さる6月9日、県議会産経土木委員会において、角倉邦良県議(リベラル群馬)が八ッ場ダム事業について質問しました。質疑のポイントをお伝えします。
1. ダム予定地の発掘調査について
① 石畑Ⅰ岩陰遺跡の調査について
国の名勝・吾妻渓谷にある八ッ場ダム本体工事現場には、縄文時代の石畑Ⅰ岩陰(いしはた・いち・いわかげ)遺跡が存在することが知られています。この遺跡は、「群馬県史」で大きく取り上げられている重要な遺跡で、考古学の専門家らも注目しています。
情報開示資料(八ッ場ダム予定地の発掘調査に関する国と群馬県の調整会議の議事録)によれば、この遺跡の発掘調査は10か月以上かかる可能性があるとのことですが、水没予定地にあるため、ダムの試験湛水までに調査を終了させる必要があります。
(写真右=八ッ場ダム本体工事現場。石畑岩陰Ⅰ遺跡は骨材を運ぶ茶色いベルトコンベヤーのあるあたり。2017年7月5日撮影。)
角倉議員:八ッ場ダムは平成31年度末までに完成させることになっている。ダム本体工事現場にある石畑岩陰Ⅰ遺跡の発掘調査は、ダムの試験湛水までに間に合うのか? どのようなスケジュールで行うのか、示していただきたい。
小林特定ダム対策課長:国交省より、試験湛水までに埋蔵文化財調査が実施できるよう、群馬県教育委員会と調整中と聞いている。
(写真右=石畑Ⅰ岩陰遺跡のある岩山を背にして走る吾妻線。2015年に八ッ場ダム本体工事が始まったため、八ッ場ダムのダムサイト地点にあった吾妻線の線路は2014年9月に廃線になり、国道は同年11月に廃線となった。2014年7月28日撮影。)
注)発掘調査を実施している群馬県埋蔵文化財調査事業団は、7月10日、ホームページに石畑岩陰Ⅰ遺跡の発掘調査を6月に開始したことをレポートとして公表しているが、県議会では6月の調査開始に触れなかった。
http://www.gunmaibun.org/remain/iseki/hakkutu/2017/20170710-6.html
(写真右=上記の埋文事業団の解説によれば、遺跡は岩山の下のいわゆる岩陰の部分と吾妻線の軌道部分、八ッ場ダム建設工事用道路(旧国道)や工事用車両の駐車場部分からなっている。6月に発掘調査が開始された場所は、旧国道の左手の駐車場部分で、かつて蕎麦屋「白糸の滝」があったあたり。2014年11月16日撮影。線路は廃線となり、この二日後、国道も閉鎖された。)
角倉議員:試験湛水は完成時期から逆算して行わなければならない。国が群馬県教育委員会と調整しているのであれば、本体工事がいつ終わるか、国は県に示しているのか?
小林特定ダム対策課長:本体工事の進捗状況が文化財調査に影響を与えるものと認識している。
角倉議員:一般的に考えれば、本体工事がいつ頃終わるのか、国交省から群馬県へ話があると思うが、どうか?
小林特定ダム対策課長:ダム事業は平成31年度末までに完了すると、国から聞いている。
角倉議員:平成31年度末までの残り2年10か月で本体工事、試験湛水、文化財調査などを完了させなければならない。本体工事がいつまでに終わるかは大体わかる筈である。9月議会では、本体工事の具体的な工程を示していただきたい。
小林特定ダム対策課長:ダムの進捗状況は国に確認していきたい。
2. 川原湯温泉の源泉について
川原湯温泉の源泉は、ダム事業によるボーリング調査で掘り当てた新源泉と、本来の川原湯の源泉であった水没予定地の旧源泉(「元の湯」)があります。現在、代替地へ引湯しているのは新源泉です。住民とのこれまでの約束では、旧源泉も代替地へ引湯することになっていますが、具体的な今後の予定は明らかにされていません。
今も岩の割れ目から自然湧出している「元の湯」源泉の湧出口(写真右)は標高が約574㍍、八ッ場ダムの満水位は583㍍であるため、ダムに沈む予定です。
角倉議員:旧源泉は泉質がすばらしい。ダムに貯水するまでに「元の湯」源泉の湧出口を囲って塀を作り、ダムの水が入らないようにして源泉を保護し、川原湯温泉が移転した打越代替地へ引湯するという理解でよろしいか? 源泉を保護しても、引湯して活用しなければ勿体ないと思うが、どうか?
飯島生活再建対策主監:国からは、旧源泉を保護し、打越代替地に引湯する計画であると聞いている。
角倉議員: 川原湯温泉の二つの源泉と配湯施設の維持管理費は、ダム事業が実施されている現在は国が負担している。維持管理費が相当かかっていると思うが、具体的な費用は国から示されているのか。
飯島生活再建対策主監:国に確認したところ、国が行っている暫定の配湯施設のメンテナンス代は、年間1,080万円及び電気代と聞いている。
(写真右=水没線付近にある新源泉の貯湯施設。ここから新源泉を引湯管とポンプで標高600㍍以上の代替地へ運んでいる。)
角倉議員:旧源泉の配湯施設の維持管理も考えると、年間2,000万円を超えることになるのか。引湯の維持管理なども考えれば、さらに1,000万円、2,000万円プラスになる可能性もある。今、現に代替地で温泉旅館を営業しているのは5軒である。その5軒で維持管理費を負担できるのか? 国と川原湯温泉組合とで覚書を結んでいるものの、覚書は群馬県からは見せてもらえないとのことで中身がわからない。「ダム事業が完了したから、現地の皆様で維持管理して下さい」ということであれば大変だと思うが?
飯島生活再建対策主監:国からは、川原湯温泉配湯施設の機能回復工事完成後、川原湯温泉組合に引き渡して管理され、機能回復施設の維持管理に要する費用の増分は、「国土交通省の直轄の公共事業の施工に伴う公共補償基準」等に基づき、国が適切に補償すると聞いている。
角倉議員:補償があるのはよいことだが、具体的な中身は明らかにされていない。県は生活再建に力を入れているはずで、生活再建の基になる温泉は重要。そこはしっかり追いかけてもらいたい。
飯島生活再建対策主監:直接は国と川原湯温泉組合の関係となるが、県としてサポートしていきたい。
(写真右=川原湯温泉が移転した打越代替地にある新源泉の貯湯タンク。広大な代替地を循環方式で各旅館に配湯している。)
角倉議員:そのサポートも、口だけではしょうがない。財政的なことも含めて、実際にどのようなことであるのかを見極めてほしい。国、長野原町や川原湯温泉組合と分担していくという可能性は十分にある。その時に、5軒の旅館と国とで話し合うだけでは勝負にならない。やはり、県が間に入って、川原湯温泉をサポートしていただきたい。
飯島生活再建対策主監:国、長野原町や川原湯温泉組合と協力して対応していきたい。