2006年10月25日 中日新聞より転載
徳山ダム試験湛(たん)水開始から一カ月。「つらくなるから」と現地に行かなかった旧村民からも「そろそろ行く。やっぱり気になる」との声が聞こえ始めた。一方、「村が気になってしょうがない」と一カ月の間に十回近く足を運んでいる人も。水かさが少しずつ増していくダムの様子を、複雑な思いで見詰めている。
山菜採りが大好きだったという徳山村出身の無職北村昭男(てるお)さん(75)=本巣市文殊=は「徳山なしには生きられんから」と湛水開始後も足繁くダムに通う。「十月の初めごろは山でようマイタケが採れた。今後はもう誰も採れない。残念で仕方がない」。前に撮った、机の上いっぱいに並べた大量のマイタケの写真を眺めては、もどかしい思いを抱く。
本巣市文殊の久瀬川幸男さん(58)も、湛水後、「村を捨てられん」と仕事の合間を縫って四回足を運んだ。「水に漬かりだしたら、もっと村の写真を撮っておけば良かったと強く思うようになった。自分の家も歩いてる人も。村を出たときはあきらめの気持ちで、考えが及ばんかった」と振り返った。
(坂田奈央)