2012年2月15日
昨日、4カ月ぶりに利根川江戸川有識者会議が開かれました。
会議の当日、有識者委員の大熊孝氏、関良基氏が国交大臣と関東地方整備局宛てに公開質問書を提出しました。
(大熊氏は当会代表世話人のお1人、関氏は当会会員です。)
国交省関東地方整備局による利根川河川整備計画の策定の問題点を指摘し、公開で質問に応えるよう求めたものです。指摘されていることは、利根川流域の公共事業、河川環境などについての今後の方針と関わる重要な問題です。
国交大臣と関東地方整備局長の真摯な回答を期待します。
全文を転載します。
2012年2月14日
国土交通大臣太田 昭宏 様
国土交通省関東地方整備局長 森北 佳昭 様
利根川・江戸川有識者会議委員
新潟大学名誉教授 大熊 孝
拓殖大学准教授 関 良基
利根川河川整備計画の策定の進め方及び利根川・江戸川有識者会議の運営に関する公開質問書
国土交通省関東地方整備局による利根川河川整備計画の策定の進め方及び利根川・江戸川有識者会議の運営はあまりにも不誠実ですので、ここに抗議を込めて公開質問書を提出します。真摯にお答えくださるよう、お願いいたします。
1 利根川・江戸川有識者会議を9回連続で中止した理由を明らかにしてください。
利根川・江戸川有識者会議は昨年9月25日(火)、10月4日(木)、16日(月)と、急ピッチで開催されました。その後も10日に1回という学識経験者の会議としては通常ありえないハイペースで、会議が予定されてきました。ところが、それらがことごとくキャンセルとなり、9回連続の中止となりました。
10月25日(木) 中止
11月 6日(火) 中止
11月15日(木) 中止
11月29日(木) 中止
12月10日(月) 中止
12月19日(水) 中止
12月27日(木) 中止
1月21日 (月) 中止
1月28日 (月) 中止
私たちは、有識者会議委員としての責務を果たすため、時には予定していた講義や会議など様々な予定を延期または中止にしたり、あるいは他の方に代行をお願いしたりして有識者会議への出席を最優先するように努めてきました。
本有機者会議の他の委員の方々も多くはそのように努めてこられたと思います。
ところが、予定日の数日前に関東地方整備局から一方的に中止の連絡が9回連続で入りました。連絡が入った時点では、本来予定していた他のスケジュールを復活させることはできず、私たちは昨年10月下旬以降、関東地方整備局のまことに身勝手な日程設定に振り回されてきました。
しかし、相次ぐ会議の中止について関東地方整備局から何の理由説明も釈明もありません。
利根川・江戸川有識者会議を9回連続で中止した理由を具体的に説明してください。
2 治水目標流量の議論を一方的に打ち切った理由を説明してください。
9月下旬から10月中旬までの3回の会議におけるテーマは治水目標流量であり、局案17,000㎥/秒を算出した洪水流出計算モデルの是非について議論が行われました。この議論はまだ最中にあって決着が付いておらず、10月16日の会議のあと、書面で意見を出すことが求められ、私たちは治水目標流量に関する意見をまとめて提出しました。その後の会議ではこの書面意見を基にして治水目標流量について更なる議論が展開されるものと、私たちは理解していました。
ところが、そのあとの会議は上述のように中止に次ぐ中止となりました。このように、治水目標流量の議論が真っ只中にあったにもかかわらず、今年1月29日に関東地方整備局は17,000㎥/秒と前提とした利根川・江戸川河川整備計画原案を公表しました。17,000㎥/秒の是非についての議論を一方的に打ち切ってしまったのです。
これは、利根川・江戸川有識者会議の存在をあまりにも軽視したやり方ではないでしょうか。私たちは関東地方整備局の今回のやり方に怒りを禁じ得ません。
治水目標流量についての議論が行われている最中にあり、続いて議論される予定であったにもかかわらず、一方的に議論を打ち切った理由を具体的に説明してください。
3 治水目標流量を算出した洪水流出モデルへの基本的な疑問に真摯に答えてください。
