2006年5月31日
熊本県の川辺川ダム計画は、八ッ場ダムと並ぶ国直轄の巨大ダム事業です。農業利水、漁業権の問題で、ダム計画に疑問を抱く住民側が裁判で勝訴し、ダム周辺工事がすべて終了した後、何年も本体工事にストップがかかっていることから、一般には、「川辺川ダムはもう、中止の方向で決まっているんだ」という楽観論が一人歩きしていました。
市民運動の側では、「国がそう易々とダム計画をあきらめるわけがない」と、運動の継続に力を注いできましたが、実際の国の動きは、市民たちが懸念した通りに進んでいます。
朝日新聞は今朝の第3社会面で、農水省が川辺川ダム利水事業から撤退することで、国交省が本体着工に向けた手続きを進められる状況になる、と報じています。多くの批判をあびている公共事業の目的の一つが、住民たちの力でようやく見直されても、ダム計画そのものはビクともしないーわが国の硬直した仕組みを、米国の日本研究者は「悲劇的」と評しましたが、当事者である私たち庶民は、官僚体制が生み出す悲喜劇に身を任せているわけにもいきません。
朝日新聞より転載
「川辺川ダム 利水事業撤退へ 農水省きょう県などへ提示」
国土交通省の川辺川ダム計画(熊本県)で、ダム建設の目的の一つになっている利水事業を受け持つ農林水産省は、ダムを水源とする利水事業から撤退する方針を固めた。ダム計画は本体着工を目前に、利水事業見直しのために足踏みを続けてきた。利水が目的から外れたことで、国交省が本体着工に向けた手続きを進められる状況になる。
川辺川ダムは66年に建設省が計画を公表したが、住民らの反対で本体着工が出来ない状態が続いている。治水、発電、流量調整を加えた同ダムの四つの目的のうち、農水省の利水事業では、農家からの同意手続きで故人の印鑑が同意書に押されていたなどの不正が発覚。03年の福岡高裁判決で国が敗れ、利水計画そのものが白紙に戻ったため、ダム計画も見直す必要が生じた。
農水省は、チッソ(本社・東京)が流域に持つ発電所の水を農業用水に使う新たな利水案を固めた。31日、熊本県や地元自治体に正式に提示する。