2016年3月9日
昨日、利根川江戸川有識者会議が開催され、大熊孝委員、関良基委員より、国交省関東地方整備局による利根川の河川整備計画の策定のあり方について問う公開質問書が提出されましたので、お知らせします。
2013年3月8日
国土交通大臣 太田 昭宏 様
国土交通省関東地方整備局長 森北 佳昭 様
利根川・江戸川有識者会議委員
新潟大学名誉教授 大熊 孝
拓殖大学准教授 関 良基
利根川河川整備計画の策定の進め方に関する公開質問書(その2)
2月21日の利根川・江戸川有識者会議の最後に、泊宏河川部長が「多くの委員からさまざまな意見をいただいた。今後の対応は整備局で検討させていただきたい」と述べました。新聞報道によれば、打ち切る可能性を示唆したとあります。しかし、本有識者会議は多くの議題を残したままになっており、仮に打ち切るとなれば、本有識者会議は何のために設置されたのか、有識者会議の存在理由がなくなり、泊河川部長の発言を理解することができません。われわれは、会議の席上、何度も、十分時間をかけて議論するよう要請してきました。
先に「利根川河川整備計画の策定の進め方及び利根川・江戸川有識者会議の運営に関する公開質問書」を提出しました。上記のとおり、新たな局面が出てきましたので、国土交通大臣及び関東地方整備局長の見解を明らかにしていただきたく、公開質問書(その2)を提出することにしました。真摯にご回答くださるよう、お願いいたします。
3月18日(月)までに文書でご回答ください。
1 利根川河川整備計画の策定を急ぐ理由は何か?
国土交通省関東地方整備局は利根川・江戸川河川整備計画を急ピッチで策定しようとしています。利根川水系全体の河川整備計画を策定しなければならないにもかかわらず、本川だけの利根川・江戸川河川整備計画の策定を進めようとしています。2006年12月18日の利根川・江戸川有識者会議で関東地方整備局は、当時の議事録によれば、原案について意見を聞いて修正し、その修正案について意見を聞くという作業を何度も繰り返して、河川整備計画を入念につくっていくことを約束していました。それにもかかわらず、前回会議での泊部長の発言に示されるように、河川整備計画の策定を急ぐ理由はどこにあるのでしょうか。
利根川水系河川整備計画は利根川水系において今後30年間に実施する河川整備の内容を定めるものであり、流域住民の生命と財産を本当に守ることができ、且つ、自然環境の保全・回復にも十分に配慮した計画が策定されなければなりません。そのようにきわめて重要な意味と役割を持つ利根川河川整備計画を拙速でつくれば、将来において大きな禍根を残すことになります。
関東地方整備局は利根川本川だけの河川整備計画をなぜ、急いで策定しようといるのでしょうか、八ッ場ダム本体関連工事に早く着手することが急がれているからでしょうか。
利根川本川の河川整備計画を急いで策定しようとしている理由を明らかにしてください。
2 支川の治水安全度と整備計画策定時期を明らかに!
利根川・江戸川河川整備計画の原案は治水安全度1/70~1/80で提案されています。しかし、2006年11月からの利根川水系河川整備計画の策定作業で、関東地方整備局が示した案では本川1/50、支川1/30で、本川と支川の関係を踏まえた治水安全度でした。ところが、今回の原案では、本川が1/50から1/70~1/80へ引き上げられました。それでは支川の安全度はどうなるのでしょうか。
そもそも、河川整備計画は支川と本川を一体として策定されるべきであり、支川の状況も踏まえずに、本川だけの治水安全度を先に決めるのはまことにおかしなことです。
今回の原案の対象外になっている鬼怒川・小貝川、渡良瀬川、霞ケ浦、中川・綾瀬川の治水安全度をどうするのか、本川との整合性をどうするのかについてお答えください。
また、鬼怒川・小貝川、渡良瀬川、霞ケ浦、中川・綾瀬川それぞれの河川整備計画をいつ策定される予定であるのかを明らかにしてください。
3 治水目標流量を15,000㎥/秒とした場合の河川整備計画原案を!
