八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム事業が吾妻渓谷に与える影響等についての公開質問に対する国交省の回答

 昨年8月22日に国土交通省関東地方整備局に表記の公開質問書を送付したところ、一昨日3月25日に国土交通省八ッ場ダム工事事務所より回答がファックスで届きました。この回答により、吾妻渓谷では八ッ場ダム事業により、春のシーズンから滝見橋や遊歩道に立ちいることができなくなることが明らかになるなど、観光に大きな打撃を与えることが明らかとなりました。国の名勝・吾妻渓谷は危機に瀕しています。
 回答文と当会によるコメントをお伝えします。

◆国土交通省関東地方整備局の回答についての当会のコメント

1 吾妻渓谷の散策と現国道145号の利用について
 今後、ダム本体予定地では仮締切工事、本体工事が進めれることになっているが、これによる吾妻渓谷の散策、地元住民の生活道路になっている現国道145号の利用への影響が心配される。今回の回答では次のとおりであった。

① 吾妻渓谷遊歩道は、仮締切工事の実施に伴い、小蓬莱(見晴台)より上流側の区間を通行止めにする。仮締切工事終了後も同様。

② 現国道145号の利用は、仮締切工事中は可能。本体工事期間中の工事用道路は未定(現国道145号の利用ができるかどうかは未定)。

なお、吾妻渓谷の最上流部に位置する滝見橋は、これまでは冬季も開放されてきましたが、今回の回答により、今後、立入禁止になることが明らかになりました。

2 打越代替地と吾妻渓谷の隔絶について
 本体工事に入って現国道145号の利用ができなくなった場合を想定して、打越代替地から吾妻渓谷・見晴し台への遊歩道が整備されているが、延長が約1.3kmもあり、アップダウンが150m以上もあるので、一般客が利用するのは困難である。質問書でその代替策を求めたが、それへの回答はなく、このままでは打越代替地は吾妻渓谷と隔絶されてしまうことになる。 

3 八ッ場ダム予定地住民
 八ッ場ダム予定地には昨年3月末現在で21世帯の住民が生活を営んでおり、国交省が何らかの圧力をかけていくことが懸念される。このことについては、「引き続き関係者の方々にご理解をいただけるよう努めてまいります。」という回答のみであった。

4 水没予定地住民への安全性に関する説明
 地元住民はダム予定地の脆弱な地質とそれによるダム後の災害誘発に不安を抱いているので、地すべり対策、代替地安全対策の説明を地元住民に対し、いつ行うのかを質問したが、今回の回答では「対策工事を実際に施行する場合には地元住民に説明を行う」というだけであった。地元住民の不安に答える説明は行わないことを示している。


5 吾妻渓谷のカヤック

 吾妻渓谷はカヤックを楽しむ人のメッカになっており、工事の進捗とともにその利用ができなくなることが心配されている。このことについて今回の回答は「仮排水トンネルの呑口付近から吐口付近の間は、関係者以外の立入を禁止するが、仮排水トンネルの吐口付近より下流の吾妻渓谷は、立入禁止をする予定はない。」とのことであった。しかし、吐口付近より下流の吾妻渓谷には川岸から川原に降りれる場所がないので、カヤックの利用は事実上困難になる。

◆国土交通省八ッ場ダム工事事務所による回答
 (注:比較対照できるよう、当会による質問文を加えています。国土交通省八ッ場ダム工事事務所による回答部分は、便宜的に太字にしてあります。)

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平成26年3月25日
八ッ場あしたの会 代表世話人 殿

国土交通省八ッ場ダム工事事務所 所長 佐々木淑充

「八ッ場ダムの仮締切工事と関連事項に関する公開質問書」に対する回答について

 2013年8月22日付で関東地方整備局長宛にいただいた「八ッ場ダムの仮締切工事と関連事項に関する公開質問書」について、別紙のとおり回答させていただきますので、よろしくお願いいたします。

1 名勝・吾妻渓谷への影響について
 国の名勝に指定されている吾妻渓谷は「関東の耶馬溪」と称される素晴らしい渓谷ですので、多くの観光客が遊歩道および現国道を散策して、渓谷美を楽しんでいます。仮締切工事期間中および仮締切工事完成後、吾妻渓谷の観光への影響について質問します。

