関東地方を襲った台風18号の大雨(平成27年9月関東・東北豪雨)により、利根川水系の鬼怒川において9月10日、茨城県常総市新石下付近で堤防が決壊(幅200メートル余)、大きな被害をもたらしました。
(写真=堤防が決壊した常総市三坂町新石下の浸水地帯、9/14撮影)
鬼怒川の上流には、2012年に完成した湯西川ダムを含め、国直轄の大型ダムが四基あります。これらのダムの総貯水容量は30,060万立方メートル(有効貯水容量26,710万㎥、利水容量14,180万㎥、治水容量12,530万㎥)であり、治水容量を見ると八ッ場ダムの2倍近くあります。しかし、今回の台風はダム下流の鬼怒川中下流域にも集中豪雨をもたらしたため、上流ダム群の洪水調節だけでは対応できず、脆弱な堤防の決壊を防ぐことができませんでした。
利根川水系の河川を管理する国土交通省関東地方整備局は、鬼怒川で発生した堤防の決壊に対して、被災原因を特定し、原因に対応した堤防復旧工法の検討を行うため、鬼怒川堤防調査委員会を開催することを9月23日に発表、
http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/kyoku_00000741.html
昨日、9月28日に関東地方整備局は第一回鬼怒川堤防調査委員会を開催し、委員会の配布資料を同局のHPに掲載しました。
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/index00000036.html
○第1回 配付資料一覧【PDF】 http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/river_bousai00000106.html
○上記の中の「第1回鬼怒川堤防調査委員会資料」に今回の水害に関連する詳しい資料が掲載されています。
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000632889.pdf
2ページ 流域の概要・諸元、土地利用
4ページ 鬼怒川の河道特性・・中流部の川幅は約700メートル、堤防が決壊した下流部の川幅は300メートル
8ページ 決壊地点は利根川合流点から21キロ地点の左岸 茨城県常総市三坂町
10ページ 鬼怒川全川の被災状況 被害95箇所(9/25 18時時点)
*ソーラーパネルの為に自然堤防が崩されていた若宮戸(堤防決壊箇所の約4キロ上流)は溢水地点の一つ
20ページ 被災メカニズムの検証
*決壊箇所は堤防高が周辺より一段と低く、越流水深は痕跡水位より20センチメートルと推定、と説明
○第1回調査委員会議事要旨 http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/index00000036.html
議事要旨を以下に転載します。
第 1 回 鬼怒川堤防調査委員会
議事要旨<速報版>
1.日時 :平成 27 年 9 月 28 日(月)10:00~12:00
2.場所 :さいたま新都心合同庁舎 2 号館 5 階共用中会議室 503
3.出席者 :
委員長
安田 進(東京電機大学理工学部教授)
委 員
池田 裕一(宇都宮大学大学院教授)
佐々木 哲也(国立研究開発法人土木研究所上席研究員)
清水 義彦(群馬大学大学院理工学府教授)
関根 正人(早稲田大学理工学術院教授)
高橋 章浩(東京工業大学大学院教授)
服部 敦(国土交通省国土技術政策総合研究所河川研究室長)
4.議事概要:
・第一回委員会では、現時点での調査結果から分かったことについて、事務局から説明してもらい、堤防決壊の原因について議論した。
・越水による川裏の洗掘が決壊原因の一つであると推定される。
・浸透については、堤体の一部を構成する砂質土が原因となるパイピングや法すべりの可能性も排除できないと考えられるため、引き続き、堤体や基礎地盤の詳細な調査や検討を事務局にお願いした。
・侵食については、川表の侵食が確認されておらず、決壊原因の一つである可能性は小さいと推定される。
・引き続き、全川に渡る調査や決壊のプロセスについて、資料の整理をお願いした。
・次回は、これらの点を明らかにしたうえで、決壊の原因をまとめ、復旧工法についても議論を進めたいと考えている。
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関連記事を転載します。
