八ッ場ダム湖予定地周辺に造成中の水没予定地住民の移転代替地で今日から、国交省八ッ場ダム工事事務所が有害な鉄鋼スラグの調査を開始しました。
8月5日、かねてから群馬県渋川市周辺で有害な鉄鋼スラグが使用されてきたことを追及してきた毎日新聞は、トップニュースで八ッ場ダムの代替地に有害資材が埋められていることを報じました。(該当記事はこちらに転載しています。↓)
https://yamba-net.org/wp/?p=8361
これを受けて、国交大臣が調査を八ッ場ダム工事事務所に指示したのですが、同事務所は1ヶ月以上調査を先延ばしにしてきました。
八ッ場ダム事業の代替地に有害資材が使われたとすれば、移転しつつある地元住民は最大の被害者ですが、工事を発注した国交省が知らない間に工事業者が鉄鋼スラグを使ったとすれば、国交省も被害者の立場のはずです。
今夕のNHKニュースで同事務所の職員が説明したように、「皆さんに不安を与えないように、早め早めに対応していこうと考えています」(記事中の録画参照)ということであれば、現地事務所は本省からの指示を受けて、すぐに調査を開始し、もし有害な鉄鋼スラグが使われているのであればすみやかに撤去しなければならない筈です。
ところが不可解なことに、この間、現地事務所は調査を開始しない一方で、現地では、同事務所の職員らが地元住民の前で毎日新聞の記事内容を批判したり、否定して回っているという話があちこちで聞かれました。調査をしてみなければ、記事の成否は判断できない筈で、住民らが見聞きしたという現地事務所の対応は理解に苦しむものです。
今日から採石作業が始まったとのことですが、現地事務所が実施する採石作業や分析調査の手法を注意深く見守る必要がありそうです。
これまで業者は、有害スラグを天然砕石等と混ぜることで、渋川市、前橋市などで違法に大量の有害スラグを使用してきました。こうしたやり方が許されるのであれば、他の資材と混ぜることで、いくらでも有害資材を使用することが可能となってしまいます。鉄鋼スラグは単体で調査をする必要があります。
また、八ッ場ダムの代替地は30メートル以上の超高盛り土の造成工事が行われており、すでに住宅や擁壁が造られている場所も多いことから、地表を重機で掘れるところで採石しただけでは、鉄鋼スラグの使用状況の全貌を把握することはできません。
この調査は昨日開かれた長野原町議会において、牧山明町議の一般質問に萩原睦男町長が答弁する形で、唐突に明らかにされました。
萩原町長は「明日と明後日、鉄鋼スラグの公開調査を行う」と答弁したのですが、この調査が今日行われることは一般住民には知らされなかったようです。記者発表されたのも前日の夕方、という急な日程の設定でした。
関連記事を転載します。
◆2014年9月18日 上毛新聞社会面
ー代替地で採石 スラグ混入調査 八ッ場事務所ー
長野原町の八ッ場ダム建設工事にからみ、鉄鋼メーカー、大同特殊鋼渋川工場(渋川市)の鉄鋼スラグを含む砕石が、環境基準への適合が確認された以外の代替地などでも使われたとの一部指摘を受け、国交省八ッ場ダム工事事務所は18日、混入の有無を調べるための採石作業をする。
同町横壁の丸岩大橋近くの代替地で採石し、国交省が指定する第三者の民間企業で分析試験する。結果は1週間程度で出る予定。
◆2014年9月18日 毎日新聞 11時06分
http://mainichi.jp/select/news/20140918k0000e040172000c.html?inb=tw
ー八ッ場ダム:代替地の調査を開始 鉄鋼スラグ問題で国交省ー
八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の移転代替地に有害物質を含む建設資材「鉄鋼スラグ」が使われていた問題で、国土交通省八ッ場ダム工事事務所は18日、スラグの使用が疑われる代替地などの調査を始めた。調査は8月5日の毎日新聞の報道を受けたもので、同事務所は9月中に資材の採取を終え、鑑定機関による分析を進める。
この問題を巡っては、報道を受け、太田昭宏国交相が8月5日の記者会見で調査を表明。住民からも一日も早い調査を求める声が上がっていた。調査は、ダム建設予定地の住民の移転代替地である長野原町打越、川原湯、横壁などの各地区で実施。資材をサンプリングし、スラグを確認すれば有害物質「フッ素」などの含有量も検査するという。