1-1 仮締切の工事期間中の影響
① 滝見橋は利用できるのでしょうか。
② 現国道の仮排水トンネル区間の散策には支障はないでしょうか。
③ 右岸側にある山中の遊歩道は利用できるのでしょうか。
④ 以上の他に仮締切の工事期間中、吾妻渓谷の散策への影響はあるのでしょうか。
1-2 仮締切工事完了後の影響
① 滝見橋は利用できるのでしょうか。
② 現国道の仮排水トンネル区間の散策に支障はないでしょうか。
③ 右岸側にある山中の遊歩道は利用できるのでしょうか。
④ 以上の他に仮締切工事完了後、吾妻渓谷の散策への影響はあるのでしょうか。

1-1及び2 仮締切の公示期間中及び工事完了後の影響

 滝見橋を含む吾妻渓谷遊歩道は、仮締切工事の実施に伴い、小蓬莱(見晴台)より上流側の区間を、現在の冬期閉鎖以降も通行止を継続すると管理者からは聞いています。
 仮排水トンネル付近の現在の国道145号の散策歩道は、仮締切工事によって通行に支障は生じないと考えており、仮締切工事終了後も同様です。なお、仮締切工事実施中は工事用車両の出入りは発生します。
 参考に、吾妻渓谷遊歩道等の通行止めの予定区間について、長野原町及び東吾妻町が作成した資料を添付致します。また、当該資料は両町のホームページに掲載されています。
(掲載先)
長野原町ホームページ(長野原町観光サイト)
http://naganohara-kankou.com/wp/wp-content/uploads/2014/03/tukoudome.pdf

東吾妻町ホームページ(産業課)
http://www1.town.higashiagatsuma.gunma.jp/www/contents/1370853469987/index.html

(注:両町のホームページ掲載は、いずれも2014年3月25日)

1-3 打越代替地から吾妻渓谷・見晴し台への遊歩道
① 打越代替地から吾妻渓谷・見晴し台への遊歩道がつくられていますが、現在は閉鎖されています。この遊歩道がいつ利用できるようになるのでしょうか。
② 川原湯温泉にとって吾妻渓谷は最も重要な観光資源です。打越代替地に再建中の川原湯温泉街と吾妻渓谷を結ぶためにつくられたのがこの遊歩道です。しかし、この遊歩道は延長が約1.3kmもあり、アップダウンが150m以上もありますので、一般客が利用するのは容易ではありません。仮締切工事および本体工事の期間中、この遊歩道以外に、打越代替地と吾妻渓谷を結ぶ散策路はないのでしょうか。

 打越代替地から吾妻渓谷・見晴台に通じる遊歩道は、地元住民の方々と現地調査を行い、ご意見を伺った上で、かつ関係機関との協議を踏まえ整備しています。
 この遊歩道の通行開始時期は、現時点では未定です。

1-4 吾妻渓谷への本体工事等の影響区間
① 従来の国交省の説明によれば、吾妻渓谷は八ッ場ダム事業によって四分の一が沈むだけだとされていますが、本体工事の影響は吾妻渓谷のどの範囲に及ぶのでしょうか。
② 群馬県の水力発電所の設置工事も含めると、その影響は吾妻渓谷のどの範囲に及ぶのでしょうか。

 吾妻渓谷については、仮排水トンネルの吐口付近より下流に位置する小蓬莱や鹿飛橋を含む八丁暗がり等の吾妻峡の象徴的な景観を形成する要素が存在する区間は改変されることなく、現状のまま保全されます。

1-5 吾妻渓谷のラフティング 
現在、吾妻渓谷ではラフティングが行われ、海外からもラフティング目的の観光客が訪れていますが、仮締切工事および本体工事の期間中、ラフティングを楽しむことができなくなるのでしょうか。  (注:ラフティングはカヤックの誤り)

 仮排水トンネルの呑口付近から吐口付近の間は、関係者以外の立入を禁止させて頂く予定ですが、現状のまま保全される仮排水トンネルの吐口付近より下流の吾妻渓谷は、立入禁止をする予定はありません。