9月下旬から10月中旬までの3回の会議及びその後提出した書面意見で、私たちは、治水目標流量の局案17,000㎥/秒を計算した洪水流出モデルは科学性が乏しく、きわめて過大な流量を算出するものであることを指摘しました。
私たちの意見に対して、関東地方整備局は今回の資料「『利根川・江戸川河川整備計画』における『治水対策に係る目標流量』について関係する住民や学識経験を有する者、関係都県よりいただいたご意見から得られた論点及びそれに対する河川管理者の見解」で答えた形を取っていますが、その内容を見ると、関東地方整備局の従来の説明をオウム返しに述べているだけであって、回答という名に値するものではありません。
私たちが指摘した問題のポイント3点を記しますので、それぞれの問題点について関東地方整備局の見解を具体的かつ明確に示してください。
① カスリーン台風洪水の捏造氾濫図
治水目標流量の局案17,000㎥/秒を算出した洪水流出モデル(貯留関数法)は、カスリーン台風洪水の再来計算で八斗島地点における最大洪水流量を21,100㎥/秒と算出したモデルです。同洪水の実績流量は15,000~17,000㎥/秒と推定されており、この流出モデルは実績とかけ離れて大きな値を算出するモデルです。
国交省は、21,100㎥/秒と実績流量との差についてカスリーン台風当時、八斗島地点より上流で氾濫があったから低減したものであるとして、その氾濫区域図を示しました。しかし、それは氾濫するはずがない丘陵や台地の上まで洪水が押し寄せたり、玉村町を玉度町と誤記するなど現地調査を無視したもので、捏造氾濫図というべきものでした。実際の氾濫量は小さなものですから、21,100㎥/秒がきわめて過大な計算値であることは明白であり、同じモデルで求めた治水目標流量17,000㎥/秒も同様に過大な計算値ですから、治水目標流量を大幅に引き下げることが必要です。
② 総合確率法の科学的根拠の希薄さ
国交省は一方で、総合確率法により、1/70~1/80の洪水流量は17,000㎥/秒に相当するとしていますが、この総合確率法は科学的であるとはだれも説明できない、科学的根拠が危うい方法です。総合確率法を利根川に適用してよいのか否かに関しては、第6回の本会議において、小池俊雄委員も自信が持てず、「気象庁気象研究所の藤部先生に聞いたところ、『断定はできないがそういう考え方をしても良い』というご発言だったので、それを採用した」とのことでした。正しいのかどうか専門家ですら分からないような方法によって、あたかも科学性があるかのような幻想を振りまくのは許されません。
③ 東大型洪水流出モデルの虚構
国交省が示す基本高水の是非については日本学術会議で検証が行われたことになっていますが、その検証は基本高水流量の数字を変えないという結論が先にあるもので、科学的な検証とは程遠いものでした。学術会議が国交省の洪水流出モデルを妥当とした理由は、東大型、京大型の分布型洪水流出モデルでも同様な値が得られたということでした。しかし、東大型、京大型とも、その計算結果は現実の洪水の実績流量とは少なからず違っていて再現性が低いモデルであり、定性的にも流域の湿潤状態と洪水流出量との関係に国交省の洪水流出モデルと齟齬があり、国交省の洪水流出モデルを裏付ける根拠には到底なりえません。
4 利根川・江戸川河川整備計画原案と今後の進め方の基本的な問題点についてお答えください。
今回、関東地方整備局は上述のとおり、今までの経緯を無視して、利根川・江戸川河川整備計画原案と今後の予定を一方的に発表しました。しかし、この原案及び今後の進め方には基本的な問題がありますので、以下、質問します。
① 利根川水系全体の河川整備計画をなぜ策定しないのか、その理由を明らかにしてください。
今回の原案は利根川・江戸川の本川のみを対象としています。しかし、利根川水系には渡良瀬川、鬼怒川、霞ケ浦など、大きな支川がいくつもあり、それらの支川も含めて、水系全体の河川整備計画を策定しなければなりません。支川と本川は相互に関係しており、特に支川の状況が本川に影響するので、両者を切り離して、本川だけの整備計画を先行して策定することは、科学的見地から見て、あってはならないことです。
