2007年2月23日 下野新聞より転載
「ダムなど予定事業に賛否 公聴会で10人が意見 国交省、4月には原案提示」
利根川水系の河川整備計画策定に向け国土交通省関東地方整備局が五ブロックに分けて設置した有識者会議の初の合同会議と、同水系全体を対象とした公聴会が二十二日、さいたま市内のホテルで開かれた。公述人は予定されている大規摸事業への賛否などを表明。意見の中では国交省の議論の進め方を疑問視する声が相次いだ。国交省はこれらの意見や有識者会議の議論、インターネットなどで募集した意見を踏まえて四月ころには整備計圃の原案を示す方針。
公聴会で意見を述べた公述人は十人。このうち六人は今後三十年以内に同水系で予定されているダムなど大規模公共事業に反対意見を表明し、国交省の議諭の進め方も「民主的でない」などと注文をつけた。
一方、流域の現職首長や元首長を含む三人が国交省の事業に理解を示した。
このうち本県にかかわる事業では、渡良瀬遊水地の治水容量増強のため大規模掘削する事業について、市民団体の代表者が「不要不急で、治水計画上も整合性がない。効果が確実な河川整備で対応すべきだ」などと主張。これに対し、遊水地に隣接する群馬県板倉町の針ヶ谷照夫町長が「治水容量を確保できるのなら掘削してほしいというのが住民感情」と述べ、事業の推進を求めた。
日光市の鬼怒川支流に建設予定の湯西川ダムについて、宇都宮市の女性は「鬼怒川の治水計画上、何の効果もない。水を買う予定の宇都宮市も水余りの状態」として、建設の中止を求めた。
公聴会に先立って開かれた合同有識者会議は、上下流特有の問題やこれまでの議論の中身を共有化する目的で開かれ、四十二人の委員が出席した。
国交省にこれまでにインターネットやはがきなどで一般から寄せられた治水や利水、河川環境などに関する意見が公表された。
意見の総数は四百三十二件。このうち三割が本県住民の意見で、都県別では最も多かった。
二十二日に開かれた利根川水系河川整備計画の全体公聴会では、意見を「聞き置くだけ」という会議のあり方に、多くの公述人から不満が出た。以前から議論への参加を求めていた市民団体「利根川流域市民委員会共同代表の嶋津暉之さんは「今回の公聴会は一方向だ」と批判。「よりよい計画をつくるには十分に議論する場が必要。双方向の公聴会になることを求める」と述べた。
茨城県取手市の男性も「河川法の初心に帰り、住民参加の淀川方式の採用を強く希望する」と要求。千葉県佐倉市の女性は、双方向の意見交換の場として市民も交えた公開討論会の開催を提案した。
公述人に現職の首長が入っていたことについて記者団に真意を尋ねられた国土交通省関東地方整備局の渡辺泰也河川調査官は、「地域や意見のバランスを考慮した。たまたまだ」と話した。
解説 市民との対話進めよ
五つのブロックに分断されていた利根川水系河川整備計画の有識者会議が二十二日、初めて合同で開催され、公聴会も水系全体を対象に開かれた。地域ごとに異なる利害を抱えた関係者が一堂に会したことは、当初の予定になかったことからすれば一歩前進といえるだろう。
しかし国土交通省の衣の下には「よろい」が見え隠れする。市民団体が求めていた議論への参加は、相変わらず実現しないままだ。整備計画を固める前に情報を共有する場はあって当然。その上で治水や利水、河川環境に深い知識を持つ非政府組織(NGO)の議論参加が求められている。
国交省はこの日発言した十人の公述人の意見を、聞き置くだけではいけないはずだ。だが当の市民団体がそれを恐れている。「河川整備計画に住民の意見を反映させる改正河川法の趣旨に反する」と、声を上げている。
関西では「市民参加のモデルケース」とされた淀川水系流域委員会が一月、国交省の意向で休止に追い込まれた。流域の五つのダムすべての中止を提言したことから、国交省が影響力を懸念したためとされる。利根川で国交省が市民団体を議論に参加させないのは、淀川と軌を一にしている「河川行政の退行」と取られても仕方がない。
利根川水系は、いくつもの大きな問題を抱えている。本県だけでも三つのダム計画に対し住民訴訟が起こされており、新たに浮上した渡良瀬遊水地の大規模掘削計画も賛否両論が渦巻いている。
国交省は何よりも「よろい」を脱ぎ捨て、市民団体との対話を進めるべきだ。公述人の意見を無駄にしないためにも、有識者会議には国交省に働きかける責任がある。 (小山総局 宗像信如)