八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

上毛新聞の論説記事「八ッ場に道の駅」

2013年4月22日

 上毛新聞が今朝の社説で久しぶりに八ッ場ダムを取り上げました。
 ゴールデンウイークを前に、ダム予定地では「道の駅」が開業します。八ッ場ダム事業における初の本格的な地域振興施設のお披露目を前に、地元紙の上毛新聞は「道の駅」の成功を願う地元民の心情と、その背景事情を伝えています。

 地域振興施設はもともとは、施設の建設費だけではなく、維持管理費も八ッ場ダムの受益者とされる首都圏各都県が負担するはずでした。地元がダム計画を受け入れる重要な条件であったこの約束が反故にされ、その代わりに群馬大学の寺石雅英・元教授が提唱し、「道の駅」で採用されることになったのが地元住民の投資による株式会社方式でした。

 記事では、「観光地八ッ場」の中心となるのがこの「道の駅」だとしていますが、もとより、「観光地八ッ場」の中心となるのは、代替地で再建される新しい川原湯温泉街の筈でした。1990年代に再建される予定だった新・川原湯温泉街ですが、打越代替地の温泉街ゾーンは、今も工事現場のままです。

 社説は地元住民が置かれている厳しい状況について、以前より踏み込んで伝えています。その一方で、ダム計画によって破壊された地域再生のために住民の「したたかさ」が必要としています。これまで全国のダム予定地で、ダムを受け入れた住民が「したたかさ」を求められ、厳しい現実に直面してきました。

 
 記事を転載します。

◆2013年4月22日 上毛新聞

 -論説 八ッ場に道の駅 地域再生したたかにー

 八ッ場ダム周辺の地域振興施設として、長野原町が不動大橋(湖面2号橋)の北側に整備していた道の駅「八ッ場ふるさと館」が27日に開業する。地元、林地区の住民が設立した株式会社が運営。農産物や名物料理、観光案内、足湯などを提供する。立地も機能も「観光地八ッ場」の中心となる。観光客の支持を得て事業を拡大し、雇用の受け皿としても存在感を高めることが期待される。

 民主党が2009年に政権交代を果たした直後、事業中止を表明した八ッ場ダム。建設是非の検証を経て11年12月に当時の国土交通相が再開を決めたものの、官房長官が条件とした「河川整備計画の策定」のため12年度は着工に至らず。昨年の衆院選で自公が政権を奪還し、太田昭宏国交相は「条件に縛られない」と早期着工の意向を示したが、新年度予算に本体工事費は盛り込まれず、今も着工に向けた動きは見えない。

 国交省は予算化されなかった理由を「準備工事が必要」などと説明。しかし同省は09年1月、工事の遅れを理由に本体の入札を官報に公告した”実績”がある(同年の政権交代で入札中止)。新年度予算の審議前にもかかわらずだ。

 八ッ場を急ぐことへの政府の慎重姿勢がうかがえる。「八ッ場に前のめりになりすぎると『古い自民党の体質』と批判されかねない。参院選までは、八ッ場を目立たせるのは得策ではない」。そんな声が与党から漏れ聞こえる。
 
 国交省は八ッ場ダムの検証作業で、入札から完成までに7年3カ月かかるとの見通しを示した。仮に本年度中に入札しても、完成は現計画の15年度から20年度にずれ込む可能性がある。

 地元には「ダムあっての生活再建」の声が根強い。ただ、この10年だけでも水没5地区の住民は694世帯2004人から495世帯1326人に減った。ダム完成を待つ地域の体力、結束力は失われつつある。

 この混迷、閉塞感の中で地元住民が発案し、運営する「ふるさと館」が始動する意義は大きい。株主は現在約50人。公募により地域の応援団をさらに増やす方針という。農産物を出荷する生産組合には郡内の120の農家が加入。事業を軌道に乗せた後には加工所も整備し、新たな雇用を生み出す構想も描いている。

 代替地ではうどんやそば店が営業を始め評判に。5月には川原湯温泉から移転新築中のやまた旅館が営業を再開。9月には山木館が続く予定だ。

 こうした住民の動きに、これ以上政治に振り回されたくない、振り回されないーという思いと意思が読み取れる。ふるさと館の幹部は「八ッ場のニュースが流れ話題になることは経営にプラス」と、工事の遅れを伝えるニュースさえも前向きに受け止めようとする。八ッ場地域の再生に今必要なのは、住民の連携と、政局さえも利用する”したたかさ”なのかもしれない。