全国の一級河川の直轄区間は72水系で河川整備計画が策定されてきていますが、今回の利根川の原案のように、本川の河川整備計画を先行して策定した水系は皆無です。石狩川以外は水系全体の河川整備計画を策定しています。唯一の例外である石狩川では支川の河川整備計画を先に策定し、それを受けて本川の河川整備計画を策定しています。支川の状況が本川に影響することを考えれば、当然の順序です。利根川においても、本川を先行して策定することをやめて、他の一級水系と同様に、支川も含めて水系全体の河川整備計画を策定する必要があります。
2006年11月~2008年5月に行われた利根川水系河川整備計画の策定作業では、利根川水系を利根川・江戸川、鬼怒川・小貝川、霞ケ浦、渡良瀬川、中川・綾瀬川の五つのブロックに分け、それぞれに有識者会議を設置し、本川・支川を含めた水系全体の整備計画が策定されようとしていました。
関東地方整備局は今回、利根川水系全体の河川整備計画をなぜ策定しようとしないのでしょうか。なぜ、本川だけの整備計画を先行策定しようとするのでしょうか。
その理由を具体的に説明してください。
② 今回の原案に書かれている各事業の実施に必要な費用を示して、実現の見通しを明らかにしてください。
平成21年度国土交通白書には、過去につくった社会資本の維持管理・更新費が今後は次第に増加して現在から24年後の2037年度には社会資本投資可能額に達してしまうことが記されている。つまり、新規事業はおろか維持管理・更新の費用さえ不足する事態になってしまうのです。公共事業がおかれているこの現実を踏まえれば、利根川・江戸川河川整備計画原案のように、毎年、巨額の河川予算をダム建設や河川改修等のため、利根川に注ぎ込み続けることは到底不可能です。
今回の利根川・江戸川河川整備計画原案にはダム事業だけでなく、首都圏氾濫区域堤防強化対策事業や大規模な河川改修、スーパー堤防など、巨額の費用が必要な事業が数多く含まれており、実現性が危ぶまれます。絵に描いた餅のような原案を示すのではなく、原案に書かれている各事業の実施に必要な費用を示して、その実現の見通しを明らかにしてください。
③ 関東地方整備局は、第2回利根川・江戸川有識者会議で、利根川水系河川整備計画の策定に関して言明したことをどのようにして守っていくのかを明らかにしてください。
第2回利根川・江戸川有識者会議(2006年12月18日)で、関東地方整備局は下記の議事録のとおり「整備計画原案を示し、有識者会議、関係住民等の意見をきいて整備計画修正案をつくり、再度意見をきき、それを何回か実施して計画案をつくる」と言明し、河川整備計画の策定を丁寧に進めることを約束しました。
ところが、今回示された「今後の予定」を見ると、有識者会議及び関係住民の意見を聞いて計画修正案をつくり、それを何回か実施して計画案をつくるとは書かれていません。第2回利根川・江戸川有識者会議で言明したことはどうなったのでしょうか。今後の利根川河川整備計画の策定においてこの約束をどのようにして守っていくのかを明らかにしてください。
第2回利根川・江戸川有識者会議(2006年12月18日)の議事録(4~5ページ)
「事務局:髙橋伸輔河川計画課長
全体の公聴会をした後に、ブロック別に今度、各都県一、二カ所程度、全体としては20カ所程度になろうかと思いますが、公聴会を開かせていただきまして、その中でもいろいろな川づくりに対する思いですとか、そういった部分を意見を伺わせていただければと思っております。・・・・
それから、河川整備計画の原案をそういった意見を踏まえてつくらせていただこうと思っておりまして、また、その河川整備計画の原案につきましては、全体の意見を取りまとめて整理させていただいた上で、その後の有識者会議になろうかと思いますが、そこの段階でお示しさせていただければと思っております。その段階におきまして、また関係住民の方々にもインターネット等での意見募集、それから公聴会、そういったものを開かせていただいて、再度意見をいただいて、また、その整備計画の原案を修正させていただく。で、また修正したものにつきましても、再度ご提示させていただいて、また学識の先生方、それから関係住民の方々からご意見をいただくと、そういったことを何回か実施させていただきまして河川整備の案を取りまとめていきたいと思っております。」 以上