さる6月26日、27日に開催された八ッ場ダムの公聴会の体験記をご紹介します。
著者は公聴会で公述した「ムダなダムをストップさせる栃木の会」会員の高橋比呂志さんです。この体験記は「栃木の会」の事務局だよりに掲載されます。高橋さんは八ッ場あしたの会の会員でもあります。
八ッ場ダム公聴会を体験した〜ダム完成を熱望する民意はない〜 高橋比呂志
八ッ場ダム建設用地の強制収用に向け、国土交通省は6月26日と27日、土地収用法に基づく公聴会を東吾妻町で開き、延べ約170人が傍聴しました。私は、両日の公述を傍聴し、27日に公述しました。
■■ 公聴会の仕組が茶番
そもそも公聴会の仕組が茶番です。この公聴会は、八ッ場ダム事業の起業者である国土交通省関東地方整備局が事業予定地を強制収用してよいかを、国土交通省土地収用監理室が判断するためのものですから、身内同士で行う「裁判ごっこ」であり、しかも用地は面積ベースで93%取得済みですから、最初から結論は見えています。こんな茶番の行政手続でふるさとを奪われるのは、憲法違反だと思います。
■■ 賛成派公述人は全員が公務員又は元公務員だった
両日の公述人は起業者を含め22組でした。起業者の意見がなぜ「一般の意見」(土地収用法第23条第1項)なのか不可解です。起業者以外の公述人の内訳は、ダム反対派が14組、ダム賛成派が7組でした。賛成派の公述人は以下のとおりです。地元の3人は議会関係者、下流都県の4人は行政関係者です。
氏名(敬称略) 肩書き
星河 由紀子 前・長野原町議会議員
豊田 銀五郎 長野原町議会議員
竹内 良太郎 前・長野原町議会議員
角田 守良 加須市副市長
市川 正三 元・埼玉県水資源課長
岩崎 康夫 埼玉県副知事
土屋 信行 東京都職員⇒江戸川区土木部長⇒公益財団法人 えどがわ環境財団理事長
ダム推進の旗を振る仕事の一環又は延長で役を引き受けたようにも見えます。
公務で公述した副市長と副知事を除いた5人の賛成派のうち、ダムを推進する立場の公人であったことを明かしたのは市川氏だけでした。ダムの完成を望む一般市民がいることを装うのは詐術ではないでしょうか。
■■ 無理矢理公述させられたと白状
豊田氏は、「(公述の時間は)10分で良いと言ったが30分の時間をもらった」「本当は(公述を)正式に申し込んでいない」と正直な発言をしており、賛成派公述人を立てるためのダム事務所の工作があったと思われます。
■■ 賛成派の公述は詭弁のオンパレード
賛成派公述人の主張は、八ッ場ダムの効果が及ばない赤城山周辺での土石流被害の体験や節水型トイレのなかった時代の渇水被害の体験からダムの必要性訴えるような議論のすり替えばかりで、詭弁のオンパレードでした。
公益性が説明されない事業にふるさとを奪われる住民に対して「土地は死んだら持っていけない(土地に執着するなということ)」「土地収用は、争いを避けるための知恵」と冷たく言い放つ元土木職員の言葉が事の本質を表していると思います。
■■ どちらが正しいかは“勝負あった”
反対派の地元住民からは、住み慣れたふるさとを奪われるやるせなさを切々と訴える公述がありました。
反対派公述人の主張は、データに裏付けられた理路整然としたものが多く、特に嶋津暉之・水源連共同代表は、八ッ場ダムの四つの目的(治水、利水、流水の正常な機能の維持、発電)のすべてが虚構であることを論証し、起業者に反論を求める質問をしましたが、起業者はまともに答えず、はぐらかしに終始しました。
そのほか、専門的知識を生かし、ダムサイトの地質や環境の面で問題があることを指摘した反対派もいました。
私は、カスリーン台風の再来にも内水氾濫にも被害軽減効果のないこと、費用対効果の計算が誤りであること、基本高水流量が虚構であること、栃木県への治水負担金の賦課は詐欺であること、水資源開発促進法、特定多目的ダム法は立法事実が消失していること、などを述べて八ッ場ダムに公益性がないことを訴えました。
反対派は、各人の特徴を生かして、よく健闘し、量的にも質的にも賛成派を圧倒したと思います。
■■江戸川の破堤を想定していないのになぜスーパー堤防を進めるのか
起業者は、江戸川の治水計画で重大な証言をしました。
私が「江戸川の水位は八ッ場ダムの洪水調節効果によって何cm下がるのか」と質問すると、起業者は、「治水計画を検討する上で必要性が高くないから算出していない」と回答しました。
要するに、「江戸川で破堤する可能性は小さいから、ダムの効果を計算する必要がない」ということです。それなら国が江戸川流域でスーパー堤防の整備事業を進める理由もないことになります。
国土交通省は、八ッ場ダムの効果を問われると「江戸川は破堤しないだろう」と言い、スーパー堤防の必要性を問われると「江戸川は破堤するだろう」と言っていることになります。ご都合主義の極みです。
■■ 事業の必要性の十分な説明なしに立ち退きを強いるのか
公述人は起業者へ質問ができます。しかし、公述時間内に限られ、公述後に起業者が文書で回答する義務はないというルールです。実際、起業者は、反対派からの多くの質問に対して、聞いていないことを答えて時間切れに持ち込む作戦をとりました。関東地方整備局職員の態度は、「質問には十分に答えないが、とにかく立ち退いてくれ」というものであり、許されないと思います。(了)