さる12月8日 産経土木委員会において、角倉邦良議員(リベラル群馬)が八ッ場ダム問題に関する質疑を行いました。その要旨をお伝えします。
1. 川原湯温泉の宿泊助成について
角倉議員:現在、群馬県は川原湯温泉の宿泊助成を行っている。今後も助成を続けるべきと思うが、県の考えをお示しいただきたい。
特定ダム対策課長(以下、特ダム課長と略):県では平成20年度から、川原湯温泉の賑わいや活気を少しでも取り戻し、生活再建や地域振興につなげていくために、観光PRと宿泊助成という生活再建緊急支援事業を実施してきた。
宿泊助成には2種類あり、宿泊者の次回宿泊を助成するものと、八ッ場ダムの事業説明会に参加して川原湯温泉に4名以上の団体客が宿泊するのを助成するものがあり、助成額は宿泊者1名当たり3千円である。
川原湯温泉観光協会、地元の方々の意見や、実際に助成制度が使われているかということも踏まえて、適切に対応していきたい。
角倉議員:川原湯温泉で営業している旅館5軒の意見が反映されるよう、それぞれの旅館の意見を把握していただけたらありがたい。
*「宿泊助成」はダム事業によって観光客が減少した川原湯温泉の支援を求める角倉県議らの要望を受けて、群馬県が平成20年より開始。来年度は助成事業の見直しが行われるともいわれる。
群馬県公式ホームページより 「川原湯温泉宿泊助成事業」
http://www.pref.gunma.jp/06/h5200001.html
2.本体工事に伴う騒音について
角倉議員:本体工事現場の近くには、川原湯地区と川原畑地区の住民の移転代替地がある。本体工事は24時間態勢で行われ、通告もなしに、夜の11時や早朝に発破がかけられていると聞くが、県は実態を把握しているか?
特ダム課長:ダム本体工事は、本年1月に基礎岩盤の掘削工事が開始された。国に確認したところ、本体工事の受注業者から夜間の施工を行いたいという提案を受け、夜間工事の開始に先立ち、説明を行った上で7月から昼夜間施工を行っているという。(写真右=国交省八ッ場ダム工事事務所は日中に行われる基礎掘削工事の発破を観光客にアピールしている。)
これとは別にダム本体の右岸(川原湯側)でトンネルの掘削工事が行われている。この工事では夜間でも発破作業が必要になったとのことで、平成27年11月に川原畑地区および川原湯地区の代表者に内容を説明し、「発破作業のお知らせ」を各地区の住民に配布した上で施工をやっていると聞いている。
午前8時10分から午後5時10分までの間、本体掘削工事の発破作業をやっており、現場作業員と第三者の安全を確保するために、事前にサイレンを鳴らして発破作業を行っている。夜間の時間帯は、トンネル内の掘削における発破だけになるので、事前にサイレンを鳴らすことなく、現場内の安全を確認した上で発破作業を行っている。
角倉議員:事業者側が工事を急ぎたい気持ちはわかるが、夜間もトンネル内で発破をかけていると。具体的に何月何日の何時ぐらいに発破をかけると(住民に配布した)紙に書かれているのか?
特ダム課長:本体工事の基礎掘削は表面の堅い岩が出るまでの部分をとるための作業。これはオープンな場所でやるので、昼間にサイレンを鳴らしてやっている。
もう一つの工事は、ダム堤体の基礎岩盤にセメント等を注入して堅固にする、グラウトという作業を行うためのトンネル建設工事。トンネル内の発破を夜間にやっているが、関係者もトンネル内だけなので、トンネル内を確認してサイレンを鳴らさずに発破をかけている。
角倉議員:工事現場に近い川原湯地区の代替地では、旅館が営業し、トンネル内とはいえ夜間に発破をかけると音が聞こえるそうで、営業に影響が出る可能性もある。宿泊客もいることであり、夜間の発破はできるだけ自重していただくよう、県から国に伝えていただきたい。
*国交省八ッ場ダム工事事務所と本体工事業者(清水・鉄建・IHI異工種建設工事共同企業体)が11月に地元住民に配布した八ッ場ダム本体建設工事に伴う「発破作業のお知らせ」によれば、ダム本体工事現場の右岸(川原湯地区)の掘削作業に伴う発破作業の予定期間は平成27年11月9日より平成28年3月5日。時間帯は午後8時10分~午前6時10分。一日最大6回実施。日曜日は実施せず。
写真下=トンネル内で発破作業が行われている本体右岸。発破によって白煙が上がった。(11月16日午後4時10分過ぎ)
3. 有害スラグについて
角倉議員:有害スラグの撤去は完了したことを伝える文書を住民に配布したと聞いているが事実か?
