八ッ場ダム予定地にある川原湯地区の背後には、金鶏山(金花山ともいう)が聳えています。
八ッ場ダム事業ではこの山に3千メートル余のトンネルを掘りました。山の裏(南)側の集落名を冠したこの大柏木(おおかしわぎ)トンネルは、現在、八ッ場ダム本体工事専用トンネルとして使用されており、トンネル内には骨材を運搬するベルトコンベヤーが設置されています。
しかし、ダム予定地域の住民にとっては、交通の要衝である高崎市へのアクセス改善を望んで建設を要望してきたトンネルです。
「八ッ場ダム事業」はダム予定地域では道路整備などの地域振興への期待が強く、大柏木トンネルもそうした地域振興事業の一環として具体化した経緯があります。
大柏木トンネルは計画当初から、八ッ場ダムの本体工事終了後は一般供用されることになっていました。今朝の上毛新聞が一面トップ記事で、大柏木トンネルを本体工事終了後は県道として早期に一般供用できるよう、群馬県が準備を進めていることを報じています。
写真右=大柏木トンネルの入り口(長野原町川原湯地区)。トンネル内にはベルトコンベヤーが設置され、トンネルの反対側の東吾妻町大柏木からダム本体工事現場の吾妻渓谷にダム堤体の骨材を運搬するために稼働している。トンネルの正面を県道・林岩下線が横切っている。2015年11月4日撮影。
◆2017年5月9日 上毛新聞 (ネット記事は紙面記事の冒頭部分と図を掲載しています。)
http://www.jomo-news.co.jp/ns/6714942637964079/news.html
ー八ツ場工事専用の大柏木トンネル 県道利用へ整備 ー
八ツ場ダム(群馬県長野原町)建設に関連し、同県は工事専用道路の一部となっている大柏木トンネル(長野原町川原湯-東吾妻町大柏木、全長3005メートル)について、ダム工事終了後に県道として利用するため、整備を始める。事業費は数十億円規模となる見込みで、25日開会予定の県議会第2回定例会で、債務負担行為などについて同意を求める。ダム完成に合わせた地域住民の利便性を向上するため、2019年度中の利用開始を目指す。
19年度供用目指す
トンネルは、国土交通省がダム本体工事の掘削土やコンクリート用骨材を運搬するための工事専用道路の一部として03年3月に整備に着手。08年12月に貫通した。北側はダム予定地周辺、南側は県道川原畑大戸線に位置。同県道は高崎市方面と結ぶ国道406号に接続する。県はトンネルを同県道として整備する方向だ。
県は骨材運搬などの終了後に国から引き渡しを受け、路面の舗装や内壁をコンクリートで覆う工事、各種照明の設置などに取り掛かる予定。年度内は資材の発注などを進める。ダム建設が進む長野原町や東吾妻町から、高崎市方面へのアクセス向上や、ダム周辺の観光振興などが期待され、県特定ダム対策課は「観光客をはじめ来訪者の増加が見込まれるダム完成の時期に合わせ、一般の供用を開始できるようにしたい」としている。
県の整備開始方針を受け、長野原町川原湯の区長を務める豊田拓司さん(65)は「現在は、高崎に行くにはかなり時間がかかってしまうが、トンネルを使えるようになれば、大幅に時間を短縮できる」と早期の利用開始を期待した。
整備に関連し、トンネル近くの東吾妻町内にあるコンクリート用骨材を製造するプラントも、工事終了後の跡地を地域振興につながる施設用地として活用することなどが検討されている。
八ッ場ダムは1952年に計画発表。民主党政権が2009年に建設中止を打ち出すなど曲折を経たが、昨年6月にダム本体のコンクリート打設が始まった。19年度の完成を見込んでいる。
—転載終わり—
群馬県はダム予定地の住民に対して、八ッ場ダムによるダム湖観光が地域振興になると説明してきました。上記の記事も、ダム完成による観光客の増加を見込んでいますが、名勝・吾妻渓谷がダム建設により破壊され、水没予定地の川原湯温泉街は代替地へ移転、ダム予定地域における観光客はダム事業が始まる前と比べると激減しています。2010年以降、付替えの国道や県道の整備が進んできましたが、川原湯温泉の旅館や店舗の数は大幅に縮小したままです。大柏木トンネルの整備で草津温泉などへの交通の便がよくなることで、ダム予定地域がこれまで以上に観光客の通過地点となってしまうのではないでしょうか。
写真下=大柏木トンネルがつくられた川原湯地区の金鶏山を吾妻川対岸の川原畑地区より2017年3月28日撮影。骨材を運ぶ赤茶色のベルトコンベヤーは、川原畑地区(水没予定地)の線路跡にも設置されている。赤茶色の管がベルトコンベヤー。