められ、十分な流下能力を有するようになっており、1951年以降、利根川本川では破堤、越流がないことを政府答弁書が認めている。浸水被害はあるが、内水氾濫や支川の氾濫によるものである。
過去65年間で一番大きい洪水は1998年洪水。この時の治水基準点(群馬県伊勢崎市八斗島)における最高水位は、堤防の天端から4メートル以上も下を流れていた。利根川で確保すべき堤防の余裕高は2メートルだから、その倍以上の余裕があったことになる。1998年洪水当時、八ッ場ダムがあったらどれだけ効果があったかを実績流量に基づいて計算してみると、わずか13センチである。堤防天端から4メートル以上も下を流れている洪水の水位が13センチ下がっても何の意味もない。利根川は十分な流下能力を有していて、八ッ場ダムのわずかな水位低下は意味を持たなくなっている。
ところが事業認定申請書を見ると、昭和57年、平成10年、平成19年の3つの洪水を取り上げて、このような被害があったから八ッ場ダムが必要だと言っている。しかし、これらの洪水は八ッ場ダムがあっても被害軽減には何も寄与しない。
質疑応答
嶋津:これらの洪水による利根川・江戸川の越水はあったのか? また、八ッ場ダムがあった場合、これらの洪水被害の軽減に寄与したか?
国土交通省関東地方整備局(以下、「関」と略):越水はなかった。洪水被害の軽減については、算出していないのでお答えできない。
嶋津:越水はなかったのだから、八ッ場ダムが浸水被害の軽減に役立つわけがないことを認めるということだ。
関:利根川の治水計画は実績洪水を対象としておらず、算出していないのでお答えできない。
嶋津:利根川の洪水調節とは関係のない洪水を申請書に書きこんで、あたかも八ッ場ダムが役立つかのような幻想を与えることは、事業認定申請書の信憑性を否定するものである。
〔注〕埼玉県も、八ッ場ダムが利根川の堤防の漏水に効果があるかのような誤った情報を流している。
埼玉県公式ホームページより「埼玉県にとって必要な八ッ場ダム」
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0108/yanba.html
1.八ッ場ダムの必要性について (3)利根川の治水対策のために八ッ場ダムは必要
「平成13年の台風15号の洪水時には加須市などで堤防決壊につながる漏水などが生じ、利根川沿いの市町からも治水対策上、八ッ場ダムの早期完成を強く要請されています。」
◆八ッ場ダム建設の第二の目的―「都市用水の開発」
嶋津:八ッ場ダムの第二の目的は、水道用水、工業用水の新たな開発が必要ということであるが、これも虚構である。
利水に関して、起業者(国交省関東地方整備局)は暫定水利権の問題を持ち出している。八ッ場ダムには毎秒約11トンの暫定水利権がある。八ッ場ダムができないと、この暫定水利権がとれなくなると脅しをかけているわけだが、実は暫定水利権という名前になってはいるものの、八ッ場ダムなしでも殆ど支障なく取水できている。特にこの中の殆どを占める非灌漑期のみの暫定水利権がそうである。これは灌漑用水を水道・工業用水に転用したものである。特に多く抱えているのは埼玉県と群馬県である。しかし、非灌漑期には灌漑用水の取水は激減するので、利根川の流況には余裕がある。だから八ッ場ダムがない現状で、取水に支障を来たしたことがない。暫定水利権は長いものでは50年ぐらい歴史のあるものもある。
八ッ場ダムの暫定水利権とされる11トンを非灌漑期と通年に分けるとどうなるか? また、過去10年間における渇水時の安定水利権、非灌漑期の暫定水利権の取水制限率に違いはあったか?