◆2015年9月28日 NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150928/k10010250651000.html
ー鬼怒川 決壊含め95か所で堤防被害ー
「関東・東北豪雨」で、茨城県常総市で堤防が決壊した鬼怒川では、決壊を含めて茨城県と栃木県の95か所で川から水があふれたり、堤防から水が漏れ出したりするなどの被害が起きていたことが国土交通省の調査で分かりました。
「関東・東北豪雨」では茨城県常総市で鬼怒川の堤防が決壊してあふれた水が市街地に流れ込み、市内のおよそ40平方キロメートルが浸水しました。
28日に開かれた原因究明などを行う国の専門家の委員会の初会合では、国土交通省関東地方整備局のこれまでの現地調査で、鬼怒川では7か所で川から水があふれ出していたほか、堤防から水が漏れ出したり、堤防が削られたりした場所も含めると、被害は95か所に上ることが報告されました。
また、常総市の堤防の決壊現場は周囲よりも高さが30センチから1メートル余り低かったうえ、決壊の1時間ほど前には堤防から水があふれ出し、20センチほどの高さに達していたとみられ、あふれ出した水によって堤防の斜面が削られたことが決壊の一因と考えられることが報告されました。
一方、決壊場所の上流と下流では、堤防の内部や下を伝わって川の水が漏れ出してできたとみられる、砂が噴き出した跡が確認され、専門家は決壊現場でもこうした現象が起きていた可能性があると指摘しました。
会合の委員長を務める東京電機大学の安田進教授は「堤防が決壊する過程では、水があふれ出したことに加え、水が漏れ出していたことも起きていた可能性もある。限られた時間ではあるが、今後どのようにして決壊に至ったかを検討し、適切な復旧の方法を考えたい」と話しています。
◆2015年9月28日 産経新聞
http://www.sankei.com/affairs/news/150928/afr1509280031-n1.html
ー鬼怒川の水位、堤防の20センチ上 調査委初会合「余裕足りなかった」ー
東日本豪雨で決壊した茨城県常総市の鬼怒川堤防について、国土交通省は28日、決壊地点の一部で当時、川の水位が堤防の高さを推定で約20センチ上回っていたとする調査結果を明らかにした。また、決壊原因については、水が堤防を越えてあふれ出る越水に加え、堤防内部に水が浸透して崩壊する「パイピング現象」が起きた可能性を示した。
堤防決壊の原因を究明するため国交省が設置した有識者らでつくる調査委員会の初会合で示された。
同省によると、堤防は約200メートルにわたって決壊。そのうち付近で最も堤防が低かった決壊区間の上流端から約80メートルの地点で、川の水位が堤防を約20センチ上回っていたと推定される。同地点では、安全に水が流れる設計上の水位「計画高水位」が標高20・82メートルだったのに対し、堤防の高さは、ほぼ同じ20・88メートル。近くで最も堤防が高い地点と比べて1メートル以上低かった。
周辺では堤防のかさ上げなど改修に向け、用地買収が進められているところだった。調査委の清水義彦・群馬大大学院教授は「堤防に(計画高水位を超える)余裕を持たせた高さが足りなかった。どのくらいの高さが必要なのか調査で明らかにしていきたい」と話す。
一方、決壊の原因については、これまで専門家などから指摘されていた通り、あふれ出た水が堤防外側の土手を削り取ったことが原因の一つと推定。
さらに、増水で河床への圧力が増すことで、川の水が堤防地下の水を通しやすい砂質層に浸透し、堤防外側などから噴き出すパイピング現象が起こった可能性もあるという。川と逆の堤防外側の方から水が内部に浸透し、水で緩んだ堤体の破壊が進むという現象だ。
パイピングは地下に限らず、堤防内にも水の通り道となる砂質層があれば、加速度的に水が浸透していくといい、国交省は今後、堤体や地盤の構造の詳細な調査を進めていく方針だ。
調査委委員長の安田進・東京電機大教授は「原因や被害の状況がはっきりしないと堤防の弱点が分からない。データを基に適切な復旧工法を検討したい」と話している。
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鬼怒川の堤防が決壊した常総市三坂町新石下。右手の鬼怒川決壊箇所で堤防の復旧工事が行われていた。9/14撮影)