国交省八ッ場ダム工事事務所は昨日午後3時、本日1月21日に予定していた八ッ場ダム本体工事の発破作業を明日に延期すると記者発表しました。
八ッ場ダム工事事務所は当初より、「天候などで発破作業の開始時期が遅れる可能性がある」と説明してきました。今日は現地は晴れており、延期の理由は天候ではなく、火薬を準備するのに時間がかかるというものでした。天気は明日から下り坂です。
本日予定されていた名勝・吾妻渓谷における発破作業は、八ッ場ダムの本体工事の開始を意味するものでです。八ッ場あしたの会と八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会は、発破作業が予定されている吾妻渓谷左岸において抗議行動を行い、抗議文を八ッ場ダム工事事務所に提出しました。
発破作業予定地の前で、横断幕を広げて八ッ場ダム本体工事に抗議の意思表示。 (2015年1月21日撮影)
2015年1月21日
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
国土交通大臣 太田昭宏 殿
八ッ場あしたの会(代表世話人 大熊 孝 他)
八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会(代表 嶋津暉之)
八ッ場ダム本体工事に抗議します。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所は1月21日、ダム本体を造るための基礎掘削工事の一環として、名勝・吾妻渓谷で発破作業を開始するとしています。これをもって八ッ場ダムの本体工事が本格的に開始されることになります。
構想から63年がたとうとしている八ッ場ダム事業は、ダム予定地の地域社会、自然風土を破壊し、多くの犠牲をもたらしてきました。
私たちは、本体工事によってさらに破壊が進むことに加え、災害誘発の危険性をつくり出すなど、完成後のダムが将来世代の大きな負の遺産となることから、本体工事の開始に強く抗議し、その中止を求めます。
1. 八ッ場ダム建設による地域社会、自然風土、歴史文化の破壊
八ッ場ダム予定地は、古くから人々が住み暮らしてきた、歴史文化の豊かな土地です。1960~70年代、住民の反対闘争は熾烈を極め、長年のダム計画は地域を疲弊させてきました。国は1992年、反発する多数住民をダム事業に協力させるため、「現地再建ずり上がり方式」による代替地計画を地元に約束しました。しかし、1990年代に完成する筈だった代替地はいまだに完成していません。この間、四分の三の住民は代替地計画に見切りをつけて故郷を去りました。
水没予定地には今も代替地に移転できず、暮らし続けている住民の方々がおられます。国土交通省は強制収用を可能にする、土地収用法に基づく手続きを開始すると発表しました。このような強権的な手法で住民の追い出しを図る姿勢は、民主主義国として恥ずべきことです。
ダム予定地は絶滅危惧種を含む多様な動植物の生息・生育地であり、関東地方に残された数少ない自然の宝庫です。水没予定地の樹木はダム湛水までに伐採され、名勝・吾妻渓谷の上流区間、天然記念物・川原湯岩脈などの優れた景観もダム湖に沈められます。
水没予定地には縄文遺跡、天明三年浅間災害遺跡をはじめ、数多くの歴史遺産があります。かけがえのない遺産も、水に沈めば二度と元に戻りません。
2. 八ッ場ダムによる災害誘発の危険性
ダム本体工事予定地は、熱水変質帯、擾乱帯などが広く分布した複雑な地質からなっています。しかしダム本体工事費は、2008年の計画変更により613億円から429億円へと、3割以上も圧縮されました。
一方、ダム湖予定地周辺には広範に地すべり地が広がっており、住民の移転代替地は30メートル以上の高盛り土を含む、盛土と切り土の入り混じった大規模な人工造成地です。地すべり地帯に造られるダム湖で、これほど予定地周辺に住宅が多いケースは全国にも例がありません。
現地では地すべり対策、代替地の安全対策のための地質調査が続いていますが、具体的な対策は決まっていません。ダムに水をはることによって、災害誘発の危険性が高まることは必至です。
昨年は、代替地の工事で環境基準を超える六価クロム、フッ素などを含む有害な鉄鋼スラグが使用されたことも新たに発覚しました。国土交通省関東地方整備局は昨年12月26日に調査結果を発表しましたが、調査対象は代替地のごく一部に限られており、抜本的な対策がとられる気配はありません。
八ッ場ダム事業は地形、地質の面で不適な場所にダム建設が計画されたために、事業費の増額と工期の延長を繰り返してきました。今後、安全性をないがしろにして無理に事業を進めれば、取り返しのつかないことになりかねません。
3. 公共性のない八ッ場ダム
八ッ場ダムの主目的は、「首都圏への都市用水の供給」ですが、利根川流域6都県の水道用水は、1992年以降、減少の一途を辿っています。すでに水余りが顕著ですが、ダム完成予定の2020年以降は、人口減少により水余りに拍車がかかることとなります。
いま一つの主目的である「利根川の洪水調節」について、国土交通省関東地方整備局は流域住民を納得させる論拠を示したことがありません。2012年~2013年に開催された利根川河川整備計画策定のための有識者会議では、八ッ場ダムの治水効果がきわめて低いこと、八ッ場ダム建設の根拠とされる氾濫想定図に科学的な根拠がないことなど、様々な問題が指摘されましたが、関東地方整備局はこれらの疑問に答えることなく会議を終了し、河川整備計画に八ッ場ダムを強引に位置づけました。
八ッ場ダムの付随目的である「水力発電」にいたっては、八ッ場ダムによって生み出される発電量が八ッ場ダムによって失われる東京電力の水力発電所の発電量よりはるかに小さいことからも明らかなように、およそ目的の体をなしていません。
4.将来世代への負の遺産
八ッ場ダムが完成すれば、その維持管理には膨大な費用が発生します。
ダムの寿命は100年とされますが、八ッ場ダムは上流からの土砂による堆砂速度がはやく、100年よりはるかに早い時点で、治水・利水機能が減退し、堆砂対策が必要になります。
また、吾妻川支川・白砂川の酸性水の弊害をなくすための、品木ダムにおける中和事業は永遠に続けなければならず、その堆砂対策も不可欠です。
「ダム湖観光」による地域振興が盛んに宣伝されていますが、八ッ場ダムは他の利根川上流のダムと違い、吾妻川の中流域に位置しています。ダム予定地の上流域では観光業、酪農業、畑作も盛んです。八ッ場ダム湖は流入する多量の栄養塩類を貯めこみ、水質の悪化により異様な色を呈すると予想されます
八ッ場ダムの本体工事については、その入札に官製談合疑惑も指摘されています。政官業癒着のダム事業は、今後さらに厳しい目を向けられることになるでしょう。
私たちは本体工事着工後も八ッ場ダムの問題を指摘し続け、負の遺産となるダム建設の中止を訴えていきます。
以上
工事現場の看板。予定されていた発破作業が今日は「無」と書かれている。後方の山を切り崩した本体工事の「作業ヤード」に作業員が集まっていました。 (2015年1月21日撮影)
国土交通省八ッ場ダム工事事務所にて、抗議文を手渡しました。
1/22の読売新聞群馬版の記事です。