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利根川の未来を考えるカムバック・ウナギ・プロジェクト

 さる9月11日、当会も参加している利根川流域市民委員会がシンポジウム「ウナギが生きる川を取り戻す」を東京・水道橋で開催しました。
 「ウナギの保全生態学」などの著書がある海部健三さん(中央大学准教授)のご講演の後、二平章さん(茨城大学客員研究員)、浜田篤信さん(元茨城県内水面水産試験場長)を交えてパネルディスカッション「ウナギが生息できる河川環境を取り戻すには?」が行われました。

 ニホンウナギはかつては日本人にとって、とても身近な存在でしたが、2014年に国際自然保護連合により絶滅危惧種に指定されるなど、生息数が激減しています。激減の原因として乱獲が問題視されてきましたが、このシンポジウムでは河川環境の変化がニホンウナギの生息に大きな影響を与えていることを専門家らが多方面から詳しく解説し、中身の濃いシンポジウムとなりました。

 9月15日の日本養殖新聞にシンポジウムの内容を紹介する記事が掲載されています。

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スライド1 利根川ではダム建設等の大規模開発事業が次々と行われ、かけがえのない自然が失われてきました。 
 利根川流域市民委員会はこれ以上の自然破壊を防ぐため、今なお進行中の大規模開発事業にストップをかけるとともに、過去の開発事業を見直して、かつての利根川の豊かな自然をできるだけ取り戻すこと、さらに、利根川流域住民の治水安全度を真に高める施策を実現させることを目標として活動しています。

右図= 利根川水系で進められてきた主な開発事業(カッコ内は事業者と移転予定世帯数など)ー八ッ場ダム事業(国交省、470世帯)、湯西川ダム事業(国交省、138世帯、2012年度竣工)、霞ケ浦導水事業(国交省)、思川開発(南摩ダム、水資源機構、80世帯)

スライド2 利根川流域市民委員会では2014年より、「利根川の未来を考えるカムバック・ウナギプロジェクト」を企画し、パタゴニア日本支社の環境助成金により、幅広い運動を展開してきました。

 利根川の河川環境とニホンウナギについて考える時、ウナギの遡上を妨げる堰の問題が重要になります。(右図)
 
 シンポジウムでは嶋津暉之さん(利根川流域市民委員会共同代表)によるカムバック・ウナギ・プロジェクトの詳しい報告がありました。当日の配布資料とスライドから、一部を紹介します。シンポジウム全体の内容については近日中に別途、紹介します。

★利根川の未来を考えるカムバック・ウナギプロジェクト

〇プロジェクトの概要
 利根川においてニホンウナギが生息できる環境を取り戻すため、流域市民が利根川の過去の河川工事を総点検し、利根川河口堰、霞ケ浦・常陸川水門、利根大堰等の取水堰・水門、利根川の堤防・護岸工事や用水工事のあり方を見直して、その改善方法をまとめ、その実施を行政に働きかけていく。

〇プロジェクトの内容
 ニホンウナギが2014年6月に国際自然保護連合により、絶滅危惧種に指定された。ニホンウナギが激減したのはシラスウナギの乱獲などの要因もあるが、様々な河川工事により、ウナギの遡上・降下が妨げられ、ウナギの住処、餌場が失われてきたことも大きな要因になっている。とりわけ、霞ケ浦を含む利根川はかつては日本で最大のウナギ漁獲量があったが、様々な河川工事が行われたこともあって漁獲量が激減した。

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 本プロジェクトは、ニホンウナギの生態行動から見る視点で、利根川の河川としてのあり方を見直し、ウナギが生息できる環境を取り戻す方策を検討して、その方策の実現を求めていくものである。
 そのためには、流域市民が手分けして、利根川河口堰、霞ケ浦・常陸川水門、利根大堰等の取水堰・水門によってウナギの遡上・降下がどのように妨げられているのか、利根川の堤防・護岸工事や用水工事がウナギの住処や餌場をどのように奪ってきたかなど、利根川の実態を調査し、その調査結果を持ち寄って、改善策を検討すること、さらに、その改善策の実施を行政に働きかけていくことが必要である。
 本プロジェクトの最終目標は、ウナギをメルクマールにして、かつての利根川の豊かな自然をできるだけ取り戻せるよう、過去の河川事業を見直していくうねりをつくり出すことにある。 