2 八ッ場ダム建設事業の工程について
2-1 八ッ場ダム本体工事の工程
 今回の入札公告が行われた仮締切工事も含めて、八ッ場ダム本体の各段階の工事を今後、どのような工程で進めていくのでしょうか。仮締切工事、本体掘削工事、堤体工事、試験湛水などの工程を明らかにしてください。
2-2 関連事業の工程
上記の本体工事に対応して、付替鉄道、付替国道、付替県道、代替地の整備を完成に向けて今後どのような工程で進めていくのでしょうか、具体的な工程を明らかにしてください。

2.八ッ場ダム建設事業の工程について
2-1及び2 八ッ場ダム本体工事及び関連事業の工程

 平成25年度より作業ヤード造成、骨材プラントヤード造成、工事用道路及び仮締切の本体関連工事を実施しています。これらの関連工事の進捗状況等を踏まえ平成26年度以降、本体掘削、堤体工等の本体工事を進めて行く予定です。その後、試験湛水を行うこととしています。また、付替道路等の工事及び代替地の整備については、できるだけ早期に完成できるように進めてまいります。

2-3 八ッ場ダム予定地住民
八ッ場ダム予定地には今年3月末現在で21世帯の住民が居住していますが、その移転はどのようなスケジュールで進めることになっているのでしょうか。

 交渉状況は個別に異なり、個人的な事情等もあるため、個別の移転スケジュールをお答えすることは困難ですが、引き続き関係者の方々にご理解をいただけるよう努めてまいります。

3 地すべり対策、代替地安全対策
3-1 地すべり対策、代替地安全対策の詳細調査
水没予定地住民の中に、代替地への移転を躊躇している事例があるのは、ダム湛水後の地すべりの発生を心配し、代替地の安全性に不安を抱いているからだと聞きます。
国交省は地すべり対策、代替地安全対策のための詳細調査をいつ実施するのでしょうか。

 新たな指針の作成等に伴う地すべり等の対策工、代替地地区の対策工のための地質調査等については、平成25年度より順次実施しているところです。

3-2 水没予定地住民への安全性に関する説明
国交省は上記の詳細調査を行ったうえで、地すべり対策、代替地安全対策の説明をダム予定地の住民に対し、いつ行うのでしょうか。また、詳細調査に基づく対策工事をいつ実施するのでしょうか。

 地すべり等の対策工事や代替地地区の対策工事については、現在地質調査等を行っているところであり、工事の実施の有無を含めて工事に関しては現時点では未定です。なお、これらの工事を実際に施行する場合には、現地への立入に先立ちこれまでの他の工事と同様、地元住民の方々等に施行内容等について説明を行った上で実施していくことになります。

4 工事用道路
4-1 仮締切工事の工事用道路
仮締切工事のための工事用道路は現国道を使うのでしょうか。ダム予定地住民の生活道路になっている現国道を使うことに問題はないのでしょうか。

 現在の国道145号は、仮締切工事の実施による通行止を想定していません。
 なお、仮締切工事の実施にあたっては、工事用車両が現在の国道145号を通行しますが、関係する法令を遵守しつつ、他の工事と同様に必要な箇所に交通整理員を配置するなど工事中の安全を確保することとしています。

4-2 ダム本体工事の工事用道路
ダム本体工事のための工事用道路は現国道を使うのでしょうか。ダム予定地住民の生活道路になっている現国道を使うことに問題はないのでしょうか。

 現時点では、八ッ場ダム本体建設工事において使用する工事用道路については未定です。

5 遺跡発掘調査
八ッ場ダム予定地には縄文時代の各年代の遺跡、天明3年浅間災害遺跡など、日本有数の貴重な遺跡が数多くあり、発掘調査が進められてきていますが、大半が未調査のまま残されています。今後、仮締切工事に始まるダム本体工事の実施と並行して、八ッ場ダム予定地の遺跡発掘調査をどのようなスケジュールで進めることになっているのでしょうか。

 八ッ場ダム予定地付近の埋蔵文化財については、文化財保護法に基づき、群馬県教育委員会との協議を経た上で、発掘調査を進めており、今後の調査についても、群馬県教育委員会と協議の上、発掘調査を進めるなど、法令に基づき適切に対処してまいります。