同省によると、スラグを含んだ資材が無許可で使用された疑いがある前橋市の国道17号バイパスでも高崎河川国道事務所による調査が進められており、結果がまとまり次第、公表するという。【杉本修作、角田直哉】
◆2014年9月18日16時28分 NHK前橋放送局
http://www3.nhk.or.jp/lnews/maebashi/1064667741.html
ー有害物質混入疑いで現地調査ー
群馬県で計画が進められている八ッ場ダムの工事にともなって、地元の住民が移り住む予定の住宅などの造成地に有害物質を含んだ建設資材が使われた疑いがあることから、国土交通省が現地の地面を掘り起こすなど調査を始めました。
国土交通省では、八ッ場ダムの建設にともなって水没する地域の住民が移り住むため、長野原町内に住宅地などの造成工事を進めています。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所によりますとこの場所には、本来、天然の岩石を砕いた石だけを使わなければならないにもかかわらず、フッ素などの有害な物質を含んだ「鉄鋼スラグ」と呼ばれる建設資材が使われた疑いがあるということで、18日から現地調査を始めました。
調査は、国土交通省の担当者など10人が行い、「鉄鋼スラグ」が混入していないかを調べるため、重機を使って地面を掘り起こしました。
そして「鉄鋼スラグ」を石と見分けるための試薬をかけて、反応して色が紫色に変化したことを確認すると、詳しい分析をするため持ち帰っていました。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所の荒井満工務第一課長は、「周辺住民のかたに不安を与えないよう結果がわかりしだい、速やかに公表したい」と話しています。
◆2014年9月19日 上毛新聞
ー八ッ場ダム代替地 スラグ調査で採石 国交省ー
長野原町の八ッ場ダム建設工事に絡み、鉄鋼メーカー、大同特殊鋼渋川工場(渋川市)の鉄鋼スラグを含む砕石が、環境基準への適合が確認された以外の代替地などでも使われたとの一部指摘を受け、国土交通省八ッ場ダム工事事務所は18日、混入の有無を調べるための採石作業をした。
作業は同町横壁の丸岩大橋近くの代替地などで実施。地表や地中を調べ、スラグかどうか分析試験するための石を拾った。
同事務所の担当者は「住民に不安を与えないようきちんと試験して早め早めに対応していきたい」と話した。
【参考】
国土交通省関東地方整備局は3月28日に、「鉄鋼スラグを含む砕石の分析試験結果について」記者発表しました。この中で、八ッ場ダム事業でも問題の鉄鋼スラグが使用されたことを工事名リストで示し(以下、記者発表資料2ページ)、代替地を走る道路工事に使われた鉄鋼スラグについて調査し、環境基準値を下回ったことを明らかにしました。(同5ページ)
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000101962.pdf
しかし、この時の調査では、代替地の一部の道路以外の造成・整備工事で使用された鉄鋼スラグの調査は行われませんでした。
◆2014年9月19日 毎日新聞
http://mainichi.jp/feature/news/20140919k0000m040168000c.html
ー八ッ場ダム:移転先のスラグ 国際基準で「最も危険」ー
八ッ場ダム(群馬県長野原町)の移転代替地に有害物質を含む建設資材「鉄鋼スラグ」が使われていた問題で、国土交通省八ッ場ダム工事事務所は18日、現地調査を始めた。毎日新聞の報道から1カ月余。このスラグは皮膚や目への有害性が国際基準で最も危険とされ、取り扱う人に保護手袋などの着用が求められているにもかかわらず、現地の住宅建設予定地では庭の砂利としてむき出しのまま置かれている場所もある。専門家は早期撤去が必要と強調している。【杉本修作、沢田勇、角田直哉】
この日の調査には建設資材の専門家も参加し、代替地でスラグの疑いがある砕石を確認。成分を調べる試薬を吹きかけたところ、スラグの特徴であるアルカリ性を示した。今後、専門の鑑定機関で分析する。
