今朝の朝日新聞が全国のダムで堆砂が進行している問題を取り上げています。
「ダム高齢化時代の対処法」
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11720274.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11720274
ダムは寿命100年を見込んで計画されていますが、わが国では地形や地質の影響によって多くのダムで堆砂が予測(計画堆砂量)を上回って進行しています。
上記の記事の取材先は、国交省や穴あきダムを推進する学者に限られており、実態はさらに深刻です。
市民団体(水源開発問題全国連絡会)が情報公開請求で入手した資料をもとに整理した全国のダムの堆砂データを公開しています。
https://yamba-net.org/wp/?p=8339
ダム事業者はダム計画を正当化するため、計画堆砂量を甘く予測しがちです。八ッ場ダムの計画堆砂量も過小に予測されています。朝日新聞の紙上で「堆砂対策の費用負担を将来の世代に先送りしない」と語る京大防災研の角哲也教授は、八ッ場ダムの計画堆砂量について、どのような見解をお持ちなのでしょう。
朝日新聞の記事を転載します。
◆2015年4月25日 朝日新聞
ー(be report)ダム高齢化時代の対処法ー
日本のダムが高齢化時代に入った。高度経済成長期にできた多くのダムが続々と完成から50年を超え、「健康維持」対策が必要になってきた。ダムにとっての生活習慣病は、底にたまり続ける土砂。貯水容量が減ると洪水を防ぐ機能が低下し、利用できる水も減る。土砂を下流に流す専用トンネルをつくるなど、さまざまな対策が試みられている。
■たまる土砂、下流に迂回
長野県南部の松川町。天竜川から支流の小渋川沿いを上流に向かうと、中川村との境の山あいに、高さ100メートルほどのダムが現れた。「小渋ダム」。古くから「暴れ川」といわれる天竜川の洪水の防止を主目的に、1969年に完成した。周辺の農地のかんがいや水力発電にも利用する多目的ダムだ。
ダムのすぐ下流の岸に、真新しいトンネルの出口がみえる。入り口は直線距離でダムの4キロほど上流。このトンネルを使って土砂と水をダムの下流に迂回(うかい)(バイパス)させ、川に戻す。総事業費は約144億円。トンネル本体は一昨年9月に完成し、来年度から実際に土砂を流す試験運用に入る。
国土交通省の天竜川ダム統合管理事務所によると、ダムが完成した当時、50年間にダムにたまる土砂は2千万立方メートルと見積もられていた。
ところが、土砂は見積もりを上回るペースでたまっていった。
土砂が堆積(たいせき)してダムの貯水容量が減ると、その分、洪水を防ぐ機能が低下する。このため、完成からわずか9年後の78年、まずダムの上流に土砂をためる「貯砂ダム」をつくった。土砂をそこで採取して、ダムに流れ込む量を減らすためだ。
それでも流入する土砂の量に追いつかず、90年に二つ目の貯砂ダムを建設。2000年にはバイパストンネルの建設を決めた。国交省によると、ダムにたまった土砂は12年度末で、すでに約1700万立方メートル。貯水容量の30%近くが土砂でうまっている。
「二つの貯砂ダムで砂利を採取し、資源として利用してきたが、それでもたまる。土砂をより自然な形で下流に流す方法を考えた結果、トンネルを建設することにした」と、同事務所の竹内寛幸管理課長は説明する。
土砂をダムの下流に流すのには、下流の環境を改善する狙いもある。
治水が主目的の小渋ダムは、もともと洪水のとき以外は水をせき止めていたため、ダムの下流に水が流れることは、かつてはほとんどなかった。下流には大きな石がごろごろと並ぶ「無水区間」が約5キロも続いていた。
しかし、ダムが河川の環境に悪影響を及ぼしているという世論の高まりなどを背景に、1997年に河川法が改正され、「河川環境の整備と保全」が法の目的に加えられた。小渋ダムでもこれを受ける形で、2000年から下流に一定量の水を流すようになった。
バイパストンネルから水と土砂を流すようになれば、ダムが建設される前にあった砂や砂利が混じる河原が、いくらかでも復活する可能性がある。
バイパストンネルは、日本では関西電力の水力発電用ダムで1998年につくられたのが最初。天竜川の支流でも、三峰(みぶ)川の「美和ダム」(長野県伊那市)で2005年に完成し、試験運用が続いているが、歴史はまだ浅い。
小渋ダムのトンネルの使い方について、竹内さんは「ダムにたまる土砂の増加を抑える運用方法を、3年くらいかけて探っていきたい」と話す。
■住民の声受け撤去も
日本には約3千基のダムがある。日本ダム協会によると、完工時期のピークは、高度経済成長期の1960年代。これらのダムがいま、ちょうど「50代」に入りつつある。
ダムには、上流から流れてくる土砂が必ずたまる。この土砂は「堆砂(たいしゃ)」と呼ばれ、多くのダムは100年間にたまる土砂の量(計画堆砂量)をあらかじめ計算して、建設されている。
しかし、大自然の営みは、計算通りにいくとは限らない。
京都大学防災研究所の角哲也教授(水工水理学)によると、堆砂測量が行われている全国の約800のダムのうち、堆砂が計画量をすでに超えたダムは2割強。「年齢を重ねれば人と同じで、健康維持対策や、場合によっては肉体改造が必要になる」と角さん。
対策が遅れれば、あとで対策費がよりかさむ可能性がある。「早期対策」が大切なのも人と同じらしい。
堆砂対策には小渋ダムのような「貯砂ダム」「バイパストンネル」のほか、ダムに土砂を流す専用ゲートを設ける方法などがある。こうした設備で既存のダムの長寿命化を図る試みがすすむ一方、土砂をほとんどため込まない構造のダムもつくられ始めた。
島根県益田市にある「益田川ダム」は治水専用で、2006年に完成した。ふだんはダムの下部の穴から川の水を流し、洪水時だけ水をためる。「穴あきダム」と呼ばれる構造だ。
「土砂が流れないと、魚の生息場が減る。下流の河原に木々が繁茂して、洪水被害が増大する危険もある。海岸浸食の原因にもなる。土砂を流すさまざまな技術開発が必要だ」と角さん。
役割を終え、撤去されるダムもある。熊本県八代市の球磨川河口から約20キロ上流にある「荒瀬ダム」は、12年から撤去工事がすすむ。今年3月には右岸側がほぼ取り壊され、球磨川の自然の流れが約60年ぶりに戻った。
県の水力発電用ダムとして、1955年に完工した。しかし、川と土砂の流れが遮断されてアユなどが遡上(そじょう)できなくなり、下流の八代海の干潟の環境も悪化。撤去を求める住民の声などを受けて、県は2010年に撤去を決めた。17年度に撤去工事を完了する。
ダムの高齢化対策で大切なことは何か。「洪水対策、飲み水の確保、再生可能エネルギーである水力発電など、ダムの役割の重要性は変わらない。ただし、どのダムをどのような目的で今後残していくのか、そのためにはどのような対策が必要か、投資効果も含めた議論が要る。堆砂対策の費用負担を将来の世代に先送りしない。『世代間の公平』という視点が重要だ」と角さんは指摘する。(上田俊英)