〇利根川の未来を考えるカムバック・ウナギ・プロジェクトの主な取り組み

① 千葉県・茨城県の内水面水産試験場の見学とヒアリング
  2014年1月 千葉県内水面水産研究所
  2014年2月 茨城県水産試験場内水面支場

② 利根川流域の内水面漁業協同組合のヒアリング
  2014年1月 千葉県・印旛沼内水面漁業協同組合
  2014年2月 茨城県・常陸川漁業協同組合

③ 利根川流域の内水面漁業協同組合へのウナギ漁獲量等のアンケート調査   2015年5~7月
 利根川流域の各都県にある内水面漁協に対してウナギの漁獲量がどのように推移してきたか、ウナギ激減の原因がどこにあり、ウナギの復活を図るためには何が必要かについてアンケート調査を行った。
 利根川水系の6都県51内水面漁協に対して、ウナギの漁獲量等についてアンケート調査を行い、35漁協から回答を得た。回答があった漁協の都県別内訳は千葉県7、茨城県4、埼玉県3、栃木県7、群馬県13、東京都1であった。この調査結果から、漁協のウナギ漁獲量の推移、ウナギ激減の理由と回復の手段についての漁協の考え方を整理した。

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④ 利根川最下流部の現地調査
 利根川最下流部を対象として、市民および市民団体が合同で、ウナギの遡上・降下・生息にどのような影響を与えているかという視点で、利根川河口堰、霞ケ浦・常陸川水門の現状および最下流部の堤防・護岸の実態、用水の取水口と用水路の状況について現地調査を行った。
2015年6月12日 10人規模で利根川下流部の予備調査
2016年4月28日 25人規模で利根川下流部の本調査

 利根川河口堰、霞ケ浦・常陸川水門の施設管理者の説明を聞き、下流部の現場を見ることによって、ウナギ回復のために取り組むべき問題が明らかになってきた。

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◇利根川河口堰 
1971年1月竣工 総延長834㍍(可動部分ー約465㍍  固定部分ー約369㍍) 
独立行政法人・水資源機構が管理
*利根川河口堰のホームページ http://www.water.go.jp/kanto/tonekako/gaiyou/sousa.html
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目的 
① 塩害の防止 
② 水源開発  計 22.27㎥/秒 
 〇 東京都と千葉・埼玉県の水道用水 18.76㎥/秒(東京都の水道用水 14.1㎥/秒)
 〇 千葉県の工業用水 1.24㎥/秒
 〇 千葉県の農業用水 2.27㎥/秒(かんがい期平均) 

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◇霞ケ浦・常陸川水門 
1963年5月竣工(1973年完全閉鎖)  総延長252㍍ 
国土交通省関東地方整備局が管理
常陸川水門操作(国交省関東地方整備局)http://www.ktr.mlit.go.jp/kasumi/kasumi_index009.html
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目的 建設当初 
① 洪水の防止(洪水時に利根川からの逆流を防ぎ、霞ヶ浦の氾濫を防止)
② 海水の遡上を阻止し、塩害の発生を防止

霞ヶ浦開発事業(1996年3月竣工)の目的を補完。
 霞ヶ浦の水位操作による水源開発  計42.92㎥/秒
〇 茨城・千葉県の工業用水 15.57㎥/秒
〇 茨城・千葉県と東京都の水道用水 7.79㎥/秒
〇 茨城・千葉県の農業用水 19.56㎥/秒(かんがい期平均)

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⑤ 利根川のウナギ生息状況に関係する資料の収集
〇関東地方整備局への情報公開請求による資料
・平成23~27年度「常陸川水門魚道操作時間年報」、「常陸川水門魚道モニタリング調査結果」
・利根川下流部および中流部における各用水(農業用水、水道用水、工業用水)の取水位置を示す図面、用水の取水施設(樋管、樋門、圦樋、機場、水門を含む)の構造図
・利根川中流部・下流部、江戸川の河道横断図
〇(独)水資源機構への情報公開請求による資料
・利根川河口堰「魚類の生息状況調査及び遡上・降河状況調査の報告書」(平成16~27年度)
・利根大堰「魚道鮭遡上調査報告書」(平成22、25年度)
〇 水産庁の報告書
平成25~26年度「鰻生息状況等緊急調査事業報告書」、平成27年度「鰻来遊・生息調査事業報告書」
〇 環境省の報告書
平成26~27年度「ニッポンウナギ保全方策検討委託業務報告書」