スラグは鉄の精製時に排出され、石や砂の形状をしている。そのままでは廃棄物処理法上の産業廃棄物だが、「再生資源」として道路の路盤など一部での使用が国に認められている。しかし、八ッ場ダムでは、大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)から出たとみられるスラグが渋川市の建設会社に引き渡された後、水没予定地区住民の移転代替住宅地の盛り土などに許可なく使われていた。
スラグなど特定の化学物質を含む製品を取引する際は、有害性の分類や表示の方法を国際的に定めた「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(GHS=グローバリー・ハーモナイズド・システム)に基づき「安全データシート」と呼ばれる文書を作成する。大同作成の同文書によると、「健康に対する有害性」のうち「皮膚腐食性/刺激性」と「眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性」は、GHS分類で最も危険とされる「区分1」。「特定標的臓器毒性(反復暴露)」は「区分2(呼吸器系)」と記されていた。
「有害性情報」の欄には「水に接触するとアルカリ性(pH9〜12)を呈し、角膜、鼻の内部組織、皮膚に炎症を起こす可能性があり」「呼吸器感作性・皮膚感作性があるクロム化合物を2〜3%含有する」などと有害の要因や成分を記載。「安全対策」として「適切な保護具(保護手袋・保護衣・保護眼鏡・保護面・呼吸用保護具)を着用すること」などを求めていた。
スラグと同じく皮膚や目への影響が「区分1」とされる身近な製品には強力アルカリ洗剤や漂白剤がある。日本中毒情報センターが2008年に受けた家庭用(ネット購入可の業務用含む)洗浄剤等に関する3085件の問い合わせから1454件を厚生労働省が抽出調査したところ、568件(39%)は問い合わせ時点で何らかの症状があった。
スラグは八ッ場ダムのほか、渋川市の遊園地の駐車場や公園の遊歩道などでもむきだしのまま使われている。大同は「除去が必要な場合は県の指導を受けながら使用先と対応を協議して誠意を持って協力させていただく」とコメント。同市の建設会社は「各機関からの問い合わせに苦慮しており、落ち着くまで取材はご勘弁を」と文書で回答した。
◇直ちに撤去が必要だ
日本環境学会顧問の畑明郎・元大阪市立大大学院教授の話 取扱業者が有害性を認識しながら一般の人に知らせないまま生活の場で使っているのは悪質。文書通りのアルカリ強度なら皮膚が溶けることもあり、クロム化合物は発がん性物質の六価クロムに化学変化することもある。本来廃棄処分すべきもので、利用状況を調べ、表層に出ているものは直ちに撤去が必要だ。
◇GHS
化学品の危険性や有害性をわかりやすく分類するために2003年7月の国連の勧告により設けられた世界統一基準。炎やどくろなど9種類の絵表示や注意書きを用いて人体や環境に対する危険性の種類や程度を区分する。国連によると、日本や中国など67カ国が既に導入または導入を検討している。
◆2014年9月19日 朝日新聞群馬版
http://www.asahi.com/area/gunma/articles/MTW20140919100580001.html
ー八ツ場ダム代替地スラグ混入を調査ー
大同特殊鋼渋川工場(渋川市)が排出した鉄鋼スラグが県内各地の工事現場で使われ、一部で有害物質が検出された問題で、国土交通省八ツ場ダム工事事務所は18日、八ツ場ダム(長野原町)の移転代替予定地の盛り土などへのスラグ混入の有無を調べるため、現地で石の採取を始めた。19日までに5カ所で採取し、スラグの有無を調べる。
横壁地区の代替予定地約550平方メートルでは、省職員や業者ら計10人が3区画に分け、表面と約50センチの深さから掘り出した石を採取した。最初の地点で表面を割って試薬で簡易検査をすると、スラグの可能性があるアルカリ性を示した。
国交省八ツ場ダム工事事務所の荒井満・工務第1課長は、コンクリートなどを再生した砕石もアルカリ性を示すとし、さらに詳細な成分分析をしてスラグの有無を確認すると説明。フッ素などの有害物質の濃度検査も検討するという。
八ツ場ダムの関連事業では道路建設などでスラグが使われた。だが、国交省によると、移転代替地の横壁地区などは設計図書で天然砕石を使う仕様とし、スラグや再生砕石が混入することはない前提だという。(上田雅文)