特ダム課長:平成27年8月下旬に川原畑地区と川原湯地区、長野原地区に全戸配布または回覧によって、「有害物質を含む砕石の撤去工事を同年9月から着手する」ことを伝えるお知らせを配布し、撤去工事が始まったと聞いている。現在までに国の調査により、代替地で確認された有害物質を含む砕石の撤去は完了しているが、完了後のお知らせはまだないと聞いている。
代替地内で鉄鋼スラグを使っていたという工事の履歴などを見て、関係するところは調査し、スラグの存在を確認し、環境基準値を超えているところとそうでないところの仕分けをして、基準値を超えているところの撤去はすべて終わったと聞いている。
角倉議員:川原湯地区の代替地の町道に埋設した送湯管の埋め戻し材としてスラグを使用したと工事業者から報告があって、掘ったところスラグが出てきたという。スラグは水分によって膨張する性質があり、送湯管が破裂する可能性があるから、スラグを撤去したのだろうと言われている。
(写真右=スラグ撤去工事が行われた町道、9月5日撮影)
だが、他にもスラグが入った砕石が使われている可能性があるのではないか。現に町道の下から、ボールペンの長さほどもある大きなスラグが出てきている。町道と宅地の間にスラグがいくつも埋まっていたということだ。(写真右=大同特殊鋼が調査のサンプルとして石の一部を採取するため、トンカチで叩いたところ。12月2日撮影)
国交省は撤去工事が完了したと言っているが、一部だけスラグを使ったという説明を信じられる人はいないと思う。
スラグがあるということになれば、観光にとっては致命的。家庭菜園をやっている住民にとっても大変な問題。暮らしている住民にとっては、濃度次第で環境に影響がある。代替地は価値がなくなるどころか、人が住めないところになってしまう可能性さえある。だとすれば、一部だけを掘るのではなく、地元の皆さんから調査をしてくれという要望があった場合は、国交省、群馬県に対応していただきたい。
特ダム課長:住民から調査要望があった場合について、国に確認したところ、第三回鉄鋼スラグ連絡会議が11月13日に開催され、そこで決まった対応方針に基づき、群馬県の環境森林部の指導・助言を得ながら適切に対応してまいりたいということであった。
この連絡会議は鉄鋼スラグに関して、国と県と関係市町村の各公共工事事業者が相互に情報の共有を図りながら連携して対応していくことを目的として設置されたもので、個別箇所については各公共工事事業者がそれぞれの責任において実施することになっている。
八ッ場の代替地に関する個別具体の要望に対する国の具体的な対応策については、国土交通省に直接確認していただきたい。
角倉議員:住民が国交省八ッ場ダム工事事務所に(スラグ撤去などの)対応を求めたが、国交省はスラグと思われる石の一部を持ち去ったまま何もしてくれなかったという。国交省に対応してもらえないということで、群馬県の環境森林部産業廃棄物リサイクル課に住民が要望し、県の指示で大同特殊鋼に調査してもらっているという経過である。
国交省はどこにスラグがあるかどうかわからない可能性がある。国交省に言ってくださいと県はいうけれども、国交省に言っても対応してくれないのが実状。(写真右=(株)大同特殊鋼の社員が砕石に混じった鉄鋼スラグの一部をサンプルとして持ち帰った。12月2日撮影)
建設企画課長:公共事業管理者がやったものについては、もちろん公共事業管理者が対応している。未知のものについては、県の廃棄物リサイクル課にご相談いただければと思う。合わせて大同のホームページにもスラグに関する問い合わせ窓口を開設しているので、大同にお話しいただく方法もあると思う。
角倉議員:国交省のスラグに対する対応は正直に言えば不誠実だと思う。代替地を歩いていると、スラグが露出している現場があちこちにある。民地と道路の境界にあったり、民地にあったり、工事をやっているところにあったり・・・。濃度としては、環境基準値を超えているものもないものもあると思うが、住民にとっては、まさに風評被害、実際にもし有害スラグがあるとなれば、生活再建どころじゃない。
住民にとっては、相談窓口がどこかということより、ともかくしっかり対応してもらいたいということ。どこが一番親身になってやってくれるのかということになると、やっぱり県を頼りにするしかない。現状を見ると、「適切に対応する」という言葉が非常に冷たい言葉だなと思えてならない。住民サイドで生活再建をしていくという立場に立って、この問題について真摯に対応していただくよう、部長に要望したい。
県土整備部長:現場にある、あるいはあるかもしれないスラグの処理については、それぞれの事業者がやるべきことだと思う。処理の方針は連絡会議で決めてあるので、それに基づいてやればいいんだと思う。あとは、そこに至るまでに、できるだけ迅速にやるにはどうしたらいいか、ということについてのご質問だと思う。地元の意見を国に伝えるのも県の仕事であるから、国の対応が遅いなどの不都合があれば、きちんと早く対応してほしいという要望は国に伝えたい。
角倉議員:今回確認されたスラグについて、国がどのように対応したかということについても、後でご報告いただきたい。
*代替地で鉄鋼スラグを確認した住民が国交省八ッ場ダム工事事務所に再三撤去などの対応を求めてきたが、国交省はスラグと思われる石の一部を持ち去り、調査すると言いながら何ヶ月たっても放置したままであった。
このため住民が群馬県環境森林部に対応を要望したところ、環境森林部・産業廃棄物リサイクル課の指示により、ようやく12月2日、(株)大同特殊鋼の職員二名が現地を訪れ、石のサンプルを採取し、分析調査することになった。
写真下=吾妻渓谷の見晴らし台からの眺望。左手の掘削された山の向こうに、川原湯地区住民の移転代替地と川原湯と川原畑の代替地を結ぶ湖面橋が見える。川原湯の打越代替地は本体工事現場に最も近いところにある。11月30日撮影