昨年9月の台風18号では、鬼怒川の堤防が決壊し、凄まじい水害が起きました。これを受けて国交省は鬼怒川の氾濫防止対策を打ち出しています。
昨年12月4日には「鬼怒川緊急対策プロジェクト」を発表しました。
国交省関東地方整備局ホームページ 記者発表資料より
http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/river_00000209.html
~鬼怒川緊急対策プロジェクト~ 平成27年9月関東・東北豪雨で大きな被害を受けた鬼怒川下流域において、国、茨城県、常総市など7市町が主体となり、ハード・ソフトが一体となった緊急的な治水対策を実施します。
「鬼怒川緊急対策プロジェクト」の内容を要約すると、以下の通りです。
〇 本年度から2020年度までに、結城市から守谷市にかけて鬼怒川約44kmの左岸と右岸の計約66kmの堤防
で、嵩上げ・拡幅の工事を行う。
〇 従来の計画では数十年かかる見込みだったが、約6年間で完成させる。
〇 これによって、茨城県内の堤防整備の進捗率を昨年度末の17.4%から93%へ引き上げる。
〇 決壊した堤防と、漏水した堤防は2年間で整備する。
〇 事業費は約580億円。
〇 県管理区間については、茨城県が常総市内の八間堀川など6河川の計1.8kmで、2017年度までに堤防工事
を行う。事業費は約23億円。
また、昨年12月21日には利根川水系鬼怒川河川整備計画(原案)を発表し、鬼怒川改修事業のベースになる河川整備計画の策定作業も進めています。
昨年9月の悲惨な大水害が再び起きないように、鬼怒川の改修工事を急ピッチで進めることは当然必要です。しかし、国交省の鬼怒川氾濫防止対策には次のように基本的な問題があります。
① 鬼怒川のみに5年間で600億円の河川予算を使うことになっているが、氾濫の危険性が高い河川は鬼怒川だけではない。費用が嵩む従来の河川改修方法を踏襲している限り、各河川の流域の安全がなかなか向上しない。各河川の流域の安全を速やかに向上できるよう、安価な耐越水堤防工法を導入して、他の河川の安全度も高めるべきではないのか。
② 決壊地点の改修後の堤防断面は下図のとおり、越水による破堤を防ぐ上できわめて不十分な構造になっている。
このことに関して、石崎勝義氏(元・建設省土木研究所次長)は緊急報告「鬼怒川の堤防決壊はなぜ起きたのか」において、次のように述べています。
◆石崎氏のホームページ 緊急報告「鬼怒川の堤防決壊はなぜ起きたのか」15~16ページより
https://drive.google.com/file/d/0B_AlPDSXInS7Ung5bFNhSzVySDg/view
「横断模式図(下図)を越水化の観点で見ると、堤防天端は舗装工が施され、表法面の被覆工も天端までつながっているので、水害前の堤防に比べて越水に対する安全性は向上すると思う。しかし、越水した水が流れる裏法面には被覆工がないので、堤防は急速に侵食され、天端の下まで堤体を失う。そして天端から垂直に落下するエネルギーの大きい水流が堤防を内側から破壊する心配がある。・・・・・・
天端と法尻の間の裏法面を被覆するだけで堤防は越水に対して格段に強化され、洪水の継続時間が余ほど長くならない限り、堤防決壊は生じないと思う。決壊を防ぐ効果抜群の裏法面の被覆をなぜしないのか、理解できない。その理由を教えてほしい。」
◆国交省関東地方整備局ホームページ 第3回 鬼怒川堤防調査委員会(平成27年10月19日)資料
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000634034.pdf
資料8ページ 本復旧工法(案)
越水による破堤で凄まじい水害が起きたのであるから、越水があっても破堤しない構造にするのが当然であるにもかかわらず、国交省はなぜか、非常に不十分な構造の堤防にとどめようとしています。
現在、国交省は越水しても破堤しない堤防はスーパー堤防のみである、という見解を繰り返しています。財政の制約がある中で、何百年たっても完成しないスーパー堤防や不備のある鬼怒川氾濫防止対策に巨額な費用をかけながら、安価で安全性を向上させる堤防強化対策を実施しないのは、不可解と言わざるをえません。