八ッ場ダムの本体工事予定地のある国の名勝・吾妻渓谷では現在、本体準備工事が行われています。本体工事予定地に吾妻川の水が流れないように堰き止める仮締切工事もその一つです。
この工事は、今年7月末に完了する筈でしたが、梅雨の増水で工事を行うために設けた仮設の堰が流され、工期を一カ月過ぎた今も工事完了のめどが立っていません。
【追記】
仮締切工事の工期は7月末でしたが、工期終了後に工期が10月末に延長され、看板の文字が修正されました。(9/3撮影)
下図は、塩川鉄也衆院議員が国交省から入手した仮締切工事の図面に説明を加えたものです。
2009年7月、八ッ場ダム本体工事予定地に本体準備工事の一環として仮排水トンネルが造られました。上流の呑み口から下流の吐き口まで長さ389メートルのこのトンネルに吾妻川の水を流すことで、ダム本体のコンクリート打設ができる環境を作り出すためです。(右写真:仮排水トンネル呑み口、滝見橋より。2009年10月4日撮影)
仮排水トンネル完成直後、民主党政権が発足したことにより本体準備工事は休止され、吾妻川の水は自然の流路を流れ続けてきました。右写真は2009年10月21日、当時の国土交通委員長であった川内博史衆院議員らが仮排水トンネル吐き口を視察をした時の様子です。
吾妻渓谷随一の観光スポット、滝見橋からは、仮排水トンネルの呑み口がよく見えました。この四年間、多くの観光客が無粋なコンクリート構造物に首を傾げたものの、周囲の景観を楽しんできました。
しかし、自公政権の復活により、八ッ場ダム本体準備工事が再開され、仮排水トンネルの区間で仮締切工事が始まることになりました(当初の工期:2013年12月~2014年7月末)。仮締切工事は、トンネル呑み口直下に高さ29メートル、堤頂長65.5メートル、堤頂幅10.5メートル、底幅約55メ―トルの小ダム(約36,500立方メートル)を造る「上流二次締切工」と、トンネル吐き口を流下する水が逆流しないように遮る「下流締切工」(約1,880立方メートル)からなります。
工事現場が丸見えになる滝見橋は3月25日に閉鎖され、さらに6月には橋桁まで外されてしまいました。
ダム本体予定地直下には、滝見橋と同様、吾妻渓谷十勝の一つに数えられる小蓬莱が聳えています。山頂に松の木が生えている形のよいこの岩山は、硬い安山岩でできていることから、吾妻川の本来の流路は小蓬莱に突き当たるように進んだ後、大きく左に屈曲し、川幅を狭めます。現在、吾妻川の流れは仮排水トンネルがある区間では、トンネル内を流れています。
仮締切工事は、吾妻川沿いの国道がまだ開放されているため、間近に見ることができます
下の写真は、流された堰を再び造るために、ダンプカーとシャベルカーが河床に土を盛り始めたところです。
写真の右側に聳えるコンクリートの構造物は、本体工事の期間、吾妻川の水を流すための仮排水トンネルの呑み口です。重機によって土が盛られた河床では、吾妻川の流れは川の左側にわずかに残っているだけです。(7月25日撮影)
例年、お盆前は晴天が続きますが、関東平野部より少雨傾向のここ吾妻渓谷でも今年はよく雨が降ります。しかし、吾妻川の水の大半は現在、東京電力の水力発電に使うために、吾妻川の左岸の山中を走る導水管を流れているため、多少の雨では水位はそれほど上がりません。土盛りの堰の上に、増水に備えて土嚢が積まれています。(8月3日撮影)
土盛りの堰がコンクリートで固められました。堰の上流側には、濁った水が見えます。
この時は正面の滝の水がまだ工事現場(堰の下流)に流れ込んでおり、河床は湿っていました。(8月11日撮影)
お盆を過ぎても雨模様の日が続きましたが、仮締切工事の現場では、滝の流れも遮られ、工事によって自然が制圧されたかに見えます。下流側の水は堰をまたいでポンプアップされています。堰の上流側の岩壁に白いラインが引かれており、487,488、489と読めました。標高を表しているようです。(8月26日撮影)
すでに梅雨の増水前に、仮締切工事現場の吾妻川の河床にはコンクリートが敷かれており、これから干上がった河床で仮締切工事の一環として堤高29メートルの小ダムが造られることになっています。(8月28日撮影)
国交省関東地方整備局は国道を廃道化し、一刻も早く工事現場から観光客を締め出したいようです。そうすれば、工事現場の撮影もできなくなります。納税者からの風当たりの強い八ッ場ダム事業をできるだけ人目に触れずに進めたい関東地方整備局にとっては、その方が好都合なのでしょう。
現在、吾妻川の流れは遮られていますが、台風などで水位が上がれば、仮設の堰だけで流れを止めることはできません。
八ッ場ダムの本体工事は吾妻川の流れを堰き止める仮締切工事などの本体準備工事が完了していなければ始めることはできない筈ですが、本体準備工事の遅れについて殆ど報道されることはなく、10月にも本体工事着工という報道が流れるのみです。
10月1日には、吾妻渓谷のダム本体予定地を走るJR吾妻線がトンネル内の新線に付け替えられ、現在の川原湯温泉駅の前に聳える湖面橋(八ッ場大橋)も開通が予定されています。
国交省関東地方整備局は、本体準備工事の完了如何にかかわらず、本体着工という形式を踏むことで、八ッ場ダム事業がまた一段階進んだとアピールするのでしょう。
計画から62年、事業が始まってから半世紀近くたつ八ッ場ダム事業は、今世紀に入ってからムダな公共事業の典型として批判を浴びるようになりました。
八ッ場ダム事業については事業費増額が確実視されているだけでなく、本体工事の入札不正疑惑、有害鉄鋼スラグなど、新聞のスクープとなるような大きな問題も次々と発覚していますが、事業者である国交省関東地方整備局は、これらの問題の真相が露わになり、さらに批判の声が高まる前に、後戻りできない状況にもっていこうとしているようです。