2007年2月18日 毎日新聞より転載
道路や河川の工事、発電所建設などの際に、計画段階から環境影響評価を行う「戦略的環境アセスメント(SEA)」の導入を巡り、各省が激しく対立している。現在の環境アセスメントは計画確定後に実施するため、計画推進前提の結論しか出せず、“アワスメント”とも揶揄(やゆ)される。このため、環境省はSEAの導入を目指すが、国土交通省や経済産業省は「必要ない」と反発。専門家も「(SEA導入は)世界の常識なのに」と指摘するが、実現は微妙な情勢だ。【中村牧生】
環境アセスメントは、環境影響評価法に基づいて実施。事業者が環境影響を評価し、国や地方自治体の環境部局が意見を出す。しかし、計画が確定した段階で実施するため、計画の大幅変更は難しいのが実情だ。
しかし、SEAは計画段階で評価するため、もし悪影響が判明すれば事業の変更が可能。現在ほとんどの先進国で取り入れられている。環境省は「戦略的環境アセスメント総合研究会」で検討を進めており、今月26日の会合に、具体的な手続きの最終案を示す予定だ。
こうした動きに対し、国交省は「道路や河川の工事では、住民などの意見に配慮して計画しており、環境部局の関与は不必要」と主張。確かに河川工事の場合、改正河川法(97年)で計画策定にあたり住民の意見を聴くよう定められた。
だが、法の趣旨に基づき、住民の意見を反映させようと国交省が設置した「淀川水系流域委員会」が、今年1月末に委員の任期満了を理由に休止となり、改正河川法の実効性が問題化した。元メンバーの吉田正人・江戸川大学教授(保全生態学)は「制度的な保証がないと、結局意見を聴くだけになってしまう」と批判する。
また経産省は、構想から地点選定までを事業者内部で行う発電所などについて、SEAの考え方にそぐわないと見ている。電力会社の担当者は「計画を明らかにすれば混乱が予想され、大きな障害が生じかねない」と説明する。
SEAは欧米のほか中国、韓国でも既に導入されている。環境省の研究会委員で東京工業大の原科幸彦教授(環境計画)は「持続可能な社会を作るにはSEAは不可欠。世界の常識になりつつある。導入に25年もかかったアセス法と同じ道をたどれば、日本の国際的な信用は失墜する」と話している。
◇環境アセスメント(環境影響評価) ダムや鉄道、発電所、ゴミ処理場など大規模事業の実施に伴い、環境への影響を評価する制度。日本では72年に公共事業に実施する方針を閣議了解したが、省庁間の調整が難航。共通的な手続きの法制化は97年まで遅れた。付帯決議には戦略的環境アセスの検討が盛り込まれたが、10年近くも塩漬けになっている。昨年4月に閣議決定された第3次環境基本計画に基づき、研究会がガイドラインの作成を進めていた。