治水目標流量案17,000㎥/秒を算出した洪水流出モデルは利根川の洪水流出を正しく再現せず、過大な洪水ピーク流量を算出しているのではないかという問題について、本有識者会議で議論が行われてきました。まだ議論の過程にあり、結論が出たわけではありませんが、今までの議論を踏まえれば、治水目標流量は17,000㎥/秒が唯一解ではなく、治水目標流量をもっと小さい値15,000㎥/秒にする案も十分に現実的可能性があります。
今回の河川整備計画原案は治水目標流量17,000㎥/秒を前提としたものですが、本有識者会議の議論を重視すれば、関東地方整備局は治水目標流量を15,000㎥/秒とした場合の整備計画案も同時に示すべきです。15,000㎥/秒とした場合、整備事業の内容がどのように変わるのか、その事業費がどうなるのかを明らかにすべきです。
治水目標流量の数字はそれだけを切り離して是非を考えるのではなく、治水目標流量の達成に必要な整備事業の内容と事業費も含めてその妥当性を判断すべきです。
ついては、治水目標流量を15,000㎥/秒とした場合の河川整備計画原案と事業費を明らかにしてください。
4 河川整備の10年単位の事業実施計画を!
今回の河川整備計画原案は今後30年間に整備する事業の内容が書かれています。しかし、30年間はかなり長い期間であり、その30年間においてどの事業を優先して取り組んでいくかは流域の安全性を向上していくうえできわめて重要なことです。流域の安全性をなるべく高めるために、どの事業を先に進めていくべきか、費用の面からもそれがどこまで可能なのかが議論されなければなりません。
日本は、過去につくった社会資本の維持管理・更新費が今後は次第に増加して新規の社会資本投資が先細りにならざるを得ない状況にあるのですから、利根川の河川整備においても優先して進める事業を選択していかなければなりません。
また、流域住民にとって、自分の安全に関わる河川整備事業がいつごろ実施されるのか、10年後のことなのか、20年後のことなのか、30年後のことなのかに大きな関心を持たざるを得ません。
したがって、河川整備計画原案は単に30年間に実施する事業の内容だけではなく、整備計画をたとえば10年単位に分けて、各期間の整備事業の内容とその事業費を示すことが必要です。
ついては、河川整備計画原案の10年単位の事業実施計画案を明らかにしてください。また、各期間の事業実施に必要な事業費も示してください。
5 利根川の自然の回復を目指した河川整備計画を!
今回の河川整備計画原案を見ると、環境に関しては通り一遍のことが書かれているだけで、注目すべき記述がありません。しかし、現在、河川整備計画の策定作業が進められている円山川水系(兵庫県)の場合はそうではありません。円山川は一級水系で、その下流域は昨年7月にラムサール条約登録地に指定されました。
ラムサール条約登録地になったことを受けて、円山川水系は自然に優しい、自然の回復を目指した河川整備計画がつくられつつあります。その整備計画原案には、
「川の営力による自然の復元力を活かしつつ、河川環境の整備を行い、過去に損なわれた湿地や環境遷移帯等の良好な河川環境の保全・再生を図る」、
「水域から山裾までの河床形状をなだらかにして、山から河川の連続性を保全する」、
「本川と支川・水路との間の落差を解消し、生物の移動可能範囲の拡大を図る」
ことなどが記されており、自然の回復が整備計画の柱の一つになっています。
それに対して、利根川・江戸川河川整備計画原案は自然の回復という視点は皆無だと言っても過言ではありません。利根川水系でも渡良瀬遊水地が昨年7月にラムサール条約登録地に指定されましたが、その理念を利根川全体に適用していこうという姿勢はまったくみられません。
なぜ、利根川では円山川水系のように自然の回復を目指した河川整備計画をつくろうとしないのでしょうか。その理由を明らかにしてください。