関:通年にわたる暫定水利権は毎秒1.957立方メートル、非灌漑期の暫定水利権は毎秒9.012立方メートル。取水制限率の違いについては、記録がない。
〔注〕過去の利根川の渇水において、安定水利権と非灌漑期の暫定水利権は取水制限率に差はなく、非灌漑期の暫定水利権は安定水利権と同様に扱われてきた。
27日の公聴会では埼玉県の副知事が暫定水利権に対して取水制限が10%上乗せされたというスライドを示したが、これは通年の暫定水利権の場合に限った話である。非灌漑期の暫定水利権では取水制限率には違いがなく、埼玉県水道の暫定水利権のほとんどを占める非灌漑期の暫定水利権は上乗せの取水制限がなかった。
◆八ッ場ダム建設の第三の目的―「吾妻川の流量維持」
嶋津:「吾妻川の流量維持」とは、名勝・吾妻渓谷の景観を保全するために、吾妻川の流量を毎秒2.4立方メートル以上維持するということ。
現在、八ッ場ダム予定地で吾妻川の流量が乏しいのは、ダム予定地の上流に(株)東京電力・松谷発電所の取水堰があり、そこで吾妻川の水の大半を取水しているためである。ところが、東電・松谷発電所が2012年3月末に水利権更新時期を迎えたため、現在、東電の水利権更新許可申請書を関東地方整備局が審査中である。
近年は発電水利権のガイドラインにより、水力発電所の水利権更新の際には、河川維持流量の放流が義務づけられている。今回の松谷発電所の水利権更新許可申請書には、八ッ場ダム予定地で毎秒2.4立方メートルを確保すると書いてある。これは水利権更新が完了すれば、八ッ場ダムの「吾妻川の流量維持」という目的はなくなることを意味する。
東京電力から提出されている松谷発電所の水利権更新許可申請に対して、関東地方整備局はいつ許可を出すのか? この許可を得れば、八ッ場ダムなしで、八ッ場ダム地点で毎秒2.4立方メートルの流量が確保されることになるが、その事実を認めるか?
関:松谷発電所の水利権更新許可申請書は提出されている。現在、申請内容について審査中であるが、今のところ審査期間や手続き期間が明らかではないため、許可の時期は明言できない。
八ッ場ダム地点で毎秒2.4立方メートルの水を確保するとは明記されていない。(この部分、よく聞き取れず)
嶋津:申請書に書いてあることを確認もせずに回答しているのか。河川流量の維持という、喪失することが確実な目的を書いた事業認定申請書は無効である。
◆八ッ場ダム建設の第四の目的―「水力発電」
八ッ場ダムは水力発電―クリーンエネルギーを生み出すと宣伝しているのだが、吾妻川の発電量は八ッ場ダム建設により大きく減少する。起業者の説明によれば、群馬県が八ッ場発電所を建設して、年間4,100万キロワット/時の電力を生み出すことになっている。
しかし、吾妻川には既存の沢山の水力発電所がへばりついており、発電をしている。八ッ場ダムに水を貯めるためには、東電の発電所に送っている吾妻川の水量を大幅に減らさなければならない。これにより、発電量は大きく減少する。
国交省のデータを入手して計算したところ1/4~1/5に減少する。しかし、関東地方整備局の計算によれば、減電量はごく僅かとなっている。その計算内容を入手して分析したところ、恣意的な計算が行われていることが判明した。たとえば、八ッ場発電所で放流した水を東電・原町発電所まで導水して、減電を減らすという仮定が置かれている。しかし今回、群馬県が開示した八ッ場発電所の計画には、導水管の計画が書かれていない。現実にない導水管計画を盛り込んで関東地方整備局は計算をしている。
導水管の計画はあるのか? 導水管の建設にどのくらいの予算がかかるのか? どこが導水管を設置するのか?
関:導水の具体的な計画については、今後関係者と調整を進めてまいりたい。東京電力の既設の発電施設については、八ッ場ダム建設後の取水条件の定まった計画はない状況である。
嶋津:八ッ場ダムの四つの目的はいずれも虚構である。このように公益性の欠如した八ッ場ダムの建設工事について、事業認定を行ってはならない。