2006年12月26日 毎日新聞より転載
利根川、淀川という東西を代表する1級河川を舞台にしたダム建設や流域開発を定める整備計画の策定方法を巡り、「住民参加の機会が奪われている」との批判が強まっている。利根川水系では市民団体が国土交通省関東地方整備局長の諮問機関から排除され、住民が議論に参加していた「淀川水系流域委員会」でも、同省近畿地方整備局が開催の休止を決めた。97年に改正された河川法は、計画策定に当たって住民の意見を聴くよう定めており、市民団体は「法の目的を踏みにじった河川行政の後退だ」と懸念している。
利根川水系の諮問機関は、関東地方整備局が学識経験者や地方紙幹部から委員65人を選定した。開発に反対する地元市民団体も委員として参加を求めたが、国は「諮問機関は専門家のみ。住民の声は(諮問機関とは別の)公聴会で聴く」として受け入れなかった。
しかし今月4日にあった諮問機関の初会合では、委員から「知識が豊富な市民団体も議論に参加させるべき」「公聴会のみでは住民の声が反映されない」と、会議運営に疑問の声が相次いだ。傍聴した市民団体の遠藤保男さん(62)は「国の意向をくんだ委員による議事進行でお飾りの会議だ」と批判した。
一方、「住民参加型のモデルケース」とされた「淀川水系流域委員会」。学識経験者のほか、住民や市民団体ら25人で構成している。環境重視の理念で、03年には建設・計画中の5ダム事業について「抜本的な見直しが必要」との報告書を出した。ところが、近畿地方整備局は今年10月、「来年1月の委員の任期切れ後は新委員を選定しない」と、事実上の休止宣言。これについて国交省は「委員会の『あり方』を考える時が来た」などと説明した。
改正河川法は、学識経験者主導だった計画策定議論について、住民の意見を反映するため必要な措置を講じるよう定めた。環境悪化や利水計画の不十分さが指摘されたのに、旧建設省は長良川河口堰(ぜき)(三重県)を推進。にわかに批判が高まったことがきっかけだった。
国交省は一連の動きについて「住民の声を聴かないわけではない」としているが、遠藤さんら市民団体側は「こうした流れは法の目的を無視した“住民外し”の動きだ」と強く批判している。【種市房子】