2005年12月9日 朝日新聞38面より転載
滋賀ダム判決、ずさん調査発覚 釈明追われる農水省
2005年12月08日23時48分
提訴から11年を経て、国のダム計画が、根底から覆った。8日、言い渡された滋賀県東近江市の永源寺第2ダムをめぐる訴訟の大阪高裁判決。原告の逆転勝訴への大きな流れをつくったのは、昨年発覚した、当初のずさんな調査だった。公共事業をめぐる国の安易な姿勢に対する司法の厳しい指摘に、農林水産省は釈明に追われた。
今回のダム事業計画の前提となる地区調査は88年に始まり、近畿農政局はボーリング調査や実地測量なども予定していた。だが、実際には「地表に堅固な岩盤が露出しており、地質は極めて良好」などとしてダム建設に欠かせない事前調査を怠った。貯水容量の算定は、78年に国土地理院が承認した縮尺2500分の1の地図を使うずさんな作業だった。
結局、岩盤の状況などが実際とは大きく異なり、当初は476億円だったダムの事業費は、大幅な増大が避けられない状況になっている。
国側がボーリング調査さえしていなかったことが発覚したのは、昨年2月ごろ。以後、この点が控訴審での最大の争点に浮上した。
農林水産省では8日夜、判決を受け、川村秀三郎・農村振興局長ら担当幹部が局長室に集まり、今後の対応を協議した。
高裁判決が、設計に必要な地形調査やボーリング調査の一部を実施しなかったと指摘した点について、幹部の一人は「ボーリングマシンを設置する土地の提供や、測量をするために必要な樹木の枝の切り払いに関する協力が、反対派住民から得られなかったためだ」と釈明。そのうえで「予定地は地質的な心配事の少ないところ。すべての調査をするに越したことはないが、一部を省略したからといって、大きな問題は生じない」と抗弁した。
川辺川ダム(熊本県)や八ツ場ダム(群馬県)などの建設を進める国土交通省。これまで反対派住民からいくつもの訴訟を起こされており、幹部の一人は「法に定められた手順をきちんと守っていなかった。怠慢と言われても仕方ない。姉歯問題と同じだ」と嘆いた。
川辺川ダム建設では、農水省の土地改良事業で地元農家の同意書が偽造され、03年に福岡高裁で国の敗訴が確定。本体着工の見通しが立たなくなっている。
河川局幹部は「『ダム』の2文字で、同じように見られるのが心配だ」と懸念を示した。
永源寺第2ダムの恩恵を心待ちにしていた地元農家は落胆する。上流にダム予定地がある滋賀県東部の愛知川流域は、以前から干ばつに悩まされ、井戸やポンプで地下水をくみ上げて利用する農家が多い。50年以上農業をしているという東近江市大森町の男性(73)は「残念としかいえない。田んぼもずっと減反を続けているが、それでも水が足